犬猫の慢性腎臓病 発症してから亡くなるまで、飼い主ができることは【獣医師監修】
いつかやってくる愛犬、愛猫との別れに備える連載『病気別・犬猫の最期』。第2回は、高齢になった犬と猫の命を危うくする「慢性腎臓病」です。田園調布動物病院院長の田向健一先生に、慢性腎臓病の初期から末期までの治療やケア、亡くなり方までをうかがいました。
犬や猫の病気のことを知らないまま治療に進むと、いざというときペットにとって良い選択ができず、看取(みと)った後にペットロスや後悔を抱えることになってしまうかもしれません。犬猫に多い慢性腎臓病について知っておきましょう。
第1回はこちら
愛犬、愛猫を穏やかな最期へ導くために飼い主ができること
慢性腎臓病は進行しなければ検査に異常が現れない
犬猫の腎臓は背骨を挟んで左右に2つあります。腎臓の最も大切な働きは、体内の老廃物や有害物質を尿として排出すること。その他にも体内の水分やナトリウムのバランスを調整したり、赤血球を作ったりする役割もあります。尿はネフロンという組織で作られ、人間が100万個、犬が80万個、猫が40万個です。
高齢の犬猫の命を危うくする「慢性腎臓病」は、ネフロンの減少によって腎臓の機能が衰え、老廃物などが体内にたまって全身に障害を起こす病気です。気持ちが悪くなって食欲が低下したり、体内の水分のバランスがとれずに多飲多尿になったりします。
慢性腎臓病は血液検査で老廃物の「BUN/血中尿素窒素」「クレアチニン」の数値や、尿検査(尿比重・尿たんぱく)を行うことで見つけられます。ただし腎臓は2つあるため、病気になってもすぐには症状が現れません。クレアチニンに異常が出た時点で腎臓の50%の機能が失われているのです。近年は25%の段階で検出できる「対称性ジメチルアルギニン/SDMA」という血液検査項目も注目されています。
犬猫の腎臓の異常、早ければ7~8歳で始まる
慢性腎臓病の場合、私の病院では健康診断で見つかるケースが半数。もう半数は病気の症状に飼い主さんが気づいて来院したケースです。診察していると犬も猫も10歳をすぎたころから増える印象があるので、ネフロンの減少には老化の影響も考えられます。自然発生的に起きるもので、飼い主さんの責任ではありません。
初期は検査に異常が現れないので、7、8歳ころには慢性腎臓病の進行が始まっている可能性も。猫はさらに若い段階でも発症することがあります。犬猫を迎えてからわずか数年では病気のことを考えられないと思いますが、飼い主さんには早めに知っておいてほしい病気です。
前提として、慢性腎臓病は治りません。飼い主さんは「治療すれば病気は治る」と思いがちですが、慢性腎臓病の治療は緩和ケアや対症療法。犬猫に残された腎臓の機能をできる限り維持して寿命をのばすのが治療です。
彼らの病気が完治しないことを受け入れられない飼い主さんは、あちらこちらの動物病院へ転院を繰り返すことも。不安になる気持ちもわかりますが、かえって愛犬や愛猫に負担をかけていませんか? 飼い主さんは慢性腎臓病を理解したうえで獣医師と相談して、そのときに必要な治療を進めてくださいね。
初期:早めに治療を開始したほうが長生きできる
■症状
- 体調の変化はほとんどない
- 飲水量や尿が少し増えたりする
- 食欲が少し減ったりする
寿命は犬猫によりますが、初期の発症から数年です。慢性腎臓病がわかった段階で、飼い主さんは愛犬の老いや病気への理解を深め、看取りのことを意識してください。かかりつけの動物病院で相談するのもいい方法です。
■治療
- 食事療法食に切り替える
病気の症状がない場合、飼い主さんは犬猫の治療を避ける傾向があるものの、慢性腎臓病の研究では食餌療法を早く始めたほうが長生きできるとされています。積極的に食餌療法を検討しましょう。
■自宅でのケア
- 獣医師に処方された食事療法食を食べさせる
- おやつを控える
慢性腎臓病の食事療法食は犬猫にとっておいしくないため、初期の段階でも食べさせる工夫が必要になるかもしれません。
中期:食欲不振や元気消失などの症状が現れる
■症状
- 飲水量が増える
- 尿が薄くなり量が増える
- 食欲が落ちた
- 毛ツヤがなくなってきた
- 体重が少し減ってきた
- 元気がない
体内に老廃物がたまってくるので、血液検査でBUNやクレアチニンの濃度が上がります。尿量と共に飲水量も増える多飲多尿の症状が起きるほか、気持ち悪さが増してさまざまな症状が現れます。
■治療
- 初期と同じく食事療法食を続ける
- 血圧を下げる薬を飲む
