戸建てに238匹もの猫 悲惨な多頭飼育崩壊を生き抜き、ママになった2匹の猫
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。「犬や猫のためにできること」がテーマの連載。犬や猫は人間と共に生きる「伴侶動物」です。伴侶動物に関する問題は実は動物側の責任ではなくて人間側の責任です。今回は、悲惨極まりない多頭飼育崩壊の現場からレスキューされ、その後立派に子育てをした2匹(クロちゃん&しろちゃん)のママ猫の話から、私たち人間の在り様を考えてみたいと思います。
糞尿と骨が転がる現場を生き抜いた命たち
「なぜ、どうして?」多頭飼育崩壊の現場を知るたびに、いつも頭をよぎる言葉。こんな惨状に至るまでにどうにかならなかったのか、と。
アニドネは中間支援組織なので、自分たちの組織ではレスキュー活動はしていません。しかしここ数年、支援をしている団体さんから「多頭飼育崩壊」という言葉をよく聞くようになりました。
驚きの惨状を見るたびに「なぜ、どうして?信じられない」。しかしがくぜんとしたままで思考を止めても解決にはなりません。
私たち、寄付サイトを運営するアニドネのキャッチフレーズは『キモチをカタチに。』。だから、大変な思いをして活動する団体さんの支援のために、この夏「緊急支援基金」を立ち上げました。
今回は、そんな多頭飼育崩壊から、妊娠した状態でレスキューされた2匹の猫ちゃんのお話です。骨や糞尿が転がる現場で生き抜いた、クロちゃん。あごの黒いぶちがチャームポイント。レスキューされたのち、無事出産。子育てにも慣れているようで、せっせとお世話をしたそうです。
もう1匹は、栄養状態が悪かったのか、片目が癒着した状態のしろちゃん。しろちゃんは出産経験がある様子でしたが、出産直後は胎盤の付いたまま子猫を前にどうしたら良いか分からない様子だったそう。多頭飼育崩壊の現場では、生んだとしても子猫は生き延びることすら出来ない環境だったのです。
赤ちゃん猫に慣れているねこたまごのボランティアさんがへその緒を切り、体を温め、おっぱいを吸わせると一気に母性が目覚めたようでお世話を始めたしろちゃん。それからはご飯を食べることも忘れてしまうほど、子育てに没頭し見事に離乳まで育て上げたそう、なんと立派なママなのでしょう。
2匹の子育ての様子は、アニドネスタッフが動画にしました。ぜひご覧ください。
多方面からのサポートが必要
ねこたまごさんに取材しました。なぜ、このような多頭飼育崩壊が起きてしまうのでしょうか?
「様々な要因がありますが、猫を飼育する上での基本的な知識の欠如(妊娠する月齢や繁殖力の高さを知らない等)が根本にあります。過去、猫を外で自由に飼っていた経験しかない方に多く見られます。
そして、経済力も要因です。避妊去勢手術、行政への引き取り手数料が払えない。福祉や行政に相談をしても『まずはご自身の責任の上で解決してください』と言われてしまうことも。そこから前に進めず頭数だけが増えていき悪循環になってしまい崩壊してしまいます」
基本的には猫が好きだから、飼育している方だと思いますが……
「多頭飼育崩壊を起こす方の中には、精神的な疾患や発達障害、認知症を抱えている方もおられます。また社会からの孤立感を感じ動物に依存するケースも多くあります。保護団体が猫をレスキューするだけでは、根本の人間の解決がされません。
多頭飼育崩壊を未然に防ぐには、町内会や福祉、行政機関、医療従事者、保護ボランティア団体などがチームを組んで情報を共有し、多頭飼育崩壊の芽を見つけ、必要な『手』を差し伸べられるようにすることが今後必要だと思います。
多頭飼育崩壊は動物虐待であり、地域の住環境を破壊する社会的にとても大きな問題です。保護団体任せではなく、もっと多方面の方が関わり、解決していくべきだと感じております」
長く生きられない子も多い
多頭飼育の現場からレスキューされた猫たちには特徴があるようです。やはり、近親交配で生まれるので体の弱い子が多いそう。今回保護した猫たちも耳が聞こえてない子や、おなかが弱い子も多く、また、悲しいけれど育たない子猫たちが多くいたそうです。
性格的な特徴としては、人に対して信頼しきれずおびえた様子を見せるか、つきまといなど極端な甘え方をする子に分かれるとのこと。快適な暮らしができる場所だけでなく、精神的なリハビリも必要としているそうです。感情の豊かな猫たち、当然心のケアは重要ですね。
保護動物の飼い主になることも、私たちが犬猫のためにできることですよね。ねこたまごさんから、家族に迎える決断をできそうなお話をいただきました。
「譲渡希望の方には、正直に、近親交配で生まれ遺伝的な疾患がある確率が高く、長生きできないかも知れないと説明をさせていただいています。
しかし、過酷な環境で育った子たちなので、自由に過ごせる空間や、自分だけに向けられる愛情、おなかいっぱいご飯がもらえることなど、家猫として当たり前の待遇に深い喜びを感じて、態度で表現してくれます。
そんないじらしい姿に人間も癒やされますし、そんな彼らを家族にできた事に、多くの幸せを感じてもらえると思います」
多頭飼育崩壊は根深い社会問題です。犠牲になるのは動物であるのはまぎれもない事実。だけど、実は人間側も社会的弱者である場合が多く、サポートを必要としている状況なのです。『いい加減な飼い主が悪い』では問題解決にはならないのです。
コロナ禍、地域コミュニケーションを深めていくのは難しいかもしれないのですが、他人事とは捉えず、自分の近くに困っている人がいないか、何かできることはないのか、を考えてほしいと思います。
今回紹介をした、クロちゃん&しろちゃん。このけなげすぎるママ猫たちに、私たち人間はどうおわびをすればいいのでしょうか。共に共生する犬猫たちの動物福祉を整えることは人間側でしかできない配慮です。もっと人間側がちゃんと考えるべきだ、と2匹の優秀なママ猫たちに言われているように感じます。
(次回は10月5日に公開予定です)
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