愛猫の病気が娘を成長させてくれた ひとりっ子が“猫兄弟”から学べること
妊娠、出産、子育て…家族の形が代わったら、愛猫との関係にも変化が!
一人っ子気質の愛猫「ミア」(3歳・雌)と、暴れん坊の2歳児「ことちゃん」。ふたりの”愛娘”と暮らすライタ―原田が、猫と暮らしながらの子育てでぶつかりがちな悩みを経験者や専門家に相談し、ヒントを探す連載。
ミアに対する娘の変化
床に陽射しが落ちる午後は、ミアの至福の昼寝タイム。窓に切り取られた四角い陽射しの中に収まり、気持ちよさそうに昼寝するミアを見ていると、こちらまで眠気が襲ってくる。
そこに昼寝から起き出したことちゃんが登場。床で伸びている無防備な毛皮は彼女にとってぬいぐるみと同じ。くつろぐミアに欲望のままに抱きつき、気の毒なミアは昼寝を諦めて退散……。
大人がいくら止めようともハッスルした2歳児の欲望は止められず、きゃあきゃあ言いながら逃げ惑うミアの背中に乗って移動を試みる始末。仕方なく、寝ぼけて目が「3」の字になっているミアを抱き上げ、高い窓辺に避難させる。
「ごめんね、おまえは悪くないのに居場所がなくて……」
申し訳なくて声をかけると、ミアはしっぽをパタン、と床に打ち、「別に……」と窓の外に視線をずらす。
これは少し前までのわが家の光景。ところがここ最近、ことちゃんのミアに対する態度は変化しつつある。寝ているときは遠くから眺めてそっとしておく。撫でたいときは優しく触れてやる。相手の状況を見て行動するという変化が、ミアを通して見え始める。
子育てをしていると、子どもの他人への行動の変化に成長を感じることは多い。人間の姉弟、姉妹がいないわが家では、自分よりも小さくて弱いミアの存在が、ことちゃんにさまざまな感情を経験させてくれているのだと感じる(ミアにとっては迷惑な話かもしれないが)。
野良猫だった2匹の子猫を保護し、家族に迎えたやすこさんは、5歳になる娘さんが猫たちとの関わりの中で大切なことを学んでいると話してくれた。
元野良猫の兄妹
――お子さんの年齢と、愛猫たちについて教えてください。
娘のゆいが4歳半。三毛猫のつくし(雌・5歳)と黒猫のむぎ(雄・5歳)です。
つくしとむぎは、結婚前に住んでいた街で保護した元野良猫の兄妹です。猫風邪をひいて健康状態が悪いところを保護し、個人で猫の保護活動をしている知人のyo-yo-さんにアドバイスをいただきながら、母猫をTNR。
ちょうどそのころ、主人と結婚するタイミングだったので、ペット可マンションに引っ越し、そのまま家族に迎えました。その1年後に娘が生まれたので、娘にとってつくしとむぎはお兄ちゃん、お姉ちゃんになります。
――猫との暮らしと子育てを両立する中で、工夫したことがあれば教えてください。
つくしとむぎは、野良猫から家猫になり、結婚して引っ越し、私の妊娠で一緒に里帰りし、さらに子供が生まれて……と短い期間で環境の変化をたくさん経験させてしまいました。
だから、「ここにいれば落ち着く」と思ってもらえる自分たちだけの環境を用意してあげたくて、家を建てた際、猫のためにひと部屋空けて人間の生活スベースと分けました。
部屋を分けることで、赤ちゃんが猫たちにむりやり触ってストレスを与えたり、娘がちらかしたおもちゃを猫たちが誤飲する心配がなく、猫たちにとってはよかったかなと思います。
――娘さんが生まれたことで、つくしさんとむぎさんに変化はありましたか。
つくしは、子猫の頃は甘えん坊でしたが、娘が生まれてからはいじられるのを嫌がり、あまり近寄ってこないクールな性格の子になりました。タイミング的に、親離れしたのもあるのだと思います。
むぎは真逆で、男の子だからか甘ったれ。大人になっても私や主人にべったりです。むぎはストレスに弱く、私が妊娠中は、環境の変化が原因で円形脱毛症になりました。
つくしは性格的には安定していたのですが、最近大きな病気が発覚し、長期入院から帰ってきたばかりです。
猫への思いやり
――それは大変でしたね。つくしさんが病気になったことを、娘さんはどのように捉えていましたか?
