体の弱い先住犬とハイパーすぎる後輩犬 うまくいかない多頭飼育に、湧きあがる罪悪感

 犬と犬とが楽しそうに遊んだり、寄り添って昼寝したり。SNSには多頭飼いの幸せそうな写真や投稿があふれている。しかし、もしも先住犬と新しく迎えた犬の相性が悪かったら?

 今回は、病気を乗り越えた愛犬を思い「きょうだい」を迎えることを決めたが、やってきた子犬が一筋縄ではいかないハイパーすぎるミックス犬だった……そんな家族の物語。UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さんは問いかける。

「多頭飼いがうまくいかない理由は、飼い主さんの意識の問題もあるかもしれない」

(末尾に写真特集があります)

生死をさまよったこともある、体の弱い先住犬「ポン太」

「ポン太がもっと楽しく暮らせるようになるといいな」

 新幹線の中、お母さんはキャリーケースの中のポン太くんにそう語りかけた。一人と一匹は、東京から一路、新しい「家族」を探しに九州へと向かっていた。

 ポン太くんは、ペットショップで1歳近くまで売れ残り、何店舗もたらい回しにされていたポメラニアンの男の子。ショップが店じまいすることもあり、保護するかたちでお父さん、お母さんの元にやってきた。今から5年前のことだ。

「栄養状態が悪く毛もまばらで、目に表情がない。子犬らしく走り回ることなく、とても『かわいい』という感じではありませんでした」とお母さん。

 さらに、ポン太くんには先天的にひざと頸椎(けいつい)に病気があった。「なんとか元気に、健康に、そして幸せにしてあげたい」。しかし、家に来てからも骨が弱く骨折してしまい、3歳のときには膵炎(すいえん)を患って生死をさまよったことも。

 お母さんは犬の栄養学やマッサージについて猛勉強し、信頼できる獣医師を探し、水中リハビリに連れていくなど、できることはなんでもやった。その頑張りもあり、ポン太くんは皮膚の状態も改善しモフモフの毛のかわいい姿に。体調も安定し、愛くるしい瞳でお母さんと会話ができるほどに成長した。

ポメラニアンのポン太くん
ポメラニアンのポン太くん(お母さん提供)

 ポン太くんと心を通わせる中で、お父さんお母さんは東京での暮らしに疑問を持ち始めていた。「人間に都合がいい都会は犬と暮らすには不便なことも多い。ポン太と一緒に出かけられる場所、一緒にできることがどうしても限られてしまう」

 そもそもポン太くんを迎えようと決めたのは、お父さんとお母さんが自分たちなりの「家族」のかたちを作ろうと考えたことがきっかけだった。

「改めて家族としてこれからどうしていきたいのかに思いを巡らせたとき、私たちはもちろん、ポン太がもっと幸せに暮らせる場所を探そうと考えるようになりました」

 折しも新型コロナウイルスが世界を襲い、東京に拠点を置かなくても仕事ができるようになった。自然が豊かで犬に優しい街に足を運び、移住への思いを強くする。

「好き嫌いがはっきりしているポン太がいつも機嫌がよく、体調もとても落ち着いていた。それが決め手となり本格的に移住先を探し始めました」

おとなしいことが決め手になり迎えたマルプーの女の子

 そんな中、お父さんが時折こんなことを口にするようになった。

「ポン太にきょうだいができたらなぁ……」

 ポン太くんと一緒に暮らしたことで、犬のかわいさ、犬とともに生きる大きな幸せを感じたのだ。が、お母さんはすぐには同じ気持ちにはなれなかったという。

「確かに多頭飼いになったらもっと楽しくなるかもしれない。でも新しい犬が来ることがポン太にとってストレスになり、せっかく落ち着いている病状がぶり返してしまうんじゃないか……と」

 そんな複雑な思いを抱えながら、犬たちがのびのびできる環境ならば2匹目もと考え始める。ペットショップ以外からと保護犬に関する情報を探し始めたものの、しかし、なかなか条件が合う犬に出会えない。

