犬が人をかむ理由 攻撃でなく愛情表現の場合も、犬の気持ちを読み取って対処しよう
犬のかみつきは人に痛みを与えるため、攻撃と見なされることが多い行動です。しかし犬は人の手の代わりに口を使い、コミュニケーションや意思表示を行う動物。攻撃ではなく親愛の表現でかむこともよくあります。
「犬のかむ力によって甘がみや本気がみと分類するのは誤り。犬がかむ理由はさまざまなので、犬の気持ちを読み取ってほしいと思います」と獣医師の山下國廣先生。今回は犬がかむ理由とその場の対処法を紹介しましょう。
かむ理由は大きく分けて3種類
山下先生による分類では、犬がかむ理由は「友好的」「感情を込めていない」「対立的」の3種類です。かみつきの強弱で判断して、弱くかんだら「甘がみ」、強くかんだら「本気がみ」と分類するのは誤り。じゃれながら血が出るほどかんでくる犬もいれば、怒っていても加減して歯を軽く当てるだけの犬もいます。
犬の気持ちやかむ状況から判断して、理由に合わせて対応しましょう。かみつきがどんな理由であっても叱らないことが重要です。飼い主さんとの関係やかむ行動が悪化するばかりで良いことは何もありません。
友好的なプラスの感情のかみ
犬は一緒にいて安心できる、遊んでいて楽しい相手に対して親愛の表現でかむことがあります。プラスの感情なのでまずは受け止めてあげましょう。やめてほしいときは犬に理解できるように教えます。
(1)しゃぶりがみ(甘えがみの一種)
人の指や手をハグハグとしゃぶるように軽くかみます。子犬によく見られるので、母犬のおっぱいを吸う行動に由来するのかもしれません。
やめさせたい場合:犬の愛情表現なので受け止めてあげましょう。どうしてもやめさせたい場合は、口を当ててきた瞬間に立ち上がって犬から離れます。
(2)毛づくろいがみ(甘えがみの一種)
前歯でチッチッと毛づくろいをする動作を人の髪や体毛で行う犬もいます。
やめさせたい場合:「しゃぶりがみ」と同じです。
(3)じゃれがみ
気を許している人にじゃれながら遊びの一環でかむことがあります。犬としては正常な行動ですが、加減ができない犬や興奮したときには強くかまれるかもしれませんが、気にならなければ遊び続けても問題ありません。
やめさせたい場合:かんだ瞬間に立ち去って数十秒後に戻ることを繰り返します。もしくは立ち上がって直立不動になり、犬がかむのをやめたら遊びを再開します。手をかまれないようにパペットタイプのおもちゃを使うのも一案です。
(4)要求がみ
飼い主さんにかまってほしいときやおやつがほしいときなどにかんでアピールします。要求に応えているとエスカレートしていくので注意。家族が他の犬をなでているとやきもちを焼いてかむ犬もいます。
やめさせたい場合:かんでも要求に応えず、落ち着いているときにかなえましょう。わざとやきもちを焼かせるようないじわるは控えてあげてください。
感情を込めていないなかみつき
犬も驚いたときやあわてたとき、とっさに歯を当てたりうっかりかみついたりすることがあります。かむつもりがなかったケースが大半なので、誰しも間違いはあると許容したうえで、うっかりを減らすように教えましょう。
(1)がさつがみ(誤認がみ)
おもちゃで遊んでいるときやおやつをあげるときに、犬が誤って指をかむことがあります。犬には歯を当てようとする意図はなく、かんだことにも気づかないかもしれません。大ざっぱな犬にありがちです。
やめさせたい場合:頻繁にかむときは「痛い!」と大げさに声を上げて犬に歯が当たったことを知らせ、遊びをやめる、あるいはおやつを握って食べさせないようにしましょう。
(2)うざがりがみ(払いのけがみ)
抱き上げたときや脚を拭いているときなどにジタバタと暴れながら、人の手を払いのけるためにガジガジとかじるようにかみます。
やめさせたい場合:犬が苦手な接触や拘束に慣らす社会化トレーニングを行うことが重要。抱き上げたり脚を拭いたりしている間ごほうびを与え、まだ食べたいと思っているうちに下ろすことを繰り返します。また、犬がジタバタしても放さず、落ち着いたときに終わりにしましょう。
対立的なマイナスの感情のかみ
人と犬の間に強い対立関係が生じている可能性があるため、かまれても痛くなくない場合でも要注意。叱ったりすると攻撃がエスカレートして深刻な問題に発展します。行動診療を行っている獣医師に相談しましょう。
(1)身体防御のかみ
痛みがある部分や敏感なところを急にさわられたとき、反射的に歯を当てることがあります。また、寝ているときに急に抱きつかれたり、動物病院で保定されたりしたときにも、身の危険を感じてかむことも少なくありません。
やめさせたい場合:「うざがりがみ」の社会化トレーニングと同じく、犬に危険が及ばないと一つ一つ教えていきます。たとえば犬を驚かせないように一声かける習慣をつけるのもよい方法。
(2)物や場所を守るかみ(資源確保攻撃)
犬が食べているガムや気に入っているソファなどを守るために、近づいてくる人を攻撃します。
やめさせたい場合:犬がガムなどの食べ物を守るなら、飼い主が不在にするときだけ与えましょう。もしくは根気よく「ちょうだい」のトレーニングをします。ソファなどの場所を守るなら、犬がうなる程度であれば、「ごめん」と一声かけて堂々と近づき、ゆったり座ってから食べ物などのごほうびを与えるのも一案。自分のお気に入りの場所に人が近づくと本気で怒るようなタイプは、人と犬の居住空間を分離して、一緒に遊ぶとき以外は犬専用のくつろぎ場所にいてもらうようにしましょう。
(3)衝動制御障害による攻撃
生まれつき感情をコントロールできない犬に見られるかみです。イライラしてかみつく程度であれば八つ当たりです。わずかな不安や不満を感じただけで表情が一変して全力でかみつくタイプは、間歇性(かんけつせい)爆発性障害の疑いがあります。自分の尾を追いかけてかむ行動が出やすい障害です。
やめさせたい場合:八つ当たりであればイライラさせないこと。間歇性爆発性障害が疑われる場合は行動診療を行う獣医師に相談してください。
かむ行動を悪癖と決めつけない
犬のかむ行動をひとまとめにして「かみ癖」といわれることもありますが、犬は癖でかんでいるわけではありません。犬にとってかむことは当たり前の行動で、さまざまな理由があります。人にとって不都合だからといって悪癖と決めないようにしましょう。
かむ理由を区別するには犬の表情やしぐさを見て、犬が楽しそうなのか嫌がっているのか、犬が笑っているのか怒っているのか、判断することが大切です。犬の気持ちを理解する想像力と思いやりをもった飼い主さんを目指しましょう。
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- 監修:山下國廣(やました・くにひろ)
- 獣医師、軽井沢ドッグビヘイビア主宰。科学的なアプローチと犬の立場に立った発想で人と犬のコミュニケーションをサポート。家庭犬の問題行動治療、しつけ方指導、トレーニング指導のほか、里守り犬(モンキードッグ)など野生動物対策犬の育成指導も行う。愛犬のすぐり(甲斐犬)を日本犬初の救助犬に育てて多くの現場に出動した。
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