2歳差育児で愛猫にかまえず、手放すことを考えた女性 最後に出した結論とは?
妊娠、出産、子育て…家族の形が代わったら、愛猫との関係にも変化が!
一人っ子気質の愛猫「ミア」(3歳・雌)と、暴れん坊の2歳児「ことちゃん」。ふたりの”愛娘”と暮らすライタ―原田が、猫と暮らしながらの子育てでぶつかりがちな悩みを経験者や専門家に相談し、ヒントを探す連載。
余裕のない子育て
「子育ては大変」。そうは言っても、自分ならなんとかなると思っていた。仕事や夫婦間のコミュニケーション、ミアとの時間が今より少し減ったとしても、家事をサポートするサービスや、夫との連帯があれば時間はうまくやりくりできる。
今思えばなんて浅はかだったのだろう。その時の私はあくまで、“自分のスケジュール”で生活することを想定していたのだ。
娘を出産して初めての子育てが始まり、かくして私は多くの経験者が一様に語ってきた言葉を身に染みて感じることになる。「子育ては超大変!」。それは出産前に予想していたような、単にタスクが増えるという大変さではなかった。
赤ちゃんの生活リズムに合わせて1日を過ごし、その合間にもともとあったタスクに途切れ途切れに取りかかる……。完遂しないスケジュールへのストレスと、時間とともに奪われる心の余裕のなさから来る言葉だったのだ。
想像以上に余裕のない私に、一触即発の赤ん坊。本連載でも何度もお話ししているとおり、産前とはガラリと変わった家の中の空気に、甘えん坊だったミアは次第に家族と距離を取るようになった。授乳中、ドアの隙間から恨みがましい視線を感じるたび、ミアに対する申し訳ない気持ちでいっぱいになる私。夜中に娘が寝静まった際、布団の上に丸まっているミアに声を掛ける。
「ミアはうちに来てよかった? ちゃんと幸せにできてるかな?」
今回お話を伺った半田さんは、戦場のような育児の最中、長年連れ添った愛猫を譲渡しようと考えたという。「自分が猫を手放すなんて考えもしなかった」という半田さんが、愛猫を幸せにしたいからこそ悩んだという経緯と決断はどんなものだったのか。愛猫とのその後も含め、いま現在、猫を手放すことを考えている方にも、ひとつの参考にしていただきたいと思う。
手放した方が幸せ?
- 【プロフィール】
- ・妻/半田さん(40代前半・不動産関係)
- ・家族構成/夫婦・娘・息子・猫1匹
・間取り/持ち家/3LDK
・就労状況/共働き
・子育て割合/夫3:妻7
・おすすめの猫グッズ/ルンバと自動給餌器は、時短のために必須です。毛が抜ける品種なので、ファーミネーターが重宝しています。
――お子さんの年齢と、愛猫たちについて教えてください。
娘が10歳。息子が7歳。スコティッシュフォールドのこむぎ(雄)11歳です。4年ほど前に亡くなってしまいましたが、スコティッシュフォールドのうに(雄)も、一緒に子育てを乗り越えてくれました。
――こむぎさんもうにさんも、お子さんたちよりも先に一緒に暮らしていたのですね。子育てが始まってから、猫たちとの関係は変わりましたか?
子どもが生まれて2歳差育児に奮闘している時、猫たちにまったくかまえなくなりました。すると、もともと甘えん坊で人懐っこい性格だった先住猫のうにが、空気を読むようになったんです。
日中は側に寄ってこないのですが、毎晩子どもたちをなんとか寝かしつけると、そーっと寄り添って甘えてくる。長く一緒にいるので、私の様子を見て、「今は忙しい」「今は落ち着いている」というのがわかっているようでした。
――空気を読んでくれるうにさんに対して、かまってやれない罪悪感はありましたか?
うには私がまだひとり暮らしのころからずっと一緒にいた家族以上のパートナーだったので、申し訳ない気持ちは大きかったです。こむぎにしてもかまえないのは一緒だったので、「この子たちの人生は人間よりも短いのだから、新しい家族のもとで可愛がってもらった方がいいんじゃないか」と悩んだ時期もありました。
――我が家も、ミアを手放すことこそ考えませんでしたが、育児の大変さや、それほどまでに悩まれた愛猫への申し訳なさはよくわかります。結果的に、手放さない決断をしたのはなぜでしょう?
