「おじちゃんの本だって?ふーん」(小林写函撮影)
「おじちゃんの本だって?ふーん」(小林写函撮影)

元野良猫「はち」を迎えて約1カ月 くしゃみに頻尿、体調の変化に右往左往する日々

 人生ではじめて一緒に暮らした猫「ぽんた」を看取って2カ月半後に保護した、元野良猫「はち」。激しい夜鳴きと朝鳴きがおさまりつつあると思った矢先に頻尿が気になり、動物病院に相談したところ、特発性膀胱炎と診断された。処方された消炎剤を飲ませ、トイレの回数が少し落ち着いたかと思ったら、今度は夜半からくしゃみを連発し始めた。

(末尾に写真特集があります)

くしゃみに発熱、はちを動物病院へ

 猫だって鼻がむずむずすれば、くしゃみぐらいする。「くしゅん」と小さなくしゃみをする姿はかわいらしくもあるが、止まらないと心配になる。

 その晩は夜鳴きもせずおとなしかったが、翌朝はくしゃみがひどくなっていた。くしゃみをするたびに右前脚で鼻の周りをゴシゴシと拭き、きれいになったかと思えば、また「くしゅん」。その様子があまりにもつらそうなので、動物病院に連れて行くことにした。

 保護したときと同様、はちは簡単に抱えてキャリーバックに入れることができた。初代猫、ぽんたも通院で手こずったことはなかった。2匹とも飼い主孝行だ。

「得意の右ストレート」(小林写函撮影)

 触診をした院長先生は「体温が高そうですね」と言い、検温すると熱が40度もあった。

 猫の平熱は38〜39度で人間よりは高い。だからといって、40度は微熱というわけではなく、人間の40度の発熱と同じぐらいのしんどさがあるそうだ。

 はちを保護した際に初めて病院に連れてきたときは、診察台から飛び降りたりして活発だった。さすがに今日は熱のせいか、おとなしくしている。

 おそらく、ウイルスによる感染症、いわゆる猫風邪の一種だろうということで、抗生剤と抗ウイルス剤、さらに追加の消炎剤が処方された。

「過去を振り返ってもしょうがないか」(小林写函撮影)

 はちが家に来てまだ1カ月ちょっとだ。それなのに、もう3種類もの薬を飲ませなければいけないことに、気分が落ち込む。

 薬はどれも6分の1錠ぐらいの大きさにカットしてあるため小さい。すべてを細かく砕いて刻み、ウェットフードに混ぜるのも面倒だ。そこで試しに、1種類ずつウェットフードでくるんで手の平にのせて差し出してみた。

 はちは、ちょっと匂いをかいただけで、すぐに3種類ともペロリと飲み込んだ。

「お薬飲むのが上手だね、えらいね」とほめちぎる。熱があっても食欲は旺盛で、しかも警戒心が薄いのはこういうときはありがたい。

 薬は効いたらしく、翌日にはくしゃみの回数は減った。熱も下がったようで、再び早朝に「ニャーニャー」と鳴いて食事の催促をするようになった。

猫風邪は改善するも、気になる頻尿は続く

 だが、頻尿は改善されない。消炎剤を与え始めた直後に一時的に排尿の回数が減ったのは、熱のせいでからだがだるく、トイレに行くのが億劫なだけだったようだ。

 血尿が出たり、排尿時にうなったり、粗相をするわけではないので過度な心配は無用かもしれない。だが、ザッザッと砂をかく音が頻繁だと気になる。トイレの後に確認に行き、かたまる猫砂をスコップで救い上げ、その玉の大きさが小さいと胸がざわつく。

 ぽんたは生前、私が膀胱炎に気がつくのが遅れたために血尿を出したことがあった。そのときの苦しそうな様子を思い出すと、今回は大事に至る前に食い止めなければ思う。

 1週間もするとくしゃみは止まったが、10日過ぎても排尿の回数は減らなかった。念のため、超音波検査をすると、膀胱にわずかに白くもやもやした影が写った。膀胱が炎症を起こしていることは間違いないようだった。

 先生と相談し、効果のほどが定かではない消炎剤は止めて、からだに負担のかからないサプリメントに変えて様子を見ることになった。

 それでも頻尿は改善もされない。しかし、悪化もしない。

家猫らしくなっていくハチ、一つの山を越えた

 原因がわからないので気を揉むこちらをよそに、発熱後のはちは何かがふっきれたかのように、家猫度が加速していった。

 仕事をしているとノートパソコンの上にのってきて邪魔をしたり、帰宅すると毎回、待ち構えたように玄関に現れるようになった。

 特に、私とツレアイが2人とも長時間留守にして帰ってきたときは顕著で、マンションの階段をのぼってくるあたりで、すでにニャーニャーという鳴き声が聞こえてくる。まるで「どこへ行ってたの、ごはんはどうしたの、おなかすいた、退屈」とこちらを責めているようでもある。

「待たせてごめんね」と言いながらフードを与え、その後、じゃらし棒でしばらく遊んでやると落ち着き、安心したようにソファで眠りこけるのだった。

「おばちゃん、このテレビ左右が切れてない?」(小林写函撮影)

「はちは、意外と甘えん坊なのかもね」
「この家にいることにしたのだから、相手をしろということかもね」

 はちの様子を見ながら、私とツレアイはそう話した。

 そうこうするうちに数週間が経ち、もはやトイレに行く回数が多いのは、はちの習性ではないかと思い始めた頃、猫にとって普通と言われる頻度に戻っていった。

 動物病院で超音波検査をすると、膀胱のもやもやはきれいになくなっていた。

 はちはいつのまにか毛艶もよくなり、顔がひとまわり小さくなり、どこか垢抜けたような顔つきになっていた。

 ドングリのような瞳で私を見上げ、「ニャー」と甘えたように鳴くはちを見て、一つの山を超えたような気がした。

(次回は10月21日公開予定です)

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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