廃業した牛舎で人知れず生きた2匹 野犬の保護活動の在り方を考えたい
「公益社団法人アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。私たちアニドネは、北は北海道から南は沖縄まで、全国39の動物関連団体の支援をしています。
今回ご紹介するのは北海道留萌管内天塩町で保護され、現在新しい飼い主を求めている2匹の犬のこと。牛舎で生き延びた2匹の背景から、人とのコミュニケーションを持たずに育った犬たちの保護活動の難しさを探ります。
外界を知らずに大人になった2匹
顔もよく似ている2匹はおそらく兄妹犬らしく、推定年齢1~3歳。北海道留萌管内天塩町は、札幌からさらに稚内のほうに、車で北上すること約5時間ほどの場所にあります。当然冬は雪深い場所で、暖房もない廃墟で2匹は生き延びてきました。
「NPO法人HOKKAIDOしっぽの会」に留萌振興局から保護依頼がきて現場に入るも、人と触れ合った経験がない2匹……保護する際も恐れおののきおびえていたそう。
野犬の保護譲渡の難しさ
都心で野犬の保護は聞きませんが、北海道や西日本ではよくある話。日本は、もともと飼い主がいて人との暮らしの経験がある犬の保護以外に「野犬の保護」という問題を抱えています。例えば、もとは飼われていたけれど飼育しきれなくなり野に放たれ、その犬が子犬を産み、コロニーとして人里近くで暮らしている犬達は多くいます。人との触れ合い経験がないまま社会化期を過ごすと、当然人間に対しては警戒心を抱くように。人を恐れ、まったく人と目を合わせようともせず、ただただおびえてしまう。
そんな犬達にも、時間をかけて「人は怖くないんだよ」と伝えて飼い主を探す活動をしているNPO法人HOKKAIDOしっぽの会は、夕張郡長沼町に拠点を持つ保護団体です。行政から保護する多くが、譲渡の難しい元野犬や病気・ケガなどのハンデを持った犬だとか。
代表の上杉由希子さんに、2匹のエピソードを聞いてみました。
表情も態度も変わっていく犬たち
「シェルターに来たときは、2匹にとって何もかもが恐怖でしかなかったです。知らない場所に連れてこられ、分からない人間がたくさんいる。やっとの思いで首輪をしても、2匹にとってはその意味がわからず、お散歩もできるわけはないのです。しかし人との暮らしの楽しさを知って、いい飼い主さんに出会ってほしいから、時間をかけて諦めずに慣れていくようにします。なにより心のケアを大切にして犬たちと接していきます。犬によって慣れる期間はさまざまです。海ちゃんと海斗くんは保護してから譲渡対象にするまでに1年以上かかりました。その間、人慣れ訓練やお散歩訓練などを繰り返し行いました。今では慣れたスタッフにはおなかを見せるほどになりましたよ。表情もとても豊か。2匹が幸せそうにしている姿を見ると私達の苦労も吹き飛びます」(上杉さん)
保護活動といっても、保護する犬の背景はさまざま。もともと人と楽しく暮らしてきた犬は当然人に対して悪いイメージは持っていません。しかし人の手を怖がる、棒を怖がる犬はよくいます。過去につらい経験があるのでしょう。また、繁殖引退犬はどこか諦めているように表情が乏しい子が多いです。そして野犬は、震え続け何日もフードを食べない、ハウスに入れようものならパニックになって脱糞をしてしまう、爪がはがれるほど暴れるなど、非常に難しい犬が多いのです。
だけど、同じ大切な命。
「野犬だから諦めるということはしません。出会った命から逃げることはしないことを活動ポリシーにしています」と上杉さんは言います。
理解ある飼い主さんとの出会いを求めたい
「一昔前は、行政に保護される子は純血種が多くいました。安易な飼育に関しての啓発活動が進んだこともあり、そういった子は減りました。その分、現在保護される子は高齢で病気が進行していたり、迷子で収容され飼い主の迎えのないミックス犬や野犬だったり、譲渡まで時間のかかる犬が増えているのです」
となると、「譲渡希望の方とのマッチングが難しいのでは?」と質問をしてみました。
「そうですね。最近の傾向としてはみなさん、保護犬を迎えることに慎重になっていることは感じます。当法人のHPで譲渡犬を見て迎え入れたい、と実際にシェルターにいらしても、元野犬の子たちの姿を見ると『自分たちには無理』と感じる方も少なからずおられます。保護犬を迎える社会的意義を頭では理解していても、根気よく元野犬と接することができるのかどうか、不安に感じるようです。実際私たちも、すべての野犬が人と暮らすことははたして彼らにとって幸せなんだろうか、と考えるときもあります。心ある獣医師のプラン構想に、『野犬リハビリセンター』といった施設を作り、心と体のリハビリを専門的に行い、それでも譲渡が難しい子は、一生涯ストレスなく自由に過ごせる環境を与えることの出来る施設を用意するというものがあり、心から賛同しています」
日本らしい保護スタイルを考えたい
筆者の個人的な話ですが、現在19歳5か月の愛犬を介護しています。ステロイドのためか全身の毛が抜け、体重も半分になってしまいました。獣医さんからは安楽死の提案も受けました。けれど、私にはそれは決して選択できることではありませんでした。今できる精一杯の介護をしていますが、ときにくじけそうになる瞬間も多いです。これほど犬の最期を見送ることが大変だったとは、正直思いませんでした。
超高齢化社会のゆがみは保護犬猫達にも及んでいて、都心に行けば行くほど高齢の飼い主が高齢のペットを致し方ない理由(病気や入院など)で手放すことが続いています。それでも生きとし生けるものを大切にし、与えられた命を全うすることを美徳とする精神のある日本では、犬猫の命も尊いものです。お世話ができないから、と簡単に飼い主の都合で命を絶つことはできない国民性なのです。
犬猫が高齢であればあるほど譲渡先はそう簡単に見つかりません。終生飼養となれば、保護団体の労力や医療費は膨らみます。でき得るなら、立ち行かなくなったときに安心して愛犬を託せる仕組みを整えられないものだろうかと考えます。
例えば、突然の保護依頼にも対応できる余裕のある設備、専門スタッフが24時間常駐している施設、犬猫を深く理解しているボランティアが集うシェルターなど、日本人らしい優しさが詰まった保護施設を増やすこと……。
犬の飼育頭数は減っています。
アニドネとしては、犬の飼育の難しさを理解し、人間側の意識をスイッチするいい機会ではないか、とも捉えています。北国で人知れず育った海ちゃんと海斗くんの姿に日本の保護活動の有り様を考える機会をもらいました。寄付を届けるアニドネとして、これまで以上に踏ん張って、活動していきたいと強く思いました。
最後に、海ちゃんと海斗くんは北海道内で新しい飼い主さんを募集中です。詳細は認定NPO法人HOKKAIDOしっぽの会のHPをご覧ください。
(次回は12月5日公開予定です)
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