野良猫の過酷な現実 栄養足りず子猫のような小さな体で生きた猫

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。今回は、お外で暮らす猫の過酷な現実についてお伝えします。

(末尾に写真特集があります)

自粛期間が明けて子猫レスキュー急増

 世界中が新型コロナによって慌てふためく中、日本の動物福祉の根っこにある問題もあぶりだされているように感じます。今回テーマにした、猫問題も長年続く社会問題です。アニドネで支援している保護団体さんには、自粛明けから子猫のレスキュー依頼が急増しているそうです。

 アニドネのインフォメーションにも「子猫の声がする、どうしたらいいの?」とか「捕獲器はどこで貸してくれますか?」などの問い合わせが多いです。

 おそらく、自粛期間中は人々が出歩かないため見つからなかった子猫たちが、いまは人の目につき依頼が重なっていると考えられます。

「わ!かわいい猫」と思うのか「汚い迷惑猫がいる」と思うのか。住民同士の価値観も異なる猫問題。どう折り合いをつけていくのか、がとても大事
「わ!かわいい猫」と思うのか「汚い迷惑猫がいる」と思うのか。住民同士の価値観も異なる猫問題。どう折り合いをつけていくのか、がとても大事

路地裏の猫とどう向き合う?

 どこにでもありそうな、日本の路地裏の猫のいる風景。人懐っこい猫なのか、さっと逃げるシャイな猫ちゃんなのか。私が住む東京では、以前より外猫を見る回数は減ったと感じていますがゼロではありません。

 少し郊外にいけば、日常風景だと思います。自由に外を歩き、気ままでいいよね、誰かお世話をする人もいるだろうしね、と思う人もいるでしょう。一方、猫の鳴き声や糞尿被害に頭を抱える方々もいるでしょう。

 野良猫ものどかに暮らせないなんて堅苦しくて寂しい、できたら地域でめでていきたいと思うのか、人間社会に猫は迷惑なだけだから排除すればいい、できれば自分ではない誰かが、と思うのか。

 猫の存在は人々の異なる価値観がぶつかり、せめぎあいが起きがち。当事者の猫は生きたいだけ、つまり「猫問題は人間の問題」なのです。

 古き良き昭和の原風景であるかのような路地裏の猫。令和の今、どう向き合うのか。命の大切さを誰もが痛感しているコロナ禍において、いま一度深く考えてもいいテーマだと思っています。

危険と隣り合わせな野良猫たち

 この原稿を書いている6月末。本日は大雨です。こんな日、お外で暮らす猫はどこで雨をしのいでいるのでしょう。外で暮らすということは、暑さ寒さに加え、常に感染症の危険にさらされています。

 そして、生きるために食べ物を探さねばならない猫たち。かわいそうに思った方々が、置き餌をしてくれているかもしれません。だけど、毎日ちゃんと食べられているわけではないでしょう。また、都会暮らしの猫たちは常に交通事故死と隣り合わせです。

「捕獲器の数が足りない」

 アニドネの認定団体で、東京・世田谷を拠点に関東圏で保護活動を行っている、特定非営利活動法人「日本動物生命尊重の会アリス」さんの代表、金木洋子さんに、現在の保護活動について聞いてみました。

「例年よりも、猫の引き取りの相談や希望が増えています。保護数は昨年の倍近くになります。そのために捕獲器の数が足りなくなり、新しく購入をしなければなりません。不要な時には置き場にも困るので最低数に抑えたいと思っていますが、これ以上相談や対応が増えてくると追加購入をしなければなりません。

 またお外で生まれた猫は、外の寒さでほとんどが風邪をひいていて、かなり悪化をしています。このため早い段階で捕獲し治療をさせたいのですが、母猫が守っているので慎重で捕獲器にも入りにくく、やっと捕獲が出来ても体調が悪いので治療してからの譲渡先募集となります。

 治療費だけでなく入院費の負担が大きいのですが、預かりスタッフが今は足りていないので、治っても退院をさせられずに、入院費を覚悟して活動をしています」

さつきちゃん。できれば、あたたかい安全な場所で暮らしたかったね。今度生まれてくるときは違う環境で暮らせるといいね
さつきちゃん。できれば、あたたかい安全な場所で暮らしたかったね。今度生まれてくるときは違う環境で暮らせるといいね

 金木さんに、さつきちゃんという猫を紹介されました。アリスさんが5月13日に保護した猫です。生後3カ月くらいの子猫にみえますが、獣医さんによると7~10カ月の猫ちゃんでした。

「小さいので子猫かと思っていたら、栄養不足で大きくなれないまま生きていました。推定7~10カ月くらい。また、ひどい疥癬でした。まず栄養をつける事と疥癬治療中が終わったら不妊手術の予定でしたが、数日後に永眠してしまいました。生まれてきてずっとおなかをすかせて生きて、良いことはなかったと思います」

自分でできる範囲で動きだそう

 sippoの読者さんは、おそらく日本で一番保護猫に理解のある方々だと感じています。元保護猫と暮らしている方々も多いですし、元保護猫のスター猫たちも活躍していますよね!

 日本全国で人知れず頑張って生きている猫たち、そして保護活動に没頭する人々。アニドネは後方支援組織として、寄付をお届けすることをミッションにしています。

 ですが、猫問題は寄付だけでは解決はしません。この問題にかかわる方が増え理解が進み、活動の領域が広がらないと、さつきちゃんのような猫は減らないのです。この記事を「読んだがご縁」と思っていただき、預かりさんになる、保護活動にチャレンジする、保護猫を迎え入れる、この記事をシェアする。ぜひ、自分にできる範囲でなにか動き出していただければと願います。

 コロナ禍、命の大切さが身に染みている今だからこそ、小さな声なき命にも意識を向けてくださいませんか。

(今回掲載している写真は、文中でご紹介した特定非営利活動法人「日本動物生命尊重の会アリス」さんからお借りしています。コロナ自粛期間中や自粛後に保護した猫たちです)

【前の回】いま自分にできることを 保護犬や保護猫の一時預かりという選択
【次の回】動物は法律でどう定義されている? 「命あるもの」と「感覚ある存在」の違いは大きい

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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