猫「ぽんた」の葬儀の日 ひつぎを花で埋めて最後の別れをした(49)

 慢性腎臓病と診断されて2年と9カ月目に、ぽんたは息を引き取った。秋の終わりの早朝のことだった。

(末尾に写真特集があります)

 ぽんたが亡くなったらまず何をするべきか。それについて私は、余命があと数日と知らされたときから、インターネットや本で調べていた。

 書かれていたとおりにぽんたのからだを清め、丸くなって寝ている姿に形を整え、猫ベッドに寝かせた。買ってきた板氷と保冷剤をタオルに包んで入れ、ぽんたのからだが傷まないように保冷をした。

 猫ベッドは、リビングのチェストの上に安置した。ぽんたが毎日登って、窓外のパトロールをしていた場所だ。花を飾り、好きだったじゃらし棒と、ぽんたの抜け毛で作った毛玉ボールもベッドの中に置いた。

 やわらかな日差しに包まれているぽんたは、話しかければ今にも顔を上げ、「ほなー」と機嫌よく鳴きそうだ。

 葬儀は、動物病院で紹介されたペット専用の霊園に頼むことにした。1匹ずつ火葬してもらえて、お骨上げもできる立ち会いの個別葬を選んだ。

 葬儀は3日後に決まった。ぽんたが、この家にいられるのも、あとわずかだ。

「そうか僕はもうこの世にいないのか」(小林写函撮影)
「そうか僕はもうこの世にいないのか」(小林写函撮影)

 夕方、報告とお礼のために動物病院へ行った。

 ぽんたが亡くなったことは、電話で伝えてあった。ドアを開けると、いつもは「こんにちは!」と元気にあいさつしてくれる受付の看護師さんが、この日は私の顔を見るなり目を伏せ、頭を下げた。

 待合室のソファに座り、診察室に呼ばれるのをツレアイと2人で待つ。

 この日も、待合室は診察を待つ犬や猫たちでにぎわっていた。その様子をぼんやりと目で追っていると、ぽんたと通院していたときによく耳にしていたBGMの曲が流れてきた。

 診てもらう動物もいないのに、動物病院の待合室にいるのはつらい。

 診察室に通され、院長先生に亡くなったときの様子を話し、これまでのお礼を述べた。「これからしばらく、寂しくなりますね……」という言葉を聞いたとたんに胸が詰まり、あいさつもそこそこに部屋をあとにした。

 病院を出て、通りを渡ったところで振り返った。玄関まで見送ってくれた先生が深々と頭を下げている姿が目に入り、視界がかすんだ。

「さかなちゃん、また遊ぼうね」(小林写函撮影)
「さかなちゃん、また遊ぼうね」(小林写函撮影)

 葬儀の日の朝は、雲ひとつない青空が広がっていた。

 ツレアイの運転する車にぽんたをのせて、予約していたペット霊園へ向かった。

 ぽんたをスタッフにあずけてしばらく待つ。呼ばれて部屋に入ると、キャンドルがともされ、私たちが持参した花とぽんたの写真が飾られた祭壇の中央に、バスケットのひつぎに入ったぽんたがいた。

 ぽんたの前脚に、用意された小さな数珠をはめる。周囲にははがきサイズの「ぽんたカレンダー」をさし込んだ。ツレアイが毎月、ぽんたの写真で作成していたものだ。裏には、友人や知人から届いた、ぽんた宛てのお悔やみのメッセージを、ペンで書き写しておいた。

 ぽんたのひつぎを花で埋め、祭壇の前で手を合わせた。「最後のお別れを」と言ってスタッフが席をはずしたので、ツレアイと2人、思う存分ぽんたに話しかけ、泣いた。

 火葬炉に送られるときは、炉の扉が閉まる瞬間まで名前を呼び続けた。

 1時間後、ぽんたは骨になって戻ってきた。

 ぽんたのしっぽは「幸福を呼ぶカギしっぽ」だったが、小さな骨もちゃんとカギの形をしていた。

「おれって結構人気者だったらしい」(小林写函撮影)
「おれって結構人気者だったらしい」(小林写函撮影)

 それから3日後の祝日に、友人と小学生の娘Rちゃんが家に遊びに来た。彼女たちが来ることは、2カ月前から決まっていた。

 猫が大好きだが、まだまともに猫にさわったことがないというRちゃんは、ぽんたに会えるのを楽しみにしていた。ぽんたの病気が進み、一緒に遊べる元気はないことは伝えてあったが、「お見舞いに行きたい」と言ってくれていた。

 願いがかなわなかったRちゃんは、自分とぽんたの似顔絵を描いたメッセージ入りのカードと、毛糸で編んだ小さな白いマフラーを持って来た。マフラーは、「ぽんたが天国で寒くないように」という、かわいらしい配慮だった。

 私は手料理をふるまい、ぽんたの写真や動画を見せて、思い出話をした。

 まだ廊下に置いたままになっている猫トイレを見た友人は、「ぽんたちゃんが今にも出てきそう」と言って涙ぐんだ。

 チェストの上で写真立てに収まり、友人や知人が贈ってくれた花に囲まれているぽんたをながめる。今日は、仏事でいうところの初七日かもしれない。

 ぽんたは、虹の橋のたもとに着いた頃だろうか。

 私は、ぽんたの好きだった窓から空を見た。

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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