コロナ禍で飼い主が失業、劣悪な環境に犬猫54匹超 「飼わない」ことも動物への愛情

カヌーに乗る犬と男性
一歩も外に出ない生活から一変。アクティブな生活を楽しむボーダーコリーの希姫(キキ)ちゃん。飼い主さんも運動量が増え2kgも体重減!

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。今回は、犬や猫と暮らす「覚悟」について考えましょう。ケージから出ることなく生きてきたボーダーコリーの希姫(キキ)ちゃん。コロナ禍で職を失った飼い主からレスキューされ、ドッグトレーナーの方と暮らすことになりました。犬や猫の暮らす環境を整えられるのは飼い主だけです。あなたは覚悟を持って飼育できていますか?

(末尾に写真特集があります)

安易な購入が多頭飼育崩壊へ

 私たちアニドネが支援している「特定非営利活動法人 ファミーユ」さんは、名古屋市を中心に、行政からの引き取りを中心とした保護活動を行っています。しかし、コロナの影響で職を失った飼い主さんより、収入がなく犬たちを養う余裕がなくなったため引き取って欲しいとの相談を受けました。自宅には、なんと犬が24匹、猫は30匹以上が劣悪な環境で飼育されていました。

 その中の1匹が今回ご紹介するボーダーコリーの希姫(キキ)ちゃんです。

糞尿まみれのケージ生活から一転

 希姫(キキ)ちゃんの新たな飼い主になったのは、ドッグトレーニングやデイケアを事業としているプーチーズの代表である伊藤麻紀さん。ドッグトレーナーのかたわら保護活動も行っていて、ファミーユさんと共に多頭崩壊のご家庭へのレスキューに入られたそうです。レスキュー時から現在までの話をお聞きしました。

筆者:レスキュー時はどのような様子でしたか?

伊藤さん:ケージの中で生活しており、散歩に行ってもらうこともなく動き回れないケージの中で食事も排泄も行っていました。その為、身体は糞尿まみれて毛がウンチで固まり絡まっている状態で悪臭も放っていました。また、体重も7カ月のボーダーコリーとしては小さすぎる5kgしかなく、血液検査の結果も悪く飢餓状態と言われました。

筆者:なぜ希姫ちゃんをご自身の愛犬としてお迎えしたのでしょうか?

伊藤さん:当初は、私が運営する動物愛護団体で引き取り、譲渡先を探すつもりでした。しかし、彼女を初めて見たとき、あまりにも痩せていて今までの生活歴から考えても色々な問題となる行動が出てくるだろうからトレーニングをしてから譲渡先を募集することになるだろうな、と。

 我が家の愛犬はもう3匹とも初老で落ち着いてしまっているのでトレーナーとして久々の若い犬とじっくりトレーニングができることにワクワクしました。でも、そうしたら彼女との時間が楽しくなって手放せなくなるんだろうなぁと思い……では、私が飼ってしまおう!と。帰りの車の中で決めました。この子と暮らしたら大変なこともひっくるめて絶対楽しい!と。つまり私の一方的な一目ぼれです(笑)

カヌーに乗る犬
この笑顔、なんと満足げ。お散歩すらできてなかった希姫ちゃん。世界は広い、これからは伊藤さんといろいろなことにチャレンジできるね

筆者:ボーダーコリーという犬種との暮らし方を教えてください。

伊藤さん:とにかく運動量の必要な犬種だと思います。朝晩の数時間の散歩だけでなく、それ以外の時間も活動ができるように環境を整えてあげる必要があります。

 私も希姫を迎えてから、まだ様々な問題が出るため他の犬と一緒に散歩はいけないので、毎朝毎晩数時間の散歩が増えそのおかげで2kgほど痩せました(笑)。動き回りたいこの犬種の欲求を満たす覚悟が必要だと思います。

 また、人との関わりが大好きなので一緒に過ごす時間の確保も必要です。犬種の特徴としてトレーニングなどで頭を使うことも必要ですが、動くものを追いかけてしまったりとっさに素早い動きが出たりするため散歩中の事故などには留意が必要です。

変化していく希姫ちゃん

 保護してからしばらくはおもちゃにすら近づけなくて、ビクビクしていたそう。今までの暮らしが影響していたのでしょう。散歩では、リードを付けるとパニックになりリードをかんで外そうとしたり、車や自転車、走っている人などに威嚇して飛び掛かろうとしたり、自宅では人がその場から離れるとほえたり、食事は一心不乱にがっつくように食べ、執着するような行動が続いたそうです。

 しかし、そこはドッグトレーナーである伊藤さん。今では、散歩も車は全く反応しなくなり、自転車なども練習中ですが気にせず歩ける時間が増えています。食事も落ち着いて食べており、一緒にカフェでまったり過ごせているそうです。

ボードにのる犬と男性
水遊びが大好きな希姫(キキ)ちゃんのために、泳ぎや海を苦手とする伊藤さんが一念発起してSUPにチャレンジ!

今は飼わない、それも優しさ

 ドッグトレーナーの立場からみて、伊藤さんからのアドバイスです。

「現在、コロナウイルスの影響で自粛生活が長引き、犬を新たに家族に迎える人が増えました。しかし、犬という動物が本来持っている要求を満たすことの出来ている家庭がどれぐらいあるだろう?と思います。

 もちろん、私も愛犬にはたくさん我慢させてしまっていることはあるのですが、犬たちの意見も聞かず、私が暮らしたいという一方的な理由で我が家に連れてきた責任として彼女たちの時間が少しでも満たされるよう努めています。トレーナーとしては、犬を飼うなら犬種の特性をよく見てから迎えてほしいですね。

 犬は犬種によって強く出る本能的な行動や欲求が違います。見た目がかわいいだけではなく、自分の家庭環境の中でその犬の持つ特性を十分満たしてあげられるかを考えてから迎えてあげてほしいです。それができないなら、飼うことをあきらめることも動物への愛情だと思います」

2匹の犬
これからは人間と暮らすって楽しいね、と思ってもらいたいね

 犬を飼育したことがある方ならわかるでしょう。ボーダーコリーという犬種、とにかく賢くドッグ競技やフライングディスクなどで活躍する元牧羊犬です。そんな犬を迎え入れるためには、長時間の散歩の時間が確保できるのか、賢いが故に簡単ではないスキルが人間側にも要求されます。そして信頼関係が築ければ深い絆が持てるすばらしい犬種です。

 今回、多頭飼育崩壊した飼い主さんは近くのペットショップで次々と購入し、結果飼いきれなくなりました。犬猫をかわいいと思い好きだから購入したのだと思いますが、お散歩に行くこともできず犬はつらい思いをしていたのではないでしょうか。

 飼育することと生かすことは違います。動物がその動物の特性を発揮し、ストレスなく過ごせるように環境を整えてあげるのは、共に暮らす人間でしかできないこと。動物福祉の基本中の基本ではないでしょうか。

 最後に伊藤さんから希姫ちゃんへメッセージです。

「日に日にできることが増えていき、それを感じる時間が本当に楽しいです。希姫にとっては突然暮らしが変わったにもかかわらず、私との生活に必死に順応してくれるあなたに心から感謝しています」

 喜怒哀楽以上に感情がある犬猫たち。飼育する人間側によって犬生や猫生が大きく変わります。覚悟を持って、命に向き変えるのか、それができないならばペットとの暮らしを選択しない勇気も必要でしょう。

(次回は12月5日に公開予定です)

【前の回】「スイスは世界一動物に優しい国」 訪れて感じた動物がストレスなく暮らすための配慮

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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