- 定期的に皮下点滴を行う
皮下点滴で体に水分を入れて老廃物の排出をうながし、食欲を取り戻します。犬猫の皮下点滴は獣医師の指導のもと、飼い主さんが自宅で行うこともできます。
■自宅でのケア
- 食事療法食を食べさせる工夫をする
- 薬を飲ませる
- 水を飲ませる
犬猫の食欲が落ちて食事を口にしたがらなくなってきます。獣医師と相談して食欲が出る食べ物を加えるのも一案です。薬を嫌がる犬猫もいるので、嗜好性の高いおやつ包んだりして飲ませ続けることも大切です。
末期:入退院を繰り返して死に近づく
■症状
- ぐったりしている
- 脱水している
- 嘔吐(おうと)する
- 食べない
- 貧血で唇が白くなる
腎臓の機能が10分の1以下に低下し、老廃物や有害物質をほとんど排出できなくなる「尿毒症」の状態です。犬猫は気持ち悪さや体のだるさでぐったりして動かなくなり、意識障害が起きることもあります。
■治療
- 中期と同じ治療を行う
- 嘔吐を抑える制吐剤を処方することもある
- 貧血を改善させる注射を打つこともある
- 動物病院に入院して静脈点滴を行う
症状が悪化したら動物病院に一時的に入院して血管から点滴を入れる静脈点滴を行い、老廃物の排出を助けます。食欲が出て多少回復した段階で退院させて自宅に戻します。ただし入退院を繰り返すうち徐々に回復しなくなっていきます。
■自宅でのケア
- 犬猫が食べたいと思う食材を探す
- 少量で栄養が摂れる食材を探す
- ゆっくり休ませる
末期になると犬猫の寝ている時間が長くなり、何も食べなくなり、死に近づいていきます。犬猫が食事や薬を嫌がるなら、口をこじ開けてまで与えるのは控えたほうがいいかもしれません。
人間だって本当に具合が悪いときには、近くであれこれ世話を焼かれるよりもそっとしておいてほしいと思いますよね。私は犬猫が慢性腎臓病の末期になったら、無理をしないで一緒の時間を過ごしてくださいと伝えています。
ただし、治療をやめるのは病気に負けたと認めることだと考える飼い主さんや獣医師もいます。考え方はそれぞれで正解はありません。だからこそ犬猫の病気がわかった段階で、獣医師と治療や看取りについて話し合うことが大切なのです。
亡くなるときは老衰に近い眠るような死に方
慢性腎臓病による死が近づいたときは、「食欲がまったくない状態が1週間以上続く」「寝ている時間が長い」「嘔吐を繰り返す」といった状態になります。
犬猫が亡くなる前日や当日には血圧が下がるので、口の粘膜が白くなってきます。私は飼い主さんに犬猫が亡くなる兆候を伝えて、看取りの方法や場所の相談をしています。最期が近いことを伝えなければ、飼い主さんはいつまでも「生」にこだわって犬猫とのお別れの準備ができないからです。
慢性腎臓病の死に方は、だんだん動かなくなって寝る時間が長くなって眠るように亡くなることが多いと思います。犬猫の最期はおそらく意識がもうろうとしているので、そこまで気持ち悪さを感じないかもしれません。老衰や自然死に近い死に方だと思います。
看取り方
「腕の中で看取らなければ犬猫がかわいそう」と思い込んでいませんか? 飼い主さんの気持ちとしては腕の中が理想かもしれませんが、犬猫を静かに見守ることも看取り方のひとつです。
最期が近づくと、犬猫の体をほんの少し動かしただけで呼吸が止まってしまうことがあります。また、家族が不在のときに亡くなることも少なくありません。病気の末期はささいな刺激が亡くなるきっかけになるので、「自分が動かしたせいで」「最期に見送れなかった」と自責の念をもたないでくださいね。亡くなったときが愛犬、愛猫の寿命です。
なかには「ペットの死を見るのがつらいから」と、動物病院に入院させる飼い主さんもいます。看取り方はさまざまですが、私は十数年を共に暮らした犬猫の死を飼い主さんには何らかの形で見届けてほしいと思っています。
【前の回】愛犬、愛猫を穏やかな最期へ導くために飼い主ができること
- 監修:田向健一(たむかい・けんいち)
- 獣医師。幼少期からの動物好きが高じて、学生時代には探検部に所属時、アマゾンやガラパゴスのさまざまな生き物を調査。麻布大学獣医学科卒業後、2003年に田園調布動物病院を開院。『珍獣ドクターのドタバタ診察日記: 動物の命に「まった」なし! 』 (ポプラ社ノンフィクション)をはじめ、犬猫およびエキゾチックアニマルの飼い方に関する著書多数。田園調布動物病院
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