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待合室でキャリーを床に置かないで 病院嫌いの猫に飼い主がしてあげられることとは?

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は、「猫をストレスなく動物病院に連れていく方法」について、入交先生が答えます

動物病院が嫌い

 さわやかな季節になってきました。窓を開けていると、外から入る風の香りに誘われ猫が窓辺に来ます。さわやかな風に毛をなびかせて風が運んでくる匂いをかいでいる猫を見ていると、なんだか幸せな気持ちになります。

 さて読者からの相談です。

Q. 6歳(オス)の猫がいます。尿結石になりやすく病院へ連れていくことが度々あるのですが、毎回大騒動です。病院と察すると隠れて出て来ず、つかまえようとすると猛ダッシュで逃げ回ります。クレートに入れるのに時間がかかり家を出るときにはぐったり。病院に向かっている時も動物病院の待合室でもずっと鳴いていて、ストレスなんだろうなと思うとかわいそうにもなります。互いにスムーズに病院へ行くにはどうしたらいいでしょうか。(ちよさん)

 ご相談者様の猫さんは動物病院が嫌いみたいですね。猫の身になれば、動物病院ではほかの犬猫が「たすけてー!」と騒いでいるし、警戒のフェロモンを出しているし、診察室に入ればスタッフの方に抑えられて、注射されたり触られたりするわけですから、楽しいはずがありません。猫を病院に連れていく際に、少しでも猫が怖がることがないように、ご家族ができることはいくつかあります。

まずはキャリーや車移動に慣れてもらう

「キャリー=病院」の方程式ができてしまっていると、キャリーを見るだけで怖がってしまいますから、まずは、キャリーはそもそも楽しいものだと教えましょう。準備するものは猫が大好きなおやつやおもちゃです。

Step1 キャリーを部屋において、キャリーの周りでおいしいおやつをあげたり、大好きなおもちゃで遊んであげてください。キャリーを見ても逃げなくなるまでやりましょう。

Step2 キャリーの中に入れるためには、まずはキャリーの周りにおやつを置きます。それを食べてくれたら今度はキャリーの入り口におやつを置くといった具合で、少しずつ「おやつを食べるためにキャリーに入らなくてはならない」というゲームをします。キャリーに入ったとしてもまだふたや扉は閉めないでください。

Step3 完全に体をキャリーに入れられるようになったら、キャリーの中に入っている猫におやつを連続であげ続けて、中に長い時間入っていることができるようにします。

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Step4 猫が長い時間おやつを食べながらキャリーに入っていられるようになったら、おやつを食べている間、1秒間だけふたを閉めてすぐに開けます。少しずつふたをしめる時間を延ばします。

Step5 キャリーに問題なく入れて、ふたが閉められるようになったら、ふたを閉めた状態で中の猫におやつを何回か与えます。平然と中でおやつを食べられるようであれば、キャリーを少し持ち上げて、空中でおやつを与えます。

Step6 キャリーを抱えて歩きながらおやつを与えます。

 こんな感じで少しずつキャリーに入ること、持ち上げられること、動くことを教えます。通院に車を使う方はこの後、自動車に乗せる、自動車に乗せてエンジンだかける、自動車に乗せて少し動かす、問題なくなったら一緒に少し自動車で動く、という感じに一歩一歩さらに慣らしていきます。

 ステップは少しずつ丁寧に進めていくのがうまくいくコツです。

 すでにキャリーを怖がっていてStep1からしてうまくいかない場合は、新しいキャリーを購入し、新しいキャリーで丁寧に教えましょう。

待合室でできること

 待合室に犬がいるようなら、なるべく犬の見えない場所に行きましょう。犬が吠えていたら、外で待たせてもらうのもいいでしょう。

 ご自宅からタオルを持って行って、待合室で待っている間はキャリーにかけて外が見えないようにしてもいいです。また、低く逃げられない場所にいることは一般的に猫にとって怖いことです。そのため、床にキャリーは置かないようにしましょう。

 キャリーに敷いたりかけたりするタオルに猫の安寧フェロモンである「FELIWAI(フェリエイ)」をかけておいてもいいでしょう。FELIWAIの入手は、動物病院に相談してください。

