激しい「尻尾追い」をする黒柴の子犬 ある日、帰宅したらケージの中が血の海だった

 吠える、噛む、お散歩が上手にできない……。手に負えない子犬に困り果ててしまう飼い主は少なくない。そんな子犬と家族を笑顔にしようと、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長は日々奮闘している。今回は、柴犬に多い「尻尾追い」を悪化させた子犬とその家族の物語。

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。

「あきらめる前にできることを考えよう、できることから始めよう!」

(末尾に写真特集があります)

ショップでの様子とは違う騒ぎように戸惑い

「オレは柴犬がいいな」

 犬を家族に迎えようという話になったとき、お母さんはトイプードルがほしいと思っていたものの、お父さんのその一言で柴犬を探し始めた。

 ネットで検索する中、あるペットショップの2匹の柴犬に目が止まる。すぐに会いに行くと、おとなしい赤柴と元気いっぱいの黒柴が。「やんちゃな黒柴がとにかくかわいくて」。出会った日のことを振り返り、お母さんは目を細める。

黒柴の子犬
子犬時代のポワくん。確かにやんちゃそうな表情(お母さん提供)

 1週間後。連れて帰るためキャリーに入れようとすると、子犬は大騒ぎ。「ギャーギャー! と、なぜかネコのような鳴き声で騒いで暴れて……。初めて会ったときは元気は元気だったけれど、ちょっと様子が違うなと戸惑いました」とお母さん。

 家に帰りケージに入れると、ひどく夜鳴きした。安心させようとケージの隣で寝てみるなどしたが、ペットショップから「2週間はケージから出さないように」「あまり構い過ぎない」と言い渡されたことを、お母さんはきっちりと守った。

お母さんを悩ませた、激しい「尻尾追い」

 2週間後。いよいよケージから出すと、エネルギーとストレスがたまりにたまっていたのか、子犬はひどく興奮して走り回り、暴れまくったという。

 元気な黒柴の男の子は「ポワ」と名付けられた。由来はフランス語の「豆」を意味する「pois」。「男の子なのに、娘が『まめこにしたい』と言うので、ほかの国の言語を調べる中で響きがかわいい『ポワ』にしました」とお母さん。

 ポワくんは甘噛みもひどく、お母さんの手にはそのころの傷跡が今も残っている。しかし、それ以上にお母さんを悩ませたのが「尻尾追い」。当初はウンチがしたくなるなどお尻が気になるとクルクルと回り、追いかけるように。やがて、自らの尻尾を攻撃するようになった。

「やめさせたいけれどどうしたらいいのかわからず、オロオロするばかりで……」

Video Player is loading.
Current Time 0:00
Duration 0:00
Loaded: 0%
Stream Type LIVE
Remaining Time 0:00
 
1x
    • Chapters
    • descriptions off, selected
    • subtitles off, selected
      お家にきて1週間後、ケージの中で尻尾を追っているポワくん(お母さん提供)

       ある日、強めに噛んでしまい出血。慌てて動物病院へ駆け込むと、獣医師からは「尻尾追いが悪化する場合、断尾するか、薬を使うか、サプリメントと行動療法を組み合わせるという方法がある」と説明されたという。

       ポワくんのように尻尾を追いかけたり噛んだりすることは「常同行動」と呼ばれ、体や脚をなめ倒したり、グルグルと徘徊したり、何か一つのこと、一つの素材に執着し同じ行動を繰り返してしまう。犬に限らず猫にも見られる。

       尻尾追いは柴犬に多いが、犬種に関わらず身体的疾患、精神疾患、遺伝的要素、飼育環境や飼い主との関係など、その原因は様々だ。原因を見極め排除することが基本となり、ポワくんが獣医師から提示された治療法が一般的だ。

      「断尾なんて考えられなかったし、子犬のポワに薬を使うのもためらいがあって。サプリと行動療法なら……と考え始めました」

       どうするか迷う中、お母さんはプロのトレーナーの意見を聞いてみようと思い立つ。ネットで探したトレーナーに電話カウンセリングを受けると、「もう、山ほどダメ出しをされました」。

       たとえば? 「国産のドッグフードはダメ、おやつをあげてはダメ、家族が食事するのを見せてはダメ……」。実は、カウンセリングで言われたことをあまり覚えていないという。

       真面目なお母さんは、ペットショップの店員から言われたことも、トレーナーから言われたことも、全部守った。ところがその後、あまりにもショッキングな出来事が起きてしまい、当時の記憶が飛んでしまったのだ。

      黒柴の子犬
      お家にきて約1カ月後。このころはまだ尻尾もふさふさ(お母さん提供)

      家に帰ると、断末魔のような絶叫が

       ポワくん月齢3カ月のある日、どうしても家を空けなければならない用事ができた。お母さんは悩んだ末、エリザベスカラーはつけずに出かけた。

       ケージに入ることをストレスに感じるポワくんにさらに負担をかけるのはかわいそうだったこともあるが、触られると暴れるポワくんにカラーをつけることが難しかったという事情もあった。

       用事を終え急いで帰宅。ドアを開けると、家の中から断末魔のような絶叫が聞こえてきた。さらに、鼻を突く血の匂い。駆けつけると、ポワくんは自分の尻尾をズタズタに噛みまくり、ケージは血の海に。

       目も当てられないような惨状に茫然自失になりそうになりながら、お母さんはパニック状態のポワくんを抱え救急病院に駆け込む。

      「噛まれても暴れられてもエリザベスカラーをつけていけばよかったと心から後悔しました。ポワがかわいそうと言いながら、守ってあげられなかった……」

       当時を思い出し、お母さんは苦しそうに言葉を詰まらせる。応急処置が終わったときには、深夜になっていた。ポワくんは落ち着いていたこともあり、朝まで入院することに。

      「私が震えと涙が止まらず、精神的にあまりにも不安定だったので、病院にお願いしました」。しかし、お母さんはポワくんが心配で、一睡もできず朝を迎えた。

      傷だらけの黒柴の尻尾
      尻尾追いをしていたころポワくんの尻尾。ふさふさの巻き尾が特徴の柴犬とは思えない、痛々しい状態(お母さん提供)

       そして、思い切ってUGに電話をかける。これまでインターネットを検索する中で、高橋店長のブログは何度か読んだことがあった。

      「『柴犬 甘噛み』で検索したときも、『柴犬 尻尾追い』で探したときも店長のブログに行き当たり、あ、まただ、と。もうこの人に救いを求めるしかない。必死でした」

       泣きながら顛末を話すと、電話口の高橋店長は「お店に来ませんか?」。一家は取るものも取りあえずポワくんを連れてUGへ向かった。家族の悲痛な話を聞き、店長はこう伝える。

      「あきらめるのはまだ早い。今できることをやりましょう!」

      (後編はこちら

      【関連記事】
      愛犬の激しい尻尾追いと、あきらめず向き合った1年 家族に笑顔が戻り、涙の“卒業”
      ハイパーな赤柴、キレる黒柴 家族全員を血祭りに、前途多難な多頭生活

      (この連載の他の記事を読む)

      高橋信行店長 プロフィール
      物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
      UG DOGS アトラスタワー中目黒店
      住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
      TEL:03-5708-5592
      営業時間:11:00~20:00(年中無休)
      公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
      店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
      ※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。
      中津海麻子
      フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

      sippoのおすすめ企画

      【出展受付中】sippo EXPO 2025

      9/26-28@東京ビッグサイトで開催!ほかでは出会えない1万人のペット関心層が来場

      この連載について
      だから犬って最高だ!
      「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
      Follow Us!
      犬や猫との暮らしに役立つ情報をお届けします。