愛犬2匹と向き合い、信じる 悩んで学んだ末にようやく手に入れた「多頭飼育の幸せ」
体の弱い愛犬のために自然豊かな土地への移住を考えた家族。のびのびとした環境でもっと楽しく幸せになってほしいと、「きょうだい」として新しい子犬を迎えることに。しかし、ハイパーすぎて手に負えない子犬に家族も先住犬も途方に暮れ、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長に助けを求める。
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「比べない。ちゃんと見る。そして、信じて」
(前回のお話はこちら)
緊張と不安が強いお母さんに危機感
ほとんど寝ることなく狂ったように走り回り、先住犬のポメラニアンのポン太くんに激しい体当たりを繰り出してきた桃ちゃん。UGでの社会化お泊まりが始まった。
「1週間でどうなるのか、正直予想が難しい子だった」と高橋店長。
それは、桃ちゃんがミックス犬だからだ。以前登場したルルくんと同じ、マルチーズとトイプードルのミックス、マルプー。ここ数年、根強い人気を誇っている。
「『ミックス犬は両親のいいとこ取りで飼いやすい』と言われ、そのセールストークもあって人気が高まっていますが、逆に両親の犬種のいいとこではない面、たとえばトイプードルの神経質さとマルチーズのよく吠えるという性質を受け継ぐこともある」と店長。
UGのSNSや店長ブログには、突然キレて噛みつく「家族襲撃型のマルプー」がよく登場するが、1500匹以上の犬を見てきた店長ですら「ミックス犬は一筋縄ではいかない子が少なくない」という。
「桃ちゃんにはそこまでの危うさは感じなかったものの、マルプーならではの頭のよさ、そして強さがあった。体の弱いポン太くんが生活してきた環境では、有り余るエネルギーが発散できなかったのでしょう。お泊まりの間は同じ子犬同士でとことん遊んで心も体も解放し、犬社会のルールを学び、ガマンすることを覚える。まずはこの基本を徹底しました。と同時に、お母さんに変わってもらう1週間でもあった」
店長は、桃ちゃんよりも緊張と不安が強いお母さんに危機感を覚えたのだ。
「当たり前ですが、ポン太くんと桃ちゃんは違う。別の犬です。ポン太くんと比べて否定しても意味がない。桃ちゃんをしっかり見てほしい。桃ちゃんを信じてあげてほしいーー。お母さんには何度もそう伝え続けました」
ハイパーさは愛すべき個性だと気づいた
桃ちゃんは最初こそぎこちなかったものの、すぐにほかの犬と遊べるように。家では寝なかった桃ちゃんも、たっぷり遊んで満足し、夕方には爆睡するようになった。
「群れに慣れてくると同時に、ほかの子に吠えるようにもなりました。その体力をお散歩で発散させようと連れ出したものの、固まってしまい歩けない。プライドが高く警戒心が強い証拠です。でも慌てません。桃ちゃんは頭がいいのだから、一つ一つ見せて納得させ、慣れていけばいい」
UGからは、桃ちゃんの様子がたくさんの写真と動画で送られてきた。激しく遊ぶ桃ちゃんの様子に「本当に子犬らしくて楽しそうで……。今までは体力も元気も持て余していたのかもしれない。私は、そのことに気づいてあげられなかった」とお母さん。
1週間のお泊まりという時間と距離ができたことで、桃ちゃんのこと、自分のことを客観的に見ることができたという。
「ポン太しか知らなかった私は、桃が異次元の犬じゃないかと怖く感じることがありました。でも、UGの中では異次元でも特別でもなんでもなかった。元気さ、ハイパーさは桃の愛すべき個性なんだと思えるようになっていきました」
お迎えの日。すっかり体力を使い切った桃ちゃん、店長からの話を聞くお母さんの足元でまどろみ、やがて寝てしまった。初めて見る姿にお母さんはビックリ! 「寝た! 動いてない!(笑) そして、桃はこんな顔で寝るんだと。安心感を与えてあげなかったことが申し訳なくて、切なくなりました。桃が変わったんだから私も変わらないと」