診察室でできること

 持参したタオルや敷物を診察台の上に敷かせてもらうのも、猫のストレスを少しでも減らすのに役立ちます。診察室に呼ばれて、いやがる猫を無理にキャリーから出そうとするご家族が多いのですが、それはせず、まずはキャリーに猫が入ったままの状態で獣医さんの質問に答えて、少し猫が落ち着いてからキャリーから出すようにしてもよいでしょう。

 また、上半分が取り外せるタイプのキャリーだと、上の部分を外して、猫がキャリーに入った状態で診察してもらえるので便利です。

 猫がおやつを診察室でも食べるようなら、診察を受けている間おいしいおやつを食べさせることはよいことです。

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 診察が終わったら、会計を待つ間も他の犬の存在に気を付けたり、床にキャリーを置いて放置したりすることがないように注意します。他のご家族と一緒に病院にいらしていれば、猫は先に帰ってもらったり、車に先に乗っていてもらったりしてもいいですね。

薬を検討しても

 とっても怖がってしまう、まだ練習がそこまで進んでいない、パニックしてしまう、という猫さんの場合、不安をやわらげるお薬を事前に飲ませた上で動物病院に連れていくこともできます。私も胃カメラの前は抗不安薬を飲ませてもらっていますが、同じ考え方です。恐怖を感じないように、お薬でちょっと不安を下げておくのです。

 お薬に関しては病院にお問い合わせください。我々獣医師はそうした猫のストレスをやわらげる薬のことを「PVP(pre-visit-pharmaceuticals)」と言っています。

 ただし、お薬を飲んでいたとしても、事前にキャリーにならすことや待合室での気遣い、診察室において無理強いせずにゆっくり進めることは重要です。

 全部を丁寧にやってようやく猫さんが「まあ、大丈夫かなー」と思ってくれるようになります。猫は人の2歳児と同じくらいの知能を持ちます。2歳の子どもを小児科に連れていくのと一緒です。嫌がる2歳の子を無理やり病院に引きずっていって、抑え込んで、泣いて暴れたら叱りつけて押さえつけて診察をしたら、それ以降絶対に病院に行かなくなるし、無理に病院に連れて行くと余計具合が悪くなるのと同じです。

 丁寧に、ゆっくり、病院に慣らしてあげてください。そのためには、診察しない日でも一緒に病院に行って、ご自宅から持って行ったおやつを待合室で食べて、ただ帰ってきてもいいのかもしれないですね。

洗濯ネットの使用は最大限の配慮を

 猫の脱走防止に洗濯ネットを使う方もいらっしゃいますが、洗濯ネットに入れる場合も同様に、事前にご自宅で洗濯ネットは怖くないのだと、練習しておきます。

 洗濯ネットに入れられると、猫が病院で歯向かえなくなるので、なんとなく雑に扱われがちになります。ネットに入っているときはさらに気をつけて猫の気持ちになって取り扱いましょう。2歳の子どもに暴れないように事前に手錠をつけて足を縛って病院に行っているのと同じです。これで暴れないわ、と人間中心に扱ってしまったら、猫のストレスは倍増です。

 逃走防止のためにネットを活用しているのであれば、キャリーに猫を入れて、キャリーごとネットに入れるようにすると、キャリーが壊れてしまっても、猫は逃げられないようになります。

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 猫が病院を嫌いにならないように、子猫のうちから楽しく通院をして、おやつを食べながら楽しく診察を受けていただきたいと思います。

「JSFM(ねこ医学会)」では、子猫のうちから病院になれるプロジェクトを展開していて、このプロジェクトに賛同してくださる病院が全国にあります。子猫のうちから毎月病院に行って、猫はおやつをもらって帰ってくる、人もちょっとしたギフトをもらえるプロジェクトです。「JSFM(ねこ医学会)」のサイトもぜひご覧になってみてください。

(次回は6月9日公開予定です)

【前の回】猫との暮らしは相手を知ることから その子の気持ちに寄り添い過ごす時間を楽しもう

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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