病気が判明した元野良猫「ぽんた」 長くて余命2年と告げられた

 ぽんたの病名は、慢性腎臓病だった。

(末尾に写真特集があります)

 腎臓病はシニア猫に多い病気で、完治はしない。ただし進行を遅らせることはできる。もっとも効果的なのは食事療法で、腎機能に負担をかけない療法食を与えることで、生存期間はのばせる、と先生は私に話した。

 「実は‥‥‥3カ月前に血液検査をしたときから、ぽんたちゃんは少し腎臓の数値は高めだったんです。ただ初診では体質までは把握できず、発病につながるかの判断はできなかったので……」

 申し訳なさそうに先生は言い、血液検査の結果を並べて提示した。

 腎臓病の進行は、血液中のBUN(尿素窒素)とクレアチニンの項目で判断する。3カ月前の数値は、ともに正常値の範囲内ではあったが、よく見ると上限ぎりぎりだ。今は、それをはるかに超え、倍以上の値になっていた。

「きれいに撮れてるの?」(小林写函撮影)
「きれいに撮れてるの?」(小林写函撮影)

 このとき私は、猫についてはおろか、人間の病気としても腎臓病についてきちんと理解していなかった。先生からたった今説明を受けたにもかかわらず、「完治しない病気」の意味がピンときていなかった。ぽんたが病気である、という事実でいっぱいになった頭では、それ以上のことを受け入る余裕はなかった。

 脱水症状を改善するための点滴(皮下輸液)と、ビタミン注射をしてもらい、療法食の試供品を幾つかもらって、ぽんたを連れて帰宅した。

「ぽんた、腎臓病だって」

 ツレアイに告げると、「えーっ、そんな‥‥‥」と言い、作業の手が止まった。

「どうやって治療するの?猫に人工透析は無理でしょう。余命は聞いた?」

 ツレアイのあまりにも深刻そうな様子を見て、私は、大急ぎで、病院でもらった猫の腎臓病について書かれたイラスト入りの小冊子を開いた。

 腎臓はネフロンという組織の集合体で、これが壊れると再生しない。一部のネフロンが壊れると、残されたネフロンがその分も働こうと無理をし、負担がかかり、さらに壊れるネフロンが増える。こうして、徐々に腎臓の働きが低下すると、猫は血液中の老廃物を体外に排出できなくなる。体の中に毒素がたまり、多飲多尿、脱水や食欲低下、貧血などさまざまな症状が出る。そして残った腎機能がすべて失われると、死に至る。

 腎臓病は猫の死因のトップであり、血液検査の結果で異常が出たときは、すでに腎機能の70パーセントが失われている。

「僕、病院は嫌いなんだけど」(小林写函撮影)
「僕、病院は嫌いなんだけど」(小林写函撮影)

 私は、ことの重大さをやっと理解した。

 翌朝、再びぽんたを病院へ連れて行った。

 数日間は通院し、点滴治療を行うことになっていた。脱水が改善され、たまった老廃物が尿と一緒に排出されれば体が楽になり、食欲も元気も出てくる、ということだった。しかし、ぽんたは、試供品の療法食を少し口にし、水を飲むだけで、ほとんどの時間は私の部屋にこもっていた。

 3日目は、ツレアイも病院に同行した。ぽんたの体重は4.1kgだった。目標体重の4.5kgを通りこし、軽くなってしまった。食事をとらないと、こんなにもあっという間に体重が落ちてしまうのかと、ショックを受けた。

 「余命は、どのぐらいでしょうか?」

 怖くて聞けない、と言っていた私の代わりにツレアイが質問した。

「ぽんたちゃんがどの程度治療に応えてくれるかによるので、断定はできませんが‥‥‥この数値だと1年か‥‥‥長くて2年でしょうか」

「さてと、自分の部屋にもどるかな」(小林写函撮影)
「さてと、自分の部屋にもどるかな」(小林写函撮影)

 のどの奥がつまり、こみあげてくるものがあったが、私はなんとかそれを押し込めた。帰宅し、夕食の席では2人とも言葉が少なく、「まるでお通夜のよう」という表現はこういうときに使うのかと、ぼんやり考えた。

 しかし、当のぽんたは、少し元気をとりもどしたようだった。病院から戻ってしばらくすると、家の中を歩き回り、毛づくろいをした。そして食事をしている私たちの横にやってくると、両前脚をついて食卓の上にのびあがり、片方の脚で私の皿をつんつんとつついた。

 私は立ち上がり、ぽんたの食器に療法食を入れて床に置いた。ぽんたは、口を大きく動かしながらカリカリと音をたて、平らげた。

 こんなに旺盛な食欲を見せるのは久しぶりだった。私はこぼれてくる涙をぬぐいながら、きっと、ぽんたは大丈夫、と自分に言い聞かせた。

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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