店長からはこう励まされた。
「まだまだ色々あると思います。1歳までがんばりましょう!」
お母さんの変化が、2匹の関係を変えた
帰宅後、桃ちゃんは相変わらずやんちゃではあるものの、落ち着く時間が格段に増えた。夜はケージに入れると、すぐに寝ないまでも吠えなくなった。
UGで頑張ったことを無駄にしないようルールを決め基本トレーニングに励む日々。しかし、少しルールがあいまいになるとすぐ元に戻ってしまう。「1歳までがんばりましょう」という店長の言葉を信じ、桃ちゃんはアフターケアに通った。
「桃ちゃんは他の子から体当たりされると怒るんです。それは、これまで桃ちゃんがポン太くんにやっていたこと。桃ちゃんは群れの中で『やられて嫌なことはやっちゃダメなんだ』というルールを学んでいきました」
表情も変わっていったという。
「以前の桃は、ずる賢さというか計算高さというか、そういう目をしているように感じていました。今思えば私たちが緊張させていたし、何より私が桃のことを疑っていたのだと思います。それがUGで発散するようになってから目に明るさが宿り、表情が豊かに。心からかわいいと思えるようになりました」
お母さんが変わり、桃ちゃんが変わるとともに、気づけばポン太くんとの関係性も少しずつ変わっていった。ポン太くんの桃ちゃんへの吠えが少なくなったのだ。すると、桃ちゃんがポン太くんを頼るように。
「桃は警戒心が強いせいか、外に出ると震えて歩けなかったのですが、ポン太と一緒だとお散歩が大好きに。ウサギみたいにピョンピョンと楽しそうに跳ねながら、ポン太の後をついて行くようになりました」
今では、寝ているポン太くんの近くに桃ちゃんがそっと寄っていったり、ポン太くんは桃ちゃんにおもちゃを譲ったり、お互いを思いやれるようになったという。
「桃はUGの犬の群れと、そしてポン太からいろんなことを学び、成長しました。1歳を過ぎた今、お兄ちゃんのポン太のことが大好きで仕方ないみたい」
お母さんはそう言って目を細めた。しばらくは東京と地方を行き来しながら、近い将来、ポン太くん、桃ちゃんがのびのびと暮らせる自然豊かな地での生活がスタートする予定だ。
安易な考えにあえて苦言 「多頭飼育は本当に幸せ?」
「桃ちゃんもお母さんも本当に頑張りました。何よりお母さんの意識が大きく変わリ、その思いをポン太くんが受け止められるようになった。みんなで乗り越え、強い家族になりましたね」と店長もうれしそう。しかし、その上であえてこんな疑問を投げかける。
「多頭飼いさえすれば必ず幸せになる、本当にそうですか?」
その真意はこうだ。
「犬と飼い主に相性があるように、犬と犬にも相性はあり、必ずしも最初から仲よくできるとは限らない。先住犬も新しい子もどちらも強ければなおさらです。また、先住犬がいい子だと、飼い主さんが比較して新しい子を『問題犬なのでは?』と疑ってしまうことも。それでノイローゼになったり家の中がギクシャクしてしまったりしたら、果たして幸せと言えるのでしょうか?」
実は最近、1匹目で手を焼いたにもかかわらず、すぐに2匹目を迎えてうまくいかなくなり、「こんなはずじゃなかった」と店長に泣きついてくる飼い主が続いているという。
「1匹目を僕が見たお家だと、正直、地味に傷つきます。飼う前に相談してくれたらアドバイスできたのに……」。だから、安易な多頭飼いにはあえて苦言を呈したのだ。
店長は、自身もコーギーのジャック、フレンチブルドッグのボルドーを多頭飼いした経験があり、その楽しさも幸せも、もちろん苦労も知っている。だからこそ、安易に考えてほしくないと願っているのだ。
「多頭飼いもそうですが、ほかの家や犬と比べる必要はありません。飼い主さんも犬も、それぞれが心地よく家族がみんな笑顔で過ごせればいい。そのためには、先住犬も新しい子のことも、その子のことをしっかりと見て、やるべきことをやる。そして、犬を信じる。それ以外に近道はないのです」
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