かみ癖がひどいコーギーの子犬 トレーナーはさじを投げ、「処分すべき」と言った
吠える、噛む、お散歩が上手にできないといった子犬の「育犬の悩み」を抱える飼い主が、東京近郊はもちろん、地方からも駆けつけるペットショップ、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)。
プロのトレーナーから「処分宣告」を受けた子犬とその家族が、UGの高橋信行店長と出会い、家族一丸となって笑顔を取り戻す物語(全3回)。
次男くんのたっての願いで迎えた「まめ」
「僕がちゃんとお世話するから。お願い!」
犬を飼うことになったのは、小学5年の次男くんのたっての願いだった。近所に住むおばあちゃんの家にいた犬が旅立ち、さみしくて仕方なかったのだ。
「上の子たちの部活も忙しいから、と言い聞かせてきましたが、動物が大好きで、将来は動物に関わる仕事がしたいという次男にとって、犬と暮らすことはいい経験になるかもと考えました」とお母さん。
おばあちゃんの家にいた犬は雑種だったが、胴長短足に長いマズルとウェルシュコーギーを思わせる風貌だった。その面影を追う次男くんの希望でコーギーを探すことに。地元では出会えず、ペットショップが東京の店で探してくれた。
ビデオ通話の画面に映るのは、元気いっぱいの月齢3カ月のコーギー。数日後、家族が暮らす中国・四国地方までやって来た子犬と対面すると、「抱っこなんてさせないワン!」というほどはっちゃけていたという。
「このぐらい元気な方がいいだろうと、お迎えすることを決めました」とお母さん。
子犬は「まめ」と名付けられた。
食器を下げるたびガブッ ごはんの時間が憂鬱に……
「最初から怯えることなく家の中を探索し、喜んで子どもたちにじゃれついていました。無駄吠えも夜鳴きも一切なし。拍子抜けするほど手がかかりませんでした」
しかし、ごはんの時間になるとまめくんは豹変した。食べている途中に家族が手を出したり、そばを通ったりすると唸り、食べ終わった食器を下げようとすると怒って噛みついてきた。お母さんは「子犬ってこんなものなのかなと、あまり気にしていませんでした」と振り返る。
まめくんは、なでられることや抱っこも嫌がった。体が大きくなるにつれ、ごはんや食器への執着はますます強くなる。お母さんは早いうちになんとかした方がいいと考え、しつけ指導をする動物病院へ。
「なめられちゃダメ」と言われ、まめくんが噛んできたら手を引っ込めるのではなく、逆に口の奥まで手を入れ「噛んだら嫌なことが起きると教えるように」とアドバイスされた。
「やってはみたものの、怖いし、噛まれたら痛いし。子どもたちにはさせられない、私がどうにかしないと……と。そう思えば思うほど、まめの朝晩のごはんの時間が憂鬱に感じるようになっていきました」
成長する中で噛みもひどくなり、血が出るほど噛まれることも。月齢半年を過ぎるころには、お母さんに抱っこされているところにお父さんが手を出すとガブッ! トイレを掃除しようとケージに手を入れるとガブッ!
パピー教室にも行ってみたが、まめくんは周りの犬が気になって落ち着かず、そこにだれかが手を差し出そうものならガブガブッ!
「教室には入会できず、『マンツーマンで見てくれるトレーナーさんに頼んだ方がいい』と言われました」
「徹底的にまめを無視してください」
ネットやSNSで評判がいいトレーナーを見つけ、出張トレーニングを頼んだ。まめくんの様子、家族の対応、家の環境を見たトレーナーからは次々と厳しいダメ出しが。
「ほとんどが、私や家族のまめへの接し方についての注意でした」
たとえば……。
- 声をかけすぎ、気を遣いすぎ。人間の子どもへの愛情の注ぎ方は犬にとっては残酷。
- リビングにケージは置かない。いつも家族から見られていると犬は緊張して落ち着くことができない。
- まめくんはリーダー気質ではないのに、かまいすぎることで家族のリーダーになることをまめくんに押し付けている。
そして、次のトレーニングまでの1週間、「犬に信頼されるため」という理由で、まめくんを徹底的に無視するように指導された。ケージから一切出さない、声をかけない、名前を呼ばない、目も合わせてはいけない。まめくんは「いないもの」として振る舞うように、と。
「愕然としました。でも、それでまめが変わるなら……」とお母さん。学校から帰った次男くんに告げると、ワンワンと泣き出してしまった。大好きなまめくんを無視し続けるのは、10歳の子にとっては酷なこと。その姿にひどく胸が傷んだが、「すべてはまめのため」と家族は心を鬼にして1週間を過ごす決意をする。
それまでかわいがってくれたお母さんが、お父さんが、お兄ちゃんお姉ちゃんたちが突然誰も相手にしてくれなくなり、まめくんも混乱しているようだった。
「家族が帰ってくると尻尾を振って喜んでいたのに、無視されるようになってからは申し訳なさそうに耳を下げてこちらを見ていました。トイレを掃除しようとケージに手を入れると、遠慮しがちにペロッとなめてきたり……」。お母さんは声を詰まらせる。
「家族みんなで楽しく暮らしたくてまめを迎えたのに、なんでこんなことになってるんやろ? って。本当につらく苦しい1週間でした」
無情な言葉に、自分を責めた
長かった1週間が終わり、2回目のトレーニング。ケージの中で元気のないまめくんを見て「成長した。効果があった」と最初こそ手応えを見せていたトレーナーだったが、お散歩の練習に出ると態度が変わった。
犬が飼い主について歩く「リーダーウォーク」を教えようとするものの、1週間ぶりにケージから出られたまめくんは興奮し、言うことを聞かない。家に帰ってくるとトレーナーに噛みつこうとした。すると、トレーナーはこう言い放った。
「この犬はペットではなく猛獣です。自宅で飼うことは危険すぎる。大きな事故が起きる前に手放した方がいい。これも経験だと思って、処分の方向で考えなさい」
あまりの驚きとショックにお母さんは泣き崩れてしまい、そのあとの記憶はほとんどないという。
まめくんと二人きりになったお母さんは、自分を責めた。
「まめは何も悪くない。私の飼い方、接し方が悪くてこんな犬にしてしまったんや。唸ったり噛んだりすることはあるけれど、普段はとてもかわいい。なのに、なんで一緒に暮らせんの?」
(続く)
- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。
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