妻の願いで猫を迎えた 犬派の夫はスリスリされた瞬間心とろけて「なんて可愛いんだ」
妻が猫を飼いたいと言い出したのは、家を新築したのがきっかけだった。「え、猫?」と犬派の夫は思ったが、知人の保護した生後3カ月ほどの黒猫を迎えることになった。猫が足元からひざによじ登ってきてスリスリしたのは、やってきた翌日のこと。瞬時に夫の心はとろけにとろけた。「これが猫のスリスリというものか。なんなんだ、この生き物は」
やってきた子猫はすぐになついた
一也(かずや)さんは根っからの犬派である。猫を飼ったことはなく、触った記憶もほぼない。猫にはまるきり興味がなかった。4年前に妻の茜さんが、「猫を飼う」と言い出したときは、「猫か」と思ったが、反対もしなかった。
茜さんは、実家で猫と暮らしていたから、家の新築をきっかけに、また猫と暮らしたいと思っていた。だから、大学のサークルの先輩で保護猫活動の手伝いをしている夫妻から、「黒猫に興味ありますか?」と打診されたとき、すぐに見に行った。金色の目をしたちび猫には「うなぎくん」という仮の名がついていた。保護猫を家族に迎えたことがきっかけで、譲渡会の手伝いや預かりボランティアを始めた先輩夫妻が、初めて自分たちで保護した子猫だった。2日後に譲渡会に出ると聞き、その会場に茜さんひとりで行ってみた。うなぎくんは無愛想を通し、誰からも声がかからなかったことを譲渡会終了後に聞き、迎える気持ちが固まった。
一也さんと茜さんは先輩宅に出かけて行って、「うなぎくん」をもらってきた。夫があまり猫に興味がない様子を見て、茜さんは「命名権をあげる」と引き込み作戦に出た。一也さんは思いついて「もも」と答えた。それで、子猫は「百(もも)」という名になった。
百は、最初の日こそ、冷蔵庫と壁の隙間に隠れていたが、翌日にはオモチャにつられ、ふたりの前で無邪気に遊び始めた。そのうち、一也さんの足元から、ズボンに小さな可愛い爪を立ててよじ登り、ひざの上に乗ると、体をスリスリとこすりつけてきた。
「その瞬間、僕の心はとろけてしまいました。これが猫の『スリスリ』というものか。なんて可愛いんだ。猫って……こんなだったのか、と」
なんという小ささ。なんというやわらかさ。なんという無防備さ。百は、ひざの上でくつろぎ、ゴロゴロゴロと小さくのどを鳴らし始めるではないか。
『これが、猫の『ゴロゴロ』というものか。ああ、なんて可愛いんだ! どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ』
早く家に帰りたい!
百は、触らせ放題の猫で、何一つ嫌な顔をせず、ゴロゴロ言ってくれる。一也さんの猫愛は妻に負けずに膨らんでいった。
一也さんは、会社からの帰宅や休日がとても楽しみになった。
帰宅すると、まずは、こたつ布団の上で百を仰向けにする。じっと見つめるつぶらな目や、ほわほわのおなかの毛が何とも可愛い。前脚を握って、「東京音頭」なんぞを歌に合わせて踊らせてみるが、いやな顔一つしないで付き合ってくれる百がいとしくてたまらない。
こうして、百は夫妻の寵愛を浴びるひとり息子になった。
百を迎えて1年ちょっとすぎた11月のある日、夫婦で買い物に行って帰宅後、車を止めていた一也さんが「雉(きじ)の鳴き声がする」と言う。ギャーギャーに近いダミ声だ。茜さんが声のする方を探してみると、敷地内の駐車スペースに見たことのない白っぽい子猫がいる。母猫とはぐれたのか、鳴き続けて枯らしてしまったような声で鳴く。目もぐじゅぐじゅだ。手を伸ばすと、逃げて裏に回り、広い造成地を横ぎっていったが、また大回りして駐車スペースに戻っている。
衰弱しているようなので、茜さんたちは保護を決め、百を保護した先輩夫婦にSOSを出した。奥さんが捕獲器を持ってすぐに駆けつけてくれ、捕獲は成功。
獣医さんへ連れていくと、猫風邪、脱水症状、栄養失調のほか、ノミダニもいて保護しなかったら危なかったとのことだった。
「でも、うちにはもう百がいるので、体調が落ち着いたら譲渡しようと、SNSで知り合いなどに発信してもらい手を探し始めたんです」と、茜さん。
すると、夫が言うではないか。「名前は『まる』にした」と。思いもよらぬ「うちで飼う」宣言だった。
一也さんは言う。「だって、あんなに小さな体で、必死に鳴いて、ぐるり大回りしてうちに戻ってきた姿を見たら、もう」
ツンもデレも、たまらない
2匹目の猫は「円(まる)」になった。2匹は数日で仲良くなり、じゃれ合い走り回って家の中はにぎやかになった。仲のよい様子を眺める楽しみも増えた。
円は、子猫時代こそ一也さんにひっついていたのだが、大きくなってからはつれない。「かまいすぎるからよ」と茜さんは笑う。
猫好きになって3年半。今も一也さんの帰宅後の楽しみは、百くんを転がせて、話しかけたり踊らせたり。円ちゃんにせっせと話しかけたり。
「いやもう、猫だったら、ツン(円)でもデレ(百)でも、たまらなく可愛いです!」と一也さんは目尻を下げる。
「完全犬派だった自分が、これほど猫にハマるとは。犬にはない不思議な魅力がいっぱいで、ゴロゴロやスリスリは人生を変えました。いつでも一緒にいたいと思うし、猫の喜ぶことならなんでもしてあげたい」
かたわらで、茜さんも言う。
「猫がいると『つまらない1日』なんてなくなりますね。寝顔を見ているだけで『いとしいなあ』とまあるくて優しい気持ちが湧いてきます。猫沼にずぶずぶハマっていく夫を見ているのもおかしくて楽しくて」
ふたりして、家のない猫たちの境遇に思いをはせることもある。
茜さんは、円のように助けを求めている子がまたやってきたら、百と円に相談の上で迎え入れ、『玉』という名前にしようと決めている。夫はなんだかんだ言っても、すぐに陥落するだろうから。猫のいる風景は、自分たち夫婦のこれからの人生を楽しく平和に彩り、新しい発見をたくさんさせてくれるとわかっているから。
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