野良猫を保護して4年、近づくといまだに威嚇 でも拒絶ではないと家族は気づいていた
2016年の夏、まりこさんは夫と2匹の猫とともに現在の住まいに越してきた。それから数カ月後の冬、家の敷地内に、小柄でおなかをすかせた様子の野良猫が現れるようになった。
おなかをすかせた野良猫を保護
夫婦は2匹の猫とともに暮らしていたこともあり、まだ寒い季節、家の外で食べ物を探す猫をふびんに思った。
「耳カットがあったので、おそらく地域猫として誰かがお世話をしていたんだと思います。夫と、『この子、このまま放っておけないよね』と話し合い、すぐに保護することを決めました。ただ、警戒心が強い子で、なかなか近づくことができなかったので、まずは敷地内にトイレと段ボールハウスを用意して、毎日通ってくるようになるのを待ったんです」
夫婦が猫を捕獲したのは、2カ月ほど経ったある日。地域の保護団体から借りてきた捕獲器に、猫用ちゅーるでおびき寄せて誘い込んだ。まりこさんは、初めて使った捕獲器に猫以上にパニックになりながら、カバーをかけた捕獲器を抱え、動物病院に駆け込んだ。やや小柄で、ところどころ毛が抜けてハゲができてはいたが、診断結果はいたって健康。推定3歳の雌ということだった。
こうしてまりこさん夫婦の家に迎えられた野良猫は、先住猫の紅茶(雌・8歳)、白茶(雌・6歳)から「茶」とって、新入りの”新茶”と名付けた。
先住猫と仲良しに
人間への警戒心が強い新茶は、まりこさん夫婦をひどく威嚇した。2人は先住猫のこと考えて新茶を隔離し、ケージ生活からゆっくり慣れさせた。初めて対面させた時は新茶を威嚇していた紅茶と白茶だが、数日経つと新入りの存在をすぐに受け入れ、新茶も先輩たちにすぐに打ち解けた。
猫たちには上下関係があり、それぞれの立場が関係性に現れる。絶対的ボスの紅茶と2番手の白茶は、仲はいいがけんかも激しい。末っ子の新茶は、紅茶には気を使うが、白茶に対しては友達のようにおふざけを楽しむという。
「新茶なりに紅茶に気を使っているのが面白いんです。白茶がご飯を食べてる時には遠慮なく並んでガツガツ食べるのに、先に食べているのが紅茶だと、後ろでそっと順番を待っているんですよ(笑)。野良猫社会で生きてきたサガなのか、ボスには弱いんですよね」
先住猫たちとの暮らしには積極的になじんだ新茶だが、人間に対してはなかなか心を開かない。
「人間が近くにいるのが怖かったみたいで、近づくだけで『シャー!』と威嚇してきました。だから病院の時はもう大変。かわいそうだけど、旦那と2人がかりで追い込んでキャリーに入れていたんです。まあ、そのうち慣れるかなと思っていたんですが……」
飼い主だけに威嚇
新茶はまりこさん夫婦と暮らして、今年で5年目。いまだに、夫婦が近づくと「シャーッ!」と威嚇する。しかし、その威嚇には、飼い主だけにわかる変化があった。
「以前は『シャー!』は『近づくな!』という意思表示だったんですけど、今は怒っていてもそうじゃない時も、ただクセみたいに『シャー』とやるんです。ベッドでリラックスしててもなんとなく『シャー』。眠い時やめんどくさいときは声に出さず顔だけ『シャー』。もうあいさつだと思って気にしてません(笑)。さわれないことを除けば、猫同士うまくやっているし、ご飯も食べるし、生活はごく普通の家猫。たまに、うっかり近づきすぎると猫パンチが飛んでくるけど、それも爪を出していないので全然痛くないんですよ」
まりこさん夫婦は、新茶にとっての「シャー」が、たんなる拒絶ではないことに気が付いているという。
「私たちには『シャー』するけど、他の人間の前では怖すぎてカチカチに固まっちゃうんですよ。声も出しませんし、もちろん『シャー』もしません。だから、キャリーに入れるのは大変だけど、病院での診察は逆に楽だったりします」
家猫生活でふくよかに
臆病でちょっと変わりものの新茶だが、新茶は新茶なりに、家族や家猫生活が気に入っている。
「私が台所に立つと、キッチンのガラス戸越しに、私の動きをじっと眺めているんです。ベランダで洗濯物を干している時も、やっぱり窓ガラス越しにじっと見ている。ガラス1枚あれば自分から近づいてくるんですよ。だから私たちに全く興味がないわけじゃないのかなって」
めったに声を出さないという新茶だが、レアな鳴き声を聞ける瞬間もある。
「新茶はなぜかエアコンの暖房が好きなんです。はじめて暖房をつけた時には、テンションが上がってエアコンを見上げて高い声でみゃあみゃあ鳴いていました。クーラーじゃダメなんです。なぜか暖房。変なことに喜びますよね」
もともと小柄な割に筋肉質だった新茶だが、家猫になってもりもりご飯を食べ、今ではすっかりふくよかになった。
「保護当時は3.5キロでしたが、今は4.5キロに増えました。大好きなのはおやつの『ちゅーる』。『ちゅーる』は、“『ちゅーる』に似たおやつ”ではダメで、『ちゅーる』しか食べないというこだわりがあります」
元気なシャーずっと見せて
「たしかに、もう少し慣れて欲しいという気持ちもあります。でもそれは、触ることができないと、急な病気や災害の時にすぐに連れ出せないからというだけ。懐いて欲しいと思っているわけではないので、新茶は新茶のままでいいんです」とまりこさん。
「新茶の『シャー』は私たちにとって、その日の機嫌や体調のバロメーターでもあるので、ずっとこのまま元気な『シャー』を見せて欲しいですね。『シャー』のバリエーションが増えるのも、結構楽しんでいます(笑)」
猫と飼い主の数だけ絆の形がある。慣れない捕獲器で捕まえて”うちの子”に迎えたその日から、ずっとずっと大切にしてきたからこそ、新茶は今日も家族だけに特別な「シャー!」を見せる。
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