パチンコ玉入りのボトルを首に付けるのがしつけ? 恐怖で漏らすトイプー、私も困惑

トイプードル
おうちに来たばかりのミロくん。かわいい!けど……(お母さん提供)

 子どものころ「犬がほしい」と思っても、さまざまな事情で飼えない人は多い。働くようになって自立しても、仕事が忙しいと簡単には実現できない。責任感が強い人ならなおさらだ。人生の節目の年、ようやく夢をかなえることを決意。一生懸命勉強して迎えたものの子犬の夜鳴きがひどく、困り果ててプロの手を借りることに。しかし、それがさらに苦悩を深めることになり……。

 UG DOGS中目黒店(以下UG)の激アツ店長こと高橋信行さん、中目黒の駅前で叫ぶ。

「目の前の犬を見ていない上に飼い主が苦しむトレーニングなら、やめていい!」

(末尾に写真特集があります)

探し続けて4年、念願の子犬を迎える

「ついに、ついに夢が叶う!」

 幼いころから、ずっと犬との暮らしを夢見てきた。捨てられていた犬を拾って家に連れ帰ったこともあったが、親が許してくれなかった。社会人になってからは夜中までモーレツに働き、時間も気持ちも犬を飼う余裕はなかった。そして去年、「人生半世紀」を迎えた。

「時代の流れもあって働き方も変わり、今なら迎えられるかも……と。4年ほど前からずっと探し続け、ご縁があり、私にとって節目の年にようやく念願の子犬を迎えることになったのです」

 お母さんがブリーダーで出会ったトイプードルの男の子は、ミロと名付けられた。月齢2カ月になってほどなく、ミロくんはお母さんのもとにやってきた。

「友人の家やご近所にもトイプードルがいて、『飼いやすいよ』と聞いていました。ところが……」

激しい夜鳴き トレーニングを始めたが…

 ミロくんはおうちにきた次の日の夜から、激しい夜鳴きをするように。「かなり大きな鳴き声で、ご近所迷惑になったらどうしようと思うと不安で眠れなってしまって」とお母さん。ようやく眠りに落ちても、ミロくんは午前3時には目を覚まし、また鳴き始める。フルタイムで働くお母さんは、ひどい睡眠不足に陥ってしまった。

トイプードル
夜鳴きも昼鳴きも止まらなかったミロくん(お母さん提供)

「ずっとずっと夢に見ていた子犬との暮らし。私なりに一生懸命勉強して迎えたつもりでした。でも、その知識ではどうにもならない。プロの手を借りようと出張トレーニングをお願いすることにしました」

 やってきたトレーナーは、いわゆる「服従」によるしつけを指導した。ミロくんの肩から前脚を強くホールドし、床に押し付けて「フセ!」のコマンドをかけ続ける。どんなに嫌がっても決して屈せず、フセができたらご褒美とともにほめる、というやり方だ。

 ミロくんはそのトレーニングに、ウーウーと唸り声を上げひたすら抵抗した。しかしトレーナーは手を緩めず「フセ! フセ!」とコマンドを出し続ける。「私がナメられているから、圧をかけて言うことを聞かせるようにとアドバイスされました。正直、嫌がるミロを力ずくで押さえつけるのはつらかった。でも、毎日やるように指示され、続ければいい子になるのかなと半信半疑ながら続けました」

トイプードル
ますますヤンチャになり、お母さんを悩ませる(お母さん提供)

トレーニングの恐怖からうんちを漏らす

 ところが、ミロくんは言うことを聞くようになるどころか、お母さんを威嚇したり、さらには噛みつくように。また、ケージの中を狂ったように走り回る。「どんどんおかしくなる。本当にこれで大丈夫なんだろうか?」。不安の決定打となったのが、数回目のトレーニングでの指導だった。

 2リットルの空のペットボトルにパチンコ玉を入れ、それを2本分作り、ネックの部分をヒモで結ぶ。そのヒモの先をミロくんの首輪に通した。ミロくんは当然驚き、逃げる。するとものすごい音がするペットボトルが自分を追いかけてくる。ミロくんは家の中をものすごい勢いで逃げ回りながら、恐怖からうんちを漏らしてしまった。

「トレーナーが言うには『言うことを聞かなかったときには怖いことが起きると教え込む』と。ほとんどの子は恐怖心からおしっこやうんちを漏らしてしまうということでした。でも、目の前の光景があまりにも衝撃的すぎて……」

 ケージの中でほえたときも、このペットボトルを壁や床に投げつけて大きな音を出せば怖いからほえなくなる。そうアドバイスされ、お母さんは「本当に……本当に嫌になってしまった」と言葉を詰まらせる。

トイプードル
出張トレーニングが来てからは家の中でリードをつけて遊ぶように心掛けた(お母さん提供)

「このままでは、ミロも私も壊れてしまう。この子を育てられなくなってしまうかもしれない。なんとかしなければ」。苦悩に駆られネットで情報を探しさまよう中、sippoのこの連載記事に行き着く。すべての記事を読み、さらに店長のブログも読みあさった。

「それまでは家に来てもらうトレーニングがいいと考えていました。でも、記事を読んで行けるところがあるならどこにでも行こう、と。本当にわらをもつかむ思いでUGに電話をかけました」

 そしてカウンセリング。犬たちが騒いでいるのを目にしても、ミロくんはほえることなくおとなしくしていた。

「この子、いい子だね」。店長のひと言に、それまで抱えていた不安な思いがせきを切ったようにあふれ、お母さんの目から涙がこぼれた。恐怖心を植え付けるトレーニングについて店長は、「ミロくんのことをまったく見ていないし、理解していない。お母さんがやりたくないならやめたほうがいい」と伝えた。お母さんはこう吐露する。

「やっと理解してくれる、そして頼りにできる場所にたどり着けた。救われたと思えました」

 数日後、ミロくんの社会化お泊まりが幕を切った。

後編へつづく(5月23日公開予定)

(この連載の他の記事を読む)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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