フードアグレッシブがなくなった柴犬 家族も増え今は大変の何倍も何十倍も幸せ
フードアグレッシブの行動をとる愛犬と、「なめられてはダメ、リーダーにならねば!」と厳しい態度で闘っていたお父さん。UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長は「闘わないで!」と伝え続けた。その真意は?
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「犬を育てることで人が変わり、人が変われば犬も変わる!」
(前回のお話はこちら)
判断が難しい、フードアグレッシブの原因
ごはんやオヤツなどの食べ物に執着し、食事中に近づく、食器を片付けようとすることに対して攻撃的な行動を取る「フードアグレッシブ」。原因、理由はさまざまだ。
子犬の場合、成長期なのにフードが足りず、おなかが空いていることが原因で食に執着する子も。熊吾朗くんは、ペットショップから言われたフードと量を守っていたが、「どちらかというと痩せていた。もしかしたらごはんが足りていなかったのかもしれません」とお父さん。
飼い主側に原因があることも。高橋店長はこう指摘する。
「多くの飼い主さんは『怖い』『かまれたらどうしよう』とビクビクしてしまう。頭のいい犬はそこをついてきます」
自宅ではフードアグレッシブでも、社会化お泊まり中にはそうした行動が見られない犬は少なくないという。「うなられても僕やスタッフはビビらないし、反応もしないからかも」と店長。
さらに、ごはんを守ることを自分の「仕事」だととらえていることもある。その場合は、子犬らしい仕事=お散歩や遊びで発散すればいい。群れの中の激しい遊びやお散歩でしっかりと体力を使い、子犬ならではの「遊びたい欲」が満たされるだけで落ち着く子もいるようだ。
いずれにしても、素人判断は危険。店長は「犬を見て、飼い主さんの話を聞かなければ根本的な原因はわからない。細やかに見て聞いた上で、具体的なアドバイスをするようにしています」と話す。
熊吾朗一家の場合、店長が危惧したのは、フードアグレッシブよりもお父さんの熊吾朗くんへの接し方だった。
「なめられちゃいけない、主従関係を築かなければと、お父さんはかなり強い態度で熊吾朗くんと闘っていた。全身から覇王感がたぎってましたね(笑)」
こう続ける。
「柴犬のような強い犬を力で押さえ込んで服従させるしつけ法はあります。でも、プロでなければ、いやプロでも正直難しい。ましてや初めて犬を育てる飼い主さんには無謀と言ってもいい。前回のトイプードルのミロくんのように逆効果になったり、関係性がこじれてしまったりする可能性も。また今の時代、下手すると虐待になってしまいます」
せっかく縁あって家族になった熊吾朗くんとの暮らしをもっと楽しんでほしい――。その思いから、店長はお父さんに伝え続けた。
「闘わないで!」
犬も頑張る、飼い主も頑張る
熊吾朗くんはお父さんの心配をよそに、同時期にお泊まりにやってきた白柴の女の子と意気投合。UGに来る前に幼稚園に通っていたが、「熊吾朗は不器用なところがあり、強く行きすぎて遊べる相手がいなかった。UGでは強い子が多いので思う存分遊ぶことができたのです。子犬らしい楽しそうな姿に本当に感動しました」とお母さん。
お泊まり中はフードアグレッシブが出なかった。ところが、お迎えに来たお父さんとお母さんの姿に、うれしさもあってか「ヘラヘラし始めた」と店長。お泊まり中はできたごはん前のフセ、マテも、お父さんとお母さんの指示ではやろうとしない。そんな熊吾朗くんに店長の「喝!」が入る。
実は、最終日に雷を落とすのは「あるある」。店長は「もちろん犬に対してもありますが、ほとんどは飼い主さんへの僕からのメッセージ」と言う。