やはり、一緒に過ごしてきた分の愛情があって、手放す決心ができませんでしたね。当時は猫を連れて行ける職場で働いていたのですが、同僚たちが口々に「この子たちはすごくいい子だから手放してはダメ」と言ってくれたのもあります。
それに、スコティッシュは改良された品種なので、生まれつき骨の形成不全を持っている子が多い。将来的にこの子たちに介護の手とお金がかかるだろうことは予想できたので、他のお家に迷惑をかけることになるのであれば、私が最後を看取ろうと決心しました。
一緒に過ごした最後の時間
――子育てする中で、愛猫たちを手放さず一緒にいてよかったと感じたことがあれば教えてください。
娘が年長のころ、うにの脳に腫瘍ができたり、骨の形成不全の影響で自分の足で立てなくなり、視力も失って寝たきりになってしまいました。猫も寝たまま体制を変えずにいると体が壊死してしまうので、30分おきに寝返りを打たせる必要があり、食事も体を支えながら一食を20回に分けて与える介護生活に。
当時年長だった娘はうにが弱っていく姿と介護する私の様子を見て、命は永遠にあるものではなく、少しずつ衰えていくということを学んだようでした。
うにが亡くなった日は、止まりの遠足から帰ってきた娘が「本当に死んでいる」と泣いたのをよく覚えていますね。自分よりも長く生きていたものがある日命を終えるということは、娘にとって貴重な、命を学ぶ機会だったと思います。
うにの死を経験したこともあって、娘は以前よりも注意深くこむぎに接しているような気がしています。積極的にお世話をすることはもちろん、こむぎの口元に、皮脂腺が詰まってできものができた時には娘がすぐに気づいて「病院に連れて行って!」と訴えてきました。大きな病気ではありませんが、もし症状が進んでいたら切開することもあり得たので、よく気づいてくれたと思いますね。
――はじめて身近にいた動物を失った時のショックは大きいけれど、娘さんはその経験を得て動物をより大切にする気持ちを持ってくれたのですね。半田さん自身は、うにさんの介護を通してなにを感じましたか?
うにが亡くなるまでの3カ月は本当につきっきりの介護でしたから、その頃働いていた別の会社にもうにを連れて出勤していて、家でも職場でも移動中も、四六時中うにと一緒にいたんです。
私にとってうには20代の頃からずっと一緒にいた特別な存在だったし、うにも私のことはなんでもわかっていて、周りの人が「うにはあなたの彼氏みたい」と言うほど、深い絆がありました。目が見えなくなってからも、私の立てる物音を聞き分けて、子どもが近くに来ても鳴かないのに私が通った時だけは存在を察して鳴くということもありましたね。
うにと過ごした最後の3カ月は、子育てに仕事に介護と、本当に本当に大変な時期ではありましたが、子育てでかまえない時間が長かったぶん、とても特別な時間になりました。うに自身も、私と過ごした3カ月をとても喜んでくれていたと思います。
小学生で一区切り!
――愛猫とお子さんたちの関係性を教えてください。
私から見たら、2匹は娘と息子の“お兄ちゃん”のような存在。耳やしっぽを引っ張られたり、どんなにもみくちゃにされてもじっと耐えていて、「子どもだから」と許してくれているような感じでしたね。
子どもたちから見たら、「親には言えないような秘密も打ち明けられる友達」のような存在ではないでしょうか。長女はいま小学校高学年ですし、学校で嫌なことがあった時、母親である私に「どうしたの?」と聞かれても話しづらいことがあると思うんです。そんなときにこむぎが横にいてくれることで、心がほぐれて本音を吐き出せるといいなと思います。
――猫がいての2歳差育児は大変だったとおっしゃっていましたが、そんな中で時短のために工夫されていたことはありますか?
育児の空間と猫部屋を分けていたことです。我が家では子どもが小さいうちに子ども部屋を一部屋使って、うにとこむぎ専用の空間を作っていたんです。そこにキャットタワーや猫のトイレ、ごはん場所をつくることで、猫のお世話はその部屋だけで済むようにして、ごはんは自動給餌器、掃除はロボット掃除機におまかせでした。
部屋を分けたことで寝かしつけの間に猫たちが鳴き出して赤ちゃんが起きてしまうストレスもなく、粗相グセのあったこむぎのおしっこ対処も楽になりました。子育てしていると部屋をきれいな状態に保つのが難しいので、猫の誤飲や誤食を防ぐ方法としてもおすすめですよ。
――私も含めて多くの飼い主さんが、子育て中に愛猫との時間が取れず悩んでいると思います。半田さんはいま現在、お子さんが10歳と7歳とのことですが、お子さんが成長してこむぎさんとの時間は以前よりも増えましたか? また、猫との時間を楽しめるようになる子育ての区切りはあるのでしょうか?
わが家の場合、小学校に上がった時がひとつの区切りになりましたね。小学生になると子どもが自分でできることがだいぶ増えてきますし、学校の宿題や友達関係もあり、自分の時間を欲しがるようにもなりました。
そうなってからは、猫にしてあげられるようになることがぐんと増えました。今は日々こむぎのかわいさを堪能しています。なんなら我が子以上にかわいいと思うこともあるくらい(笑)。
育児は想像以上に大変なものですが、「小学校に上がれば少しは楽になる!」という希望を持っていただきたいです。
取材を終えて
愛猫を手放さなかった半田さんの決意は、結果的にお子さんや半田さん自身に「看取り」という大切な経験を与えてくれた。でも私は、一度はうにを手放そうとした半田さんの切羽詰まった気持ちも、けして否定することはできない。
大切なペットにとって、何がいちばんいい道なのかを悩み抜いて、責任を持って幸せにしてくれる人に託すことができれば、それもひとつの愛情の形。家族の都合で譲渡されるのが人間のエゴならば、それまで一心に受けていた愛情が一切自分に向けられず、がまんを強いてしまうのもまた人間のエゴだろう。生きることには変化がつきものなのだから、その都度みんなが幸せになれるベターな道を探すしかないのだ。
とはいえ、「半田さんとうに」という唯一無二のパートナーがお互いに信頼の中で添い遂げられたことは、私にとって大きな救いにもなった。
「いまは距離があっても、最後は心がつながった人と一緒に」
それが愛猫にとって幸せなことなら、距離があった時間にもきっと意味はあったのだと感じられる。
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