キジトラ、サバトラ、黒猫…… 猫の柄や毛色は遺伝子で決まる? 動物学者が解説
猫の毛色や柄はいろいろ、親子や兄弟で色が違うことも。猫の毛色や柄はどうやって決まるのだろうか。『トラねこのトリセツ』(東京書籍)など3冊を監修した動物遺伝学の専門家、大石孝雄さん(元東京農業大学教授)に解説してもらいました。
現在、日本の家庭で飼われているイエネコのルーツは、中東に生息している野生のリビアヤマネコだといわれている。黒と茶色の縞模様の猫だ。
「風景に身を隠しやすい黒と茶色の縞模様の遺伝子が、家畜化し、愛玩動物として飼われていくうちに、突然変異を起こして、長い年月をかけてさまざまな毛柄を生み出したと考えられます」
このため、現在のキジトラ猫は、もっとも野生のリビアヤマネコに近い毛柄だといわれる。この基本の縞柄の遺伝子に、茶(オレンジ)の毛色を作る遺伝子が加わると茶トラになり、シルバーの毛色を作る遺伝子が加わるとサバトラになる。
9種類の遺伝子座で決まる
猫がどんな毛色や柄になるかは、「遺伝子座」という染色体の一部が関与するという。
遺伝子座には、W(ホワイト、白)、O(オレンジ、茶)、A(アグーチ、1本の毛に縞が入る)、B(ブラック、黒)、C(カラーポイント、顔や体の先の方に色が出る)、T(タビ―、縞)、I(インヒビター、シルバーが出る)、D(ダイリュート、色を薄くする)、S(スポッティング、体の一部を白くする)の9種類がある。
これに優性、劣性の遺伝子が組み合わさって、どの遺伝子が強く出るかで、猫の毛柄が決まる。茶トラ、キジトラ、黒、白、黒白、サビ、三毛、茶トラ白など、計16通りにもなる。
猫の毛柄には「背中の上からソースをたらしたように色がついていく」という法則があるそうだ。たとえば、白黒猫では、黒いブチ(斑点)やマーブルのような模様が出やすいのは背中やわき腹、頭などで、お腹の中心は白くなるという。
さらに親がキジならキジ、親が黒なら黒など、親子で同じ毛色が生まれるとは限らない。そこが猫の毛の発現の不思議さだ。
「野生型の毛色を持つキジトラからサバトラと茶トラが生まれ、同じくキジトラから黒や白や、サビや三毛が生まれます。親猫とまったく違う色の子猫が生まれることがあるのは、劣性遺伝子が孫の世代以降に飛び超えて受け継がれるためです」
三毛猫にオスはまずいない
とくに遺伝の仕方がユニークなのが三毛猫だ。
三毛猫は、茶、黒(またはキジトラ)、白の3色の柄が出ている猫。この三毛猫はオスでは「3万分の1」の確率でしか生まれないという。
「三毛の茶色を決めるO遺伝子だけは、性染色体のX染色体上にあります。メスはXX染色体で、オスはXY染色体。オスは茶(O)と、黒あるいは縞(o)の2色を持つことができない。この結果、オスの三毛が生まれるのは染色体異常の時だけです。とても珍しいため、航海のお守りとして珍重された時代もあります」
かつて南極観測隊が「タケシ」というオスの三毛猫を同行させ、疲れた隊員を癒したこともあったという。
時代や地域によって、毛柄の好みによる正の人為的選抜があったのだろうと大石さんはいう。茶色(オレンジ色)を持つ猫は西ヨーロッパでは36%以下、東アジアでは50%以上に達する地域もあるそうだ。
鍵シッポは鎖国時代にやって来た
毛色だけでなく尻尾も遺伝するという。
「本来猫の尾は長い方がバランスを取りやすいはずですが、長崎県は“尾曲がり”と呼ばれ、曲がった尾の猫が多いことで有名です。70%の猫が尾曲りで、典型的なのは先が折れた鍵尻尾。ボンボンのような短い尾や、尾がないものもいます」
尾曲がりは、今もタイ、マレーシア、インドネシアなどに多いという。
「日本が鎖国をしていた時代、東インド会社の本部があったジャカルタから船が猫を乗せて長崎までやって来ました。それが尾曲り猫で、長崎に根付いたと考えられています。さらに、尾曲がりが広まったのは、負の選抜を受けなかったから、つまり地元で愛されたからでしょう。昔は長い尾は年をとって猫又になると考えられたり、もっとリアルなところでは、尾が長いとお膳の上のお椀を振り払ってしまうので、尾が短くて粗相しない猫は『いいね』と大事にされてきたのかもしれません」
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