「『お泊まりでいい子になったからもう大丈夫』と飼い主さんの気が抜けてしまう場合がある。多くの子にはその後もアフターフォローに通ってもらい、元に戻りそうになったり飼い主さんが悩んだりしたら全力でアドバイスします。だからといって、『困ったら店長を頼ればいい』とは思ってほしくない。一緒に暮らし人生を共にするのは、僕らではなく飼い主さんです。愛犬も頑張る、でも自分たちも頑張るんだ、というスイッチをしっかり入れてもらいたいのです」
店長の「喝!」に驚きつつ、そのメッセージをしっかりと受け取ったお父さんとお母さん。帰宅後のごはんタイム、熊吾朗くんは食器を下げようとするお父さんの手に一瞬反応しそうになったが、ひるむことなく「かみたきゃかんでいいぞ」と腕をちょっと強めに出したという。そこからピタリとフードアグレッシブの行動は止まった。お父さんの姿に触発され、お母さんは熊吾朗くんとともにフセ、マテを徹底的に練習した。以来、困ることはほとんどなくなった。店長はこう語る。
「お父さん、お母さんの本気の覚悟を、熊吾朗くんが受け止めたのでしょう」
2柴2プー 熊吾朗一家は大家族に
その後、熊吾朗くんは妹分としておうちにやってきたトイプードルのこはるちゃんとともにUGに通いながら、「伝説のエース」に成長する。柴犬など強い子犬がお泊まりにくると、店長は「熊吾朗くんしょうへい!」とお父さんに依頼。熊吾朗くんは、次から次へとやってくる子犬と一緒に遊び、ルールを理解していない子には先輩としてビシッと指導した。「犬には犬にしか教えられないことがある。熊吾朗くんは僕の右腕としてめちゃくちゃいい働きをしてくれた」
今は子犬を売らないUGだが、3年前、ブリーダーからきたトイプードルのきょうだい2匹を群れの中で育てていた。熊吾朗くん、こはるちゃんとの暮らしにこれまで経験したことがないほどの幸せを感じたお父さんとお母さんは、そのうちの1匹、男の子のトビーを迎える決意をする。
「こはるは犬が苦手だったのですが、トビーくんとは楽しそうに遊べたのです。それが決め手でした」
一足先にマルプーのルルくんのおうちの子になった妹が「桜」という新しい名前になったと聞き、トビーくんも桜を冠した「櫻士朗」に。さらに昨年、黒柴の女の子すみれちゃんも仲間入り。「2柴2プー」のにぎやか熊吾朗一家は、UGに通う人の間では知られる伝説の大家族となった。
「よく『4匹もいて大変ですね』と言われますが、大変の何倍も何十倍も幸せです」とお父さんはデレデレ。自身の変化については「犬たちを育てることで、子育てをする親御さんの気持ちや愛情が心底わかるようになりました」。それぞれに性格がまったく違うが、互いを尊重したり譲歩したり、ときには嫉妬したりもしながら、群れという「社会」を作っている4匹。子どもたちに指導する塾の仕事にもいい影響があったようだ。お母さんはお父さんの変化についてこう語る。
「子どもさん一人ひとりの性格や個性を尊重しながら向き合うように。何より、とっても優しくなりました(笑)」
店長も「覇王感が消え(笑)、表情が優しく雰囲気もとても柔らかくなりました」とお父さんの激変をたたえつつ、こう語る。
「僕はいつも『溺愛(できあい)しすぎない』『遠慮メンタル禁止!』と口を酸っぱくして言っていますが、だから厳しくしろとか、ましてや愛犬と闘えという意味では決してありません」
子育てをするとき、子どもに対して「なめられないようにしないと」とか「主従関係をちゃんとしなきゃ」なんて考えないはず。ダメなことはダメとちゃんと伝える、ガマンも教える、でも、はしゃいでいいときは思い切り遊ばせてあげる――。主従関係ではなく、親子や家族の関係なのだ。
店長は語る。
「愛と覚悟を持ってシンプルに伝えればいい。その気持ちが愛犬に通じ、お互いが成長できれば、その先には幸せなゴールデンタイムが待っています。熊吾朗くん一家がそうであるように」
- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。
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