お気に入りのキャットタワーの上でくつろぐ「まこ(仮名)」(東京都人と動物のきずな福祉協会提供)
お気に入りのキャットタワーの上でくつろぐ「まこ(仮名)」(東京都人と動物のきずな福祉協会提供)

マンション前に遺棄された元繁殖猫 先住犬のいる家族と第二の人生をスタート

 東京都全域を活動エリアとする動物福祉団体「一般社団法人東京都人と動物のきずな福祉協会」は、約2年前、千代田区で活動する「特定非営利活動法人ちよだニャンとなる会」の代表者が活動範囲を広げるために立ち上げた非営利団体だ。成猫や高齢猫を中心に、今は石川県能登半島で保護された猫を含めた約30匹の猫が在籍している。

 2024年3月、業務執行理事を務める古川尚美さんの元に、都内で遺棄されていた1匹のベンガル猫がやってきた。推定8歳、体の状態から元繁殖猫だと推測されたその猫の名前は、「まこ(仮名)」。保護当時の様子から譲渡先が見つかるまでの経緯を古川さんに伺った。

(末尾に写真特集があります)

保護当時から人が大好き

 都内のマンションのドアの前に、1匹の猫がうずくまっていた。最初に保護をしたのは古川さんではなく、同じく都内で活動する保護団体『ミャオ!ねこのおうち』を主宰している鵜ノ澤(うのさわ)亜由子さんだった。

「鵜ノ澤さんから、大人の猫を保護したから助けてもらえないかとご相談があったんです。鵜ノ澤さんは当時子猫の保護が圧倒的に多く、預かりボランティアさんもすでに手いっぱい。ぜひうちでお手伝いさせてください、と預かりをお引き受けしたんです」

保護当時のまこ(鵜ノ澤さん提供)

「すぐに病院に搬送して検査をしてもらったところ、避妊手術はされておらず、子宮はボロボロ、おっぱいからは白い液体も出ていました。真菌症も患っていたので、きっとこの子は適正な飼育を受けていない元繁殖猫だったのかなと。しかも可哀想なことに、保護当時には次の発情傾向があったんです」

 まこの避妊手術はいったん見送り、真菌症の治療のため1カ月ほど入院することになった。その間に、まこの出自の手がかりはないかとインターネットで情報を集めてみると、都内でベンガル猫専門のブリーダーが廃業し、飼育していた猫を無料で放出していたことが分かった。

「高齢でもらい手が見つからず、捨てられたのでしょう」

診察台の上で獣医師になつく、まこ(東京都人と動物のきずな福祉協会提供)

 そんなバックグラウンドがあるにもかかわらず、まこは元繁殖猫にしては珍しく人も猫も好きで、何事にも物おじしない性格のいい子だった。

「保護当時も、抱っこをしたらその人の肩に乗ってしまうくらい、人に慣れていたんです。ブリーダーの元ではおそらくケージに入れっぱなしなどではなく、ある程度、開放された環境で過ごせていたのかもしれません。そこが唯一の救いでしたね」

 退院後、推定の誕生日を迎えたまこ。

「これまでよく頑張ってきたね。これからは自分のことだけを考えて、楽しい人生を送ってねと、労いと応援の気持ちでお祝いをしました」

普段はかぶせ物をしない方針だが「この時だけは」と帽子をかぶせて記念撮影(東京都人と動物のきずな福祉協会提供)

運命に導かれて 

 譲渡会にデビューすると、まこを引き取りたいという声は多かった。

「元繁殖猫を引き取りたいという方は多いんです。その際に私たちは、元繁殖猫を飼うことで起こりうるリスクを、できるだけ詳細にご説明しています。とくに避妊手術が遅れた猫は乳がんの発生率が非常に高いというデータもあります。まこに関しても、保護時の血液検査では幸い異常は見つかっていないものの、今度どうなるかは本当に分からない。普通の猫とは違う生き方をしていますから、その覚悟を持って飼ってくださる方にお譲りしたいと考えていました」

