汚物の上で生きてきた犬たち 多頭飼育崩壊から考える動物福祉

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。連載8回目は先日取材した犬たちについて書きます。彼ら4頭は約60頭が暮らしていた一軒家から保護された犬たちです。避妊去勢をしなかったがために、最初は2頭だった犬がいつの間にか約60頭に。食事はばらまき状態で食べ、汚物は部屋に散らばり、その同じ空間で人間も暮らしているという現場から保護されました。にわかに信じがたい場所からレスキューされた犬達はどのような様子だったのか、この状況から考える動物福祉とは、をつづります。

(末尾に写真特集があります)

多頭飼育崩壊からのレスキューが増加

 「多頭飼育崩壊」を知っていますか? 多くの方が、聞き慣れない言葉でしょう。

 ですが、私のような仕事をしていると、ここ最近はかなりなじみがある言葉、になりつつあります。飼い主のキャパシティーを超えて飼育してしまったがために飼いきれない状況のことを言います。この状況になったら自分たちではどうすることもできないので、行政や保護団体がサポートに入り犬猫たちをレスキューする活動が数年前からとても増えてきた、という印象があります。

 この記事に登場する犬たちは生まれてから一度もお散歩をすることがなく、幾重にも重なった汚物の上で、撮影前日まで暮らし生きてきた犬たちです。

母犬らしき犬(ねねちゃんという名前らしい)に甘える様子。4頭はとても仲がいい
母犬らしき犬(ねねちゃんという名前らしい)に甘える様子。4頭はとても仲がいい

 レスキューをしたのは、横浜にある一般社団法人アニマルハートレスキューさん。アニマル・ドネーションが支援をしている認定団体の一つです。取材に行った私たちに「ふわっふわの4頭がいますよー」と代表の山本りつこさんがうれしそうに紹介してくれました。

 現場から保護された犬たちは、まずはきれいに洗ってもらったそうです。アニマルハートレスキューさんは、母体が動物病院とペットホテルやトリミングなどもやっているので、いわば犬猫たちのプロ集団。洗う前は、臭いがひどい状態だったらしいのですが、私たちと対面した犬は本当にふわふわで可愛らしい様子。環境変化により食事はあまりしていないようで、「緊張しているのかもしれないし、もしかしたらフードボールで食べた経験がないかもしれない」と山本さんは推測していました。

飼い主次第で決まってしまう犬の暮らし

 動物福祉という言葉は、日本ではまだなじみが薄いかもしれません。

 日本より、動物福祉が進んでいると言われるイギリスでは、1965年に5つの自由が提唱され2006年に条文化されています。国際的な動物の福祉基準として掲げられているのが、以下5つの自由となります。

  1. 1.飢えと乾きからの自由
  2. 2.肉体的苦痛と不快からの自由
  3. 3.外傷や疾病からの自由
  4. 4.恐怖や不安からの自由
  5. 5.正常な行動を表現する自由

 そう、この動物福祉の観点からすると、彼らが生き抜いてきた場所はどうだったのでしょうか。

 私は1時間ほどしか接していませんが、とてもいい犬たちでした。痩せたり皮膚病もなく、ちょうどいい体形でけがもありません。メディカルチェックをした獣医さんによると、今のところは大きな病気はなさそうとのことでした(今後検査をするそうです)。

 人をまったく怖がっていませんでした。飼い主さんは結果的に手放すことになりますが、きっと犬は大好きでかわいがってきたのでしょう。身体のどこを触ってもうれしそうにしていました。また多頭で暮らす犬たちは社会化ができています。助け合い、ときに犬同志で叱られながら生きてきたため、コミュニケーション能力が高いと感じました。

若い二匹。くっついて寝転んだり、口をなめ合ったり。時間がたてばたつほどリラックスしてました
若い二匹。くっついて寝転んだり、口をなめ合ったり。時間がたてばたつほどリラックスしてました

 しかし現場にいた全頭が生き抜いてこられたのか、はわかりません。生まれてすぐに命を落とした犬もいるかもしれません。また、ご存じの通り犬はきれい好きです。撮影中にスタッフがみなびっくりしたのですが、この4頭はトイレシートを使ったこともないはずなのに、ちゃんとシートの上で排尿していました。自分のスペースを汚したくないのですよね。想像するに暮らしてきた環境はストレスを感じるものだったのではないでしょうか。

 また、犬は走る動物です。庭のある戸建てのようですが、満足はできていなかったのではないでしょうか。色々な匂いを嗅ぎ思いっきり走らせて肉体的欲求を満たすのは飼い主の務めだと思います。

 この子たちが生きてきた場所は到底、5つの自由を満たしてはなかったと思います。

 今後、この犬たちの第二の犬生がすばらしきものになるよう、動物福祉が十分に満たされた環境を作ってあげられる飼い主さんと出会えることを願ってやみません。多頭飼育崩壊を目にするたびに、犬には罪はない、すべて飼育者である人間の問題、だと痛感します。

 私もついつい忙しさにかまけ、お散歩に行ってあげられないことを悔やむ日もあります。どこまでやれば動物福祉が合格なのかは分かりません。ですが、しゃべることのできない動物の立場になって環境を整えてあげることを常に人間側が意識することが大事だと思います。

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西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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