そうですね。これまでの娘は猫たちのことを、言葉は悪いですがおもちゃのような感覚でとらえていたとおもいます。でも、つくしの体が悪いことがわかって、娘もなにかを感じたようで、今回の入院を経て、つくしに対する思いやりやいたわりが見えるようになりましたね。
それに、家族の意識がつくしに向いている中で、自分の都合や、やりたいことを我慢することも学んだようです。家族が大変そうにしているときに自分のわがままだけを通すのではなく、協力して一緒に乗り越えようとしてくれたのは嬉しかったですね。
――よくわかります。わが家も同じで、娘は欲望のままにミアを追いかけ回していましたが、最近はミアの状況をみてかまうようになってくれました。ミアは娘が嫌いなので迷惑そうではあるのですが、以前よりも触ることを許容してくれているように感じます。娘さんはどのような点で協力してくれたのですか?
猫たちのお世話を買って出るようになりましたね。それまで娘は猫たちに対して、「撫でたいときに撫でる」「かわいいから撫でる」と自分の気分で接していたのですが、つくしが入院した頃からか、娘が毎日のトイレ掃除やブラッシング、ごはんやお水の世話を進んでするようになりました。
猫と人間の生活スペースを分けたことで、日々のお世話や健康管理など、生き物と暮らす上で大変な部分が娘に見せづらく、どう伝えようかという悩みはありました。なので正直、娘が自分からお世話をしたいと言い出して、それを続けていることに驚いています。
猫は家族で、けして「かわいい」だけじゃなく、お世話もしなきゃいけないし具合が悪くなってもケアしなきゃいけない、ということを自然に学んでくれていたんだな、と。
自分たちも与えたい
――家族にとって、つくしさんとむぎさんはどんな存在ですか?
私にとっては、いてくれるだけで安らぐ存在ですね。うまくいかないことがあったり、主人とけんかして自分の気持ちがやさぐれたとき、つくしがそこにいてくれたり、むぎがゴロゴロと寄ってきてくれると「ま、いっか」と思える(笑)。娘にとっては、兄妹のように、社会性や思いやりを学べる相手ではないでしょうか。
私は3人姉妹なのですが、兄弟がいると、子守だったり通院だったり習い事だったり、自分がやりたいことがあっても兄弟の都合に合わせなくちゃいけないということを幾度となく経験します。娘はひとりっ子ですが、つくしとむぎがいることで、本来兄弟から学ぶであろう大切なことを学べているのだと思います。
――つくしさん・むぎさんにはこれからどのように過ごしていってほしいですか?
私も家族も、つくしとむぎにはたくさん与えてもらっているので、これからは私たちが何を与えられるかを娘と一緒に考えていきたいですね。娘にとって、つくしとむぎはもう家族ですが、彼らにも娘を妹として受け入れてほしいし、家族として認識してもらえたらうれしいです。
それと、今は子どもが小さいので猫と人の生活スペースを分けて暮らしていますが、いずれは猫たちの生活スペースを家中に広げて、猫との暮らしをもっと楽しみたいですね。リビングにキャットステップをつけたり、キャットタワーをつくったり……と、色々とイメージしています。
猫と子は「兄弟」
今回、やすこさんにお話を伺って思い出したのは、冒頭に書いた娘のミアへの態度の変化だ。そういえば、道で野良猫に出くわしたり、スーパーの前で飼い主を待つおとなしい犬に出会った時も、むやみに抱きついたりせずに様子を伺い、そっと背中を撫でたりするようになった。
動物の反応はまっすぐだから、神経を研ぎ澄ませて観察していると、相手が嫌がっているのか、受け入れてくれそうなのかがわかるような気がする。その感覚を娘はミアを通して学び、外の世界でも応用しているのかもしれない。
愛猫とわが子を「兄弟」と表現する人はとても多い。それは単に親から見た「平等」を意味するだけでなく、子どもがはじめて相手の感情を想像しながら接する、一番近い存在だからなのだ。
娘はこれからも、ミアとの関係からいろいろなことを学んでいく。それならやすこさんの言うように、娘にもミアに与えられることを考え、行動できるようになってほしい。それを一緒に考え、サポートするのは、私の楽しみでもある。猫と暮らしながらの子育ては、自分が「いい」と思っていた以上に、これからよくなりそうに思えた。
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