 すると、仕事で縁のある九州で、普通の家庭のようなアットホームな環境で愛情たっぷりに犬を育て繁殖している人がいると知る。しばらくすると、マルチーズとトイプードルのミックス、マルプーの子犬が3匹生まれたと連絡が。

「写真の中の1匹の子犬に目が止まりました。一番大切なことはポン太と相性がいいこと。夫が快く送り出してくれたこともあり、九州までポン太も一緒に連れていくことにしたのです」とお母さん。それが冒頭のシーンだ。

 2匹が元気いっぱいで走り回る中、写真で見た女の子はきょうだいの後ろに隠れたり、ソファの間に身を隠したり。

「ポン太の性格を考えるとおとなしい子がいいな、と。何より、ほかの2匹には引いていたポン太が、その女の子には自分からあいさつに行ったのです」

マルプーの桃ちゃん
送られて来た写真。このかわいさに心引かれ、お母さんは会いに行くことを決める(お母さん提供)

すごすぎるハイパーぶりに「まるでエイリアン」

 それからほぼ1カ月後。「桃」と名付けられた月齢3カ月のマルプーの女の子は飛行機に乗って東京へ。自宅に到着すると、最初こそおとなしくしていたが、午後には早くもすっかり慣れた様子で、まるでウサギのようにぴょんぴょんと跳ね回ったり、大きな鹿の骨をガリガリ噛んだり……

「あれ? この子、本当にあのときの女の子?と思うほど、九州で会った時とは別犬で(笑)。ちょっと混乱しました」

 じっとしていることができず抱っこすることもできない。そして、寝ない。ケージに入れると「出せ出せ!」と吠え、やっと寝たかと思うと早朝には「出せ!」と吠えまくり、お母さんは激しい寝不足に。そんな桃ちゃんに戸惑ったのはお父さん、お母さんだけではなかった。

「桃が勢いよくお尻でぶつかってポン太にちょっかいを出すんです。うちでは『ヒップアタック』と呼んでいましたが、あまりのしつこさにポン太は吠えるし、注意しても桃はやめないし……。ひざや首に持病のあるポン太に何かあったらどうしよう、どうしたらやめさせられるんだろうと、どんどん不安になってきました」

桃ちゃんの激しい攻撃を避け、部屋の隅でグルグル回るポン太くんの姿が切ない(お母さん提供)

 ポン太くんをかばうと、桃ちゃんはめげるどころかさらにパワーアップ! お父さんは「まるでエイリアンだな」と驚き、お母さんはポン太くんと一緒にほかの部屋に逃げるほどに。

「桃を受け入れる余裕がなくなり、ポン太に対してはつらい思いをさせているのではと罪悪感を抱いてしまい……。2匹に対してきちんと向き合えず、心のバランスを失っていきました」

あっという間にUGの群れになじんだ桃

 桃ちゃんを迎えて2週間。この状況は自分たちだけでは解決できないと、以前から気になっていたUGでカウンセリングを受けることに。

 お母さんが店長に伝えたのは「先住犬のポン太と仲よく暮らせるようにしたい」。

店長は「桃ちゃんはうちに来るマルプーとしてはそれほどヤバいタイプではないかな、と。ポン太くんにもポメラニアンらしい気の強さがあるので、一方的にやられているだけでは終わらないはず。少し様子を見てみては?とお伝えしました」と振り返る。

 お母さんはいったんUGを後にするが、桃ちゃんの止まらないヒップアタックに危機感を募らせ、その動画を店長へ。思っていた以上にポン太くんがやられていたこと、そして、不安が強いお母さんの様子に、店長は桃ちゃんを預かることを決める。

 桃ちゃんは、最初こそブルブル震えていたが、あっという間に慣れて犬の群れの中をルンルン歩き始めたという。その様子に「ウケました」と笑う店長だが、「やはりマルプーは読めない」。

遊ぶマルプーの桃ちゃん
「楽しいですかー?」「はーい」(UG提供)

 最近、先住犬と新しく迎えた子犬との仲がうまくいかないという相談が増えているという。店長はこんな疑問を投げかける。

「多頭飼いさえすれば必ず幸せになる、本当にそうですか?」

(後編に続く)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト店長ブログFacebookInstagram
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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