 そこで、同協会が譲渡先決定の条件としているのが、「終生飼育」をいかに真剣にとらえているか、だ。

「猫が20年生きるとして、たとえば30歳から飼い始めて50歳までの間に、飼い主のライフステージはどんどん変わっていきますよね。今の世の中、突如として経済的に困窮することもあります。ですから、譲渡時のステータスで条件を縛ってはおらず、最後まで命と真剣に向き合ってくださるか、その方の人柄を重視しています」

 最有力候補だったのが、70代と60代後半の夫婦。いずれまこの後継人となる息子家族も近くに住んでいた。

「まこが幸せに暮らしていくための条件も、そのお人柄も、じゅうぶんに兼ね備えていたご夫婦でした。ただ、まこのバックグラウンドや終生飼育のお話をしていたところ、『まこちゃんは愛くるしくて本当に可愛い。私たちと暮らしてほしい。ですが、自分たちの年齢や体力を考えると、いつか息子家族に託す日が来ます。まこのことを最優先に考えたら、私たちの選択は間違っていますね』とご本人たちから辞退をされたんです。本当に素晴らしい方々だったなと思いましたね」

シェルターでは隠れることもなく自由に過ごしていたまこ(東京都人と動物のきずな福祉協会提供)

 最終的にまこは、30代の夫婦の元へ譲渡されることに。

「保護動物に対する知識や関心もあり、最期まで愛情を持って飼育していただけると確信できたことが決め手でした」と古川さん。

「人間のエゴで不幸な人生を送ってきた猫は、人間が手を差し伸べて幸せにしていく義務があると思っています。だからこそ、ただ『可愛い』だけでなく、今後どんな状況になっても責任を持って飼い続けていく覚悟を持ってほしい。このご夫婦は、そこの信頼を感じられたんですね。すでにわんちゃんを飼っていらっしゃるとのことでしたが、まこは長年母乳で子猫を育ててきた情が深い子なので、きっとうまくやっていけるだろうと」

譲渡先では「つな」という新しい名前をもらった。先住犬の「ぽむ」と(飼い主さん提供)

 海外の保護施設では、「子猫はまだ個性が分からないうえに手がかかる」という理由で、成猫からもらわれていく。一方、「日本ではいまだ子猫人気が高く、高齢猫はもらわれにくい傾向は今後も続く」と古川さん。

「これは日本人特有の『小さくて可愛いものが好き』という文化とメンタリティが根深くあるから。私たちの元にも、なかなか譲渡先が決まらず、最期までここでのんびり過ごしてもらおうという高齢猫もいます。そんななかで、まこは、鵜ノ澤さんに保護されたことで私たちの元へきて、そして誠実な飼い主さんに出会えて……。誰に保護されて誰にもらわれていくかは、本当に運命なんだなと感じますね」

完全室内飼育の徹底を目指して

「いまペットショップが売れ残りや繁殖引退などで販売不可な犬や猫を、保護犬・保護猫と称して譲渡する悪質な下請け愛護ビジネスが問題になっています。動物は無料でもフードやトイレを年単位でサブスク契約しないといけないとか、高額な初期費用が請求されるとか。でも、それを見抜けずに、保護犬・保護猫として引き取ってしまう方が残念ながら多い。

 保護犬・保護猫を飼いたいという人は増えているものの、実際は経済的な理由であったり、ペット可の賃貸物件が少ないなどの問題で、誰しもが飼えるわけではなく、譲渡先の枠は限られています。どんな背景であれ救うべき命であることは同じですが、この下請け愛護団体の不当な譲渡によって、まこのような子や、外で暮らす子のための『貴重な枠』が埋まってしまうことが本当に悔しい」

 現在千代田区では2011年から猫の殺処分ゼロを継続中、猫の路上死は2000年と比べて9割減を達成した。

「路上死は今も減り続けてはいますが、それでも年に3、4匹は出ます。殺処分をしていないといっても、亡くなっていく命には変わりがありません。猫の完全室内飼育が徹底できる社会を目指して、今後も活動していきたいですね」

増田夕美
ライター・編集者。ホテル広報、出版社勤務を経てフリーランスに。ファッション、インテリア、カルチャーなどライフスタイル関連の雑誌、WEB、書籍の制作に携わる。動物歴は幼少期からこれまで猫2匹と犬1匹。現在は三毛猫と暮らす。

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