猫「ぽんた」を看取ってから1カ月 寂しさのなかで芽生えた希望(50)

 慢性腎臓病を患っていたぽんたが、2年と9カ月の闘病の末に亡くなって1カ月が過ぎ、年の瀬を迎えた。

(末尾に写真特集があります)

 私が、野良生活を送っていたぽんたを保護し、一緒に暮らした期間は3年にも満たない。子猫時代から老猫になるまで世話をした人に比べれば、思い出が多いわけではない。また引き取って4カ月目に腎臓病が発覚し、余命2年と宣告された。事故などによる急死ではないから、別れの日がくる覚悟はある程度はできていた。

 ぽんたには、できるかぎりの治療や介護はした。最期も穏やかだったし、後悔はない。

 それでも、寂しいのだ。

 朝起きると、ぽんたの姿を無意識にさがしてしまう。部屋のドアをすべて半開きにする癖は抜けないし、部屋の隅に置いてある黒いバッグが視界に入ると、「あ、ぽんた」と錯覚してしまう。

 朝晩、ぽんたに投薬していた時間が迫るとそわそわする。ああ、もう薬は必要なかった、と気がつき、力が抜ける。

 ぽんたが好きで登っていたチェストや見晴台を見て、空間がある不自然さに涙がこぼれる。

「未決箱からこんにちは、ぽんたです。今回でみなさんとお別れだね」(小林写函撮影)
「未決箱からこんにちは、ぽんたです。今回でみなさんとお別れだね」(小林写函撮影)

 15年前に父親が亡くなったときの寂しさとは種類が違う。あのときは、死に対する悲しみが癒えると、寂しさはすぐに思い出に昇華した。それは、父が寿命といわれる年齢であったことに加え、私が実家を出てから10年以上も経ち、生活をともにしていなかったからだと思う。

 一緒に暮らしていた生き物が日常生活から姿を消す。それが、たとえものを言わない小さな存在だとしても、場合によっては親の死よりつらいことを、私は知った。

 この空虚感は、新しく猫を迎えれば埋まるのだろうか。こう考えるのは不謹慎だと思っていたのだが、そうともいえないようだ。

 私が愛読していた、老猫との暮らしや看取りについて書かれている本では、「新しい猫を飼ったら、亡くなった猫が悲しむ」ではなく、「新しい猫を幸せにすることで、亡くなった猫が喜ぶ」という考え方を提案していた。

 「猫と暮らし、看取った人は、猫を幸せにする力を持っている。その力を、自分の仲間である新たな猫に注ぐことに、亡くなった猫は異議を唱えないはずだ。天国にいる猫は、飼い主が猫とともに幸せになることを望んでいる」というような内容だった。

「おれのことはもう忘れてくれ。じゃあな」(小林写函撮影)
「おれのことはもう忘れてくれ。じゃあな」(小林写函撮影)

 しかしツレアイは「ぽんたみたいに性格が穏やかで聞き分けがよく、あんなにいい猫はほかにはいない。この家の猫は、ぽんただけで十分」と言う。

 私は、「また猫と暮らしたい」という気持ちが自分の中に芽生えていることに気がついていた。本に出ていた「考え方」がその芽の成長を後押ししようとしていた。

 ただそれは、今すぐかなえるべき望みではない。

 今、私が猫を引き取りたいと行動を起こした場合、探すのは白黒ハチワレ猫だろう。年齢や性格に関しても、ぽんたと似たところのある猫を間違いなく見つけようとする。

 面影を追って猫を迎え入れることは、猫にとっても、私にとってもいいことではない。

 だから、「ご縁があれば」と考えるようにした。

 いつかまた、ぽんたと出会ったときのように、自然に導かれて猫に出会うだろう。ぽんたとは違う個性を持った、うちに迎えるにふさわしい猫が現れる。

 私は、ぽんたが使っていた猫トイレやキャリーバッグ、食器をきれいに洗い、消毒し、納戸にしまった。

 これらを、また使う日がきっとくる。そう思うことが、寂しさを埋める希望になった。

「みなさん、またいつか会いましょう」(小林写函撮影)
「みなさん、またいつか会いましょう」(小林写函撮影)

 年が明け、ぽんたが亡くなって2カ月が経った。

 私は、久しぶりにぽんたを保護した近所のアパート前の道を通った。目の前は広々とした砂利敷きの駐車場で、昼間は駐車している車も少なく、ほぼ空き地と化していた。

 ぼんやりとたたずんでいると、足元に気配を感じた。茶白猫の「にゃーにゃ」だった。

 にゃーにゃは、ぽんたの野良仲間で、ぽんたより前に知りあった猫だ。ぽんた同様、元飼い猫らしく、人に慣れているため、近隣の人々にかわいがられていた。

 私は、しゃがみこみ、久しぶりににゃーにゃをなでた。

 ぽんたが家にいたときは、野良猫との接触を控えていた。不用意になでて、寄生虫や菌などを衣服につけて持ち帰り、ぽんたに移しては一大事、と考えていたからだ。また、外で猫をかわいがると浮気をしているような、うしろめたい気にもなるからだった。

 にゃーにゃはうれしいらしく、のどを鳴らしてひざにまとわりつく。

 久しぶりになでる猫は温かかった。毛の感触とともに伝わってくる体温が、私の中で眠っていた何かを揺り起こした。  

【前の回】猫「ぽんた」の葬儀の日 ひつぎを花で埋めて最後の別れをした(49)

(連載「猫はニャーとは鳴かない」は、今回で終わりです。2年間にわたり、ご愛読ありがとうございました)

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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