保護犬や保護猫という選択 受けとめる勇気と、変化を見守る喜び
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。早くも連載11回目。「犬や猫のために出来ること」をテーマにつづってまいりました。今回は、「保護犬・保護猫を引き取る勇気と暮らす醍醐味」をテーマに書いてみたいと思います。
(末尾に写真特集があります)
街でよく会うようになった「元」保護犬たち
新聞やTVなど大手メディアで「保護犬・保護猫」に関しての情報が以前と比べて格段に多く取り上げられるようになってきていると感じます。これはとても喜ばしいこと。公園でお散歩中に、愛犬同士がクンクンとあいさつを交わす間の何げない雑談タイム。「この子は元保護犬なのよ」と(ちょっぴり誇らしげに)語る飼い主さんに、しばしばお会いするようになってきました。
著者は東京在住なので、保護犬比率は高いのかもしれません。また私が動物福祉関連の仕事をしているから特に敏感なのかもしれません。ですが、保護犬保護猫って何?といった全く知られていない存在ではなくなり、犬猫と暮らしていない方にも認知が上がり、徐々に社会に浸透してきていると感じています。
保護犬や保護猫、覚悟や勇気もいる選択肢?
しかしながら「犬や猫と暮らそう」と決めたときにまず一番最初に保護犬保護猫を選択するか、というとまだそうではないと感じています。街(かなりの繁華街にも)には当たり前のように生体販売のお店があります。ホームセンターの動物コーナーは小さな動物園さながら、子供たちに人気の場所になっています。
アニドネと横浜商科大学で一緒に実施した「保護犬猫のマーケット調査」において、『保護犬・猫のイメージ』を調査しました。結果は、しつけがされていないのではないか、医療費がかかるのではないか、子犬子猫ではない、人に慣れていない、などのネガティブイメージが列挙されました。
まぁ、それは想定通りでした。そして、その結果からの行動解析をすると、ネガティブイメージによって保護犬猫と暮らす選択から遠ざけているデータが出ました。
実際、保護犬は正確な年齢もわからず、これまでの病歴もわかりません。なぜ飼育放棄されたのかの理由もほとんどのケースで判りません。もしかしたら、かみ癖・ほえ癖があるのかもしれないのです。
「犬猫と暮らそう」という選択は、本来とても覚悟がいるものだと思います。ペットショップで買おうともブリーダーから迎え入れようとそれは同じ。だってこの先15年以上も一緒に暮らす財力と時間的余裕が自分にはあるのか?
この先転職だってするかもしれない、無邪気に遊ぶかわいい子犬子猫はぬいぐるみではないのです。感情のある立派な命。ましてや保護犬保護猫たちは、過去になにがあって保護されたのか、その過去ごと受け止める決断をするわけですから勇気がいると思います。
しかし、前述の「保護犬猫のマーケット調査」では、実際に保護犬や保護猫と一緒に暮らしてみてイメージがどう変化したか、というデータを見ると、マイナスイメージから一転、プラスのイメージへ大きく変化をするのです。
これはアンケートを実施した私たちにも大変にうれしい結果でした。公園で会う保護犬オーナーさんがどこか誇らしげで楽しげなのにはデータの裏付けもあったのです。
変化が一目瞭然「保護犬たちのBefore After」
今回、アニドネで支援している特定非営利活動法人日本動物生命尊重の会という保護団体にお写真をご提供いただきました。題して「保護犬たちのBefore After」。保護犬たちがレスキューされたときをBefore写真とし、譲渡先も決まって新たな犬生を歩んでいる姿をAfter写真としました。
百聞は一見にしかず、保護犬たちの変化は一目瞭然です。ぜひご覧ください。
保護犬たちのゆっくりとした変化を受け入れよう
保護活動をされている方にお聞きすると、保護犬たちは変わっていくといいます。保護した時→預かっているとき(シェルターにいるとき)→そして里親さん宅で暮らし始めた時→里親さん宅に慣れたころ。さまざまな表情をみせるそうです。
最初は不安の塊で隅っこでじっとしていたのに、安心できる環境だと分かるとなんとなくいたずらな表情が出てきて、家族が決まったら本当に自信を持った姿を見せると。
その期間は、犬の年齢や性格によって変わるそうですが、数カ月の場合もあるし3年かかる場合もある、そうです。それだけ犬たちはいろいろと感じているのだと思います。人間の感情と同期する唯一の動物だと言われている犬たち、感情が強くて深い生きものですから様々な変化を見せるのも当然だと私は思います。
そしてその変化を、そばで受け入れることができるのは、実は保護犬を引き取った醍醐味でもあると思うのです。最初はよそよそしかった犬が、少し時間がかかるかもしれないけれど人間を信用し本来の姿をみせてくれる過程はギフトだと思うのです。
最初はきっと犬だって人間を無条件に信じてはくれないでしょう。だけど時間をかけてゆっくりと信頼できる場所であること、安心していいことを伝えていけば言葉はないけれど通いあい絆が生まれてくるのではないでしょうか。
また、最初は犬猫を救おうと思って保護犬保護猫を引き取ったけど、気づくと自分が救われていた、ということもよく聞きます。今を懸命に生きる犬猫たちに学ぶことの方が多く、命の大切さや前向きに生きる姿は飼い主の方を元気付ける存在になるのでしょうね。
この春にアニドネで企画した、愛犬愛猫への思いをつづると寄付になる投稿企画「STORY with PET」でも、多くの飼い主さんが犬猫たちへの感謝を書かれていました。何万年も前から共に暮らしてきた犬猫たちは、可愛いから飼ってあげるのではなく、人間の側が必要としている存在なのだと改めて感じました。
最後に、良書のご紹介を。『留守の家から犬が降ってきた(著者:ローレル・ブライトマン)』。私が大好きで何時間もいられる場所である蔦屋代官山の動物本コーナーで、衝撃的なタイトルに驚き手に取りました。
内容をざっくりお伝えすると、心の病にかかった動物たちの行動から知ることのできる人間の想像をはるかに超えた動物の感情の機微が書かれています。エビデンスも紹介されていますから説得力がありました。「喜怒哀楽」という基本的な感情以外にもきっと犬たちは感じているに違いない、と私が漠然と思っていたことも腹落ちしました。読んでみてくださいね。
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