動物は法律でどう定義されている? 「命あるもの」と「感覚ある存在」の違いは大きい

笑顔の犬
筆者は犬は笑うと信じています。楽しむ、悲しむ、恥じる、意地悪なキモチも。想像以上に豊かなメンタルを持っています。写真はイメージ

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。今回はすごく根本的なお話、「動物の概念とは?」をテーマに書いてみます。

日本での動物の「定義」とは?

 日本では、動物は民法では物ですが、動物愛護管理法で「動物は命あるもの」と決まっています。ですから動愛法には、大切にして傷つけてはいけない、と書いてあります。

 おっしゃる通り。ですが、動物先進国と言われる国では、実はもう一歩進んでいます。例えば、ドイツやスイスの民法では「動物は物ではない」と定義。フランスではかなり前の1976年に「動物は人間と同じく感覚ある存在」。法律の新しいEUでも「感受性のある生命存在」と定義されています。

 この「感覚ある存在」というのが実はとても大きな差。感覚や感受性があるということは、喜怒哀楽はもちろんのこと感じる心があるってことなのです。

 例えば、小さな犬や猫がオークションにかけられ空気穴の開いた箱に入り空輸されペットショップの店頭へ、長時間の留守番でお散歩にも行けない犬……sippoの読者さんたちなら、そんな動物のキモチを考えたら心が痛くなるはずです。ですが、現在日本ではそれは問題のない行為なのです。

(過去にアニドネで、各国の法律の違いや憲法・条例の進化、飼育環境に関する具体的規制をリサーチしメディア向けの勉強会を実施しました。かなりマニアックな内容ですが笑、ご興味のある方は是非ご覧ください。国別データ比較

2匹の犬
多頭飼育崩壊から保護された犬、アニドネ認定団体さんがレスキュー。約60匹が暮らしていた一軒家で生き抜いてきた。犬にとって快適な環境を整えることは飼い主にしかできないこと

ドッグランで遊ぶのは義務!

 私は法律の専門家ではないですが、寄付サイト「アニドネ」で動物関連の取材を多々行うのでいろいろな情報を得ます。そんな中で「まぁ、なんて優しい法律なの!」を、いくつかご紹介しますね。

 まずスイス。言わずとしれた福祉国家です、人間にも動物にも優しいと感じます。例えば、社会性のある動物(馬やウサギ、鳥など)は1匹・羽で飼育してはいけない、という法律があります。動物の生態を人側が理解しているからこそのアニマルウェルフェアに配慮した優しい法律ですよね。過去驚きの法律としてニュースになった、意識のあるロブスターを熱湯に投げ込むのは違法、これもスイスです。

 そして、イギリスは法整備が早かった国。とても具体的に記載されています。例えばブリーダーさんが子犬を飼い主に渡すときには、現在与えている餌を最低1週間分用意しなければならない、という基準があるんです。

 子犬がおなかを壊さないような配慮ですよね。他にも子猫のエンリッチメントに配慮して、1日4回は遊びの時間がなければならない、とガイダンスしています。

 ドイツは、飼育する犬舎の広さが驚きです。体高50cm未満でなんと6㎡、と義務規定となっています。1頭につき畳3.6畳ですよ。日本のペットショップのように狭いスペースで展示すること自体ができないのです。

 フランスは、こんな素敵な文面が義務規定で明記されています。「犬の欲求に応じ、犬同士で走り回ったり、遊んだり、また人間とふれあえるよう毎日屋外に開放されなければならない」。ドッグランに毎日行って遊ぶことは、法で定められた義務なのです!

(環境省動物愛護室がまとめた海外調査がとても分かりやすいです。海外調査について ■各国(英・独・仏)における国が定めた定量的基準等について(一部のみ抜粋)

舌を出して座る犬
アニドネ認定団体さんがレスキューした山の中で『トラバサミ』に引っ掛かってしまい、脚をけがし保護された富士子ちゃん。義足になりましたが、アジリティー(犬の障害物競技)をしている先住犬の練習につき合って、走ったり飛んだりのまね事もするそう

めまぐるしく変わっている日本

 ここまで読んで、日本はダメダメじゃん!と思ったあなた。諦めないで。ここ最近の日本の変わりっぷりは目を見張るものがあります。

 例えば、この6月に施行された改正動物愛護法では、罰則(犬猫を傷付けた場合など)「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に変わりました。倍以上の罰則になる改正はめずらしいそうですよ。

 そして個人的にオシの改正内容として、獣医師さんが虐待を通報する義務を持ったことです。ペットは人の子どもと一緒、虐待から守らねばなりません。ましてやしゃべることができない犬猫たち。接する獣医師さんの通報義務は大きな進歩だと感じています!

 また、来年6月からは、8週齢規制(生後2カ月間はお母さんと一緒に過ごさねばならない)や数値規制(飼育する際の広さや飼育者の人数など。日本は具体的数値が上記の国に比べたら決められていないことが多い)が施行される予定です。2022年にはマイクロチップは、犬猫の販売業者に対しては義務となり、現在すでに飼育されているペットに関しては努力義務となります。

2匹のプードル犬
アニドネの認定団体さんが保護した2頭。山の中で2匹が木につながれていた。マイクロチップが義務化されれば山につないで放置するなんてことはできなくなる

義務感でない動物への愛を

 アニドネでは、海外在住の方のリアルな声から構成している「海外情報レポート」というコーナーがあります。その中で海外在住の2名の方に「5つの自由」(*イギリスで1960年代に規定された動物福祉の基準)について質問をしたことがあります。答えは「それは何ですか?」でした。

 その方々はたくさんの動物と暮らした経験のある方です。いつでもどこでも愛犬と一緒の暮らしは、理想と呼べるほどの豊かな生き方だと思いました。しかしその暮らしは、法律で決まっているから、ではなく、動物のキモチを考えて当然のごとく動物福祉を尊重するもの、でした。

 今後数年で日本がどう変わっていくのか、とても期待しています。法整備をしたとしても法の意味を理解(=動物を理解)せねば意味がありません。決して義務感ではなくマインド自体が動物への愛にあふれている、そんなふうに日本が変わっていければ、と思っています。

【前の回】野良猫の過酷な現実 栄養足りず子猫のような小さな体で生きた猫

(次回は9月5日に公開予定です)

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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