「その魚、僕がもらうよ」(小林写函撮影)
「その魚、僕がもらうよ」(小林写函撮影)

よく食べ遊ぶ 家での生活に慣れていく元野良猫「はち」 見えてきた“寂しん坊”の顔

 人生ではじめて一緒に暮らした猫「ぽんた」を看取ってから2カ月半が過ぎた1月末、私はぽんたの野良仲間だった茶白猫を保護し、「はち」と名付けた。

 夜鳴きと朝鳴きがひどかったはちだが、家に迎えて3週間が経つ頃に起こした脱走未遂事件以来、頻度が減った。外に向かって遠ぼえのように声を上げることはなく、所在なく家の中を徘徊(はいかい)することも少なくなった。

(末尾に写真特集があります)

少しずつ打ち解けていく

 そのほかにも、少しずつはちの行動に変化がでてきた。

 午後は、私の部屋のクローゼットにこもっていることがほとんどだったのだが、出てきてベッドの上で過ごすようになった。横のデスクで仕事をしている私と目が合うと「ニャ」と鳴いてあいさつをする。

 夜中にあまり騒がなくなったので、寝るときに私の部屋に閉じ込めるのはやめた。自由に出入りできるようにすると、部屋から出て、ひとりでリビングのソファで眠ることが多くなった。

 鳴くのは、たいてい何かを要求するときだ。

 早朝、私の部屋に入ってきて「ニャー」と声を上げるのは、「ごはんちょうだい」の催促。無視していると、ベッドの上にのぼってきて耳元で鳴き、髪の毛を引っ張る。根負けして起き上がり、ドライフードをひとさじ器に入れると、待ってましたとばかりに平らげる。

 夜、夕食のあと、リビングでくつろいでいる私たちの足元で鳴くのは「遊び」の要求だ。

「相手の動きが見えてる!僕天才かも」(小林写函撮影)

 はちは、じゃらし棒で遊ぶのが大好きな猫だ。

 特に技などを駆使せずとも、棒の先についている魚のぬいぐるみを目の前でチラつかせるたけで、素早く猫パンチを繰り出す。床に這(は)わせれば、すぐに腰を落とし、お尻をふって狙いを定め飛びかかる。棒をふり上げると、天井に届いてしまうのではと思わせるほどのジャンプ力を見せる。ぬいぐるみを引きずりながら部屋を歩けば、小走りでどこまでもついてくる。

「目の前をゆらゆらとうっとうしいな、こいつ」(小林写函撮影)

 猫の飼育本などには「1回に15分も遊べば十分です。猫ちゃんが疲れたらやめましょう」というようなアドバイスが書いてある。でも、はちは疲れる気配はみじんも見せない。

 先代猫のぽんたは、じゃらし棒にはそれほど執着しなかった。ここまで夢中になってくれるとこちらも楽しくなるが、さすがに30分も経つと飽きてくる。

 それで「もうおしまいね」と言って、じゃらし棒を戸棚にしまうと、はちは伸び上がって扉を開けようとする。それが不可能とわかると、その場で前脚をそろえて座りこみ、しばらくじっと棚を見上げている。その様子がいじらしい。

 一緒の時間を共有することで、少しずつ、はちとの距離は縮まっていった。

はちは留守番が苦手?

 はちを家に迎えて1カ月が経った頃だった。

 ツレアイは泊まりがけの出張で留守、私は1日外出をして夜帰宅をすると、リビングの窓辺に置いた観葉植物の鉢が倒れて土がこぼれ、ぽんたの遺影が床に落ちていた。

 どうやら、はちが留守中に派手に暴れたらしい。その日の夜中は、久しぶりに鳴きながら家中を走り回り、朝方フードを与えてもすぐには落ち着かなかった。

 ふと見ると、首元に10円ハゲのように円形に脱毛している部分があった。

 動物病院に相談に行ったほうがいいかもしれない、と思った。脱毛とは別に、気になることがあったからだ。

「それー!おばちゃん、猛獣使いみたいだね」(小林写函撮影)

 私は、はちの食事の時間とフードの量、排尿排便の回数をノートにつけていた。それを見ると、はちは1日6回トイレで用を足していた。そのうち1回は排便なので、排尿の回数は5回。ネットで調べると、猫の排尿の回数は1日2〜4回とある。

 5回は許容範囲なのか、そうでないのか。いずれにせよ、以前より回数が増えている。

 ツレアイに相談すると「気にしすぎじゃないの」と意に介さない。

 だが動物は、飼い主が「なんとなくおかしい」と思った時点で、健康上に問題があることが多い。慢性腎臓病だったぽんたとの暮らしの中で、私は身をもって知った。昨晩、久しぶりに家の中を走り回ったのだって、トイレの回数と何か関係があるのかもしれない。

 脱毛の写真を撮り、月に1回、家で投薬しているノミ・ダニ駆除薬を購入しがてら、とりあえずはちは連れずに病院に向かった。

体調が上向いたと思った矢先に

 院長先生の見立ては、特発性膀胱炎だった。排尿の回数が1日5回というのは頻尿に入り、1回に出る尿の量が少ないようなら、間違いないだろう、とのこと。

 猫の膀胱炎は、細菌感染が原因となって起こる細菌性膀胱炎と、原因がないのに膀胱炎の症状が見られる特発性膀胱炎に分けられるという。特発性とは、原因が特定できない、あるいは不明という意味だそうだ。

「猫ちゃんは、特発性の場合が非常に多いんですよ。ストレスが原因とも言われますが、必ずしもそうとは限りません」

 脱毛に関しては、炎症を起こしてはおらず、痒がっている様子もないなら心配はないそうだ。だが膀胱炎は放っておくと悪化し、血尿が出ることもあるからと、消炎剤を処方してもらった。

 家での投薬は、ぽんたのときのように直接口に入れてみようかとも考えたが、まだ口の周りに触れるのは怖かった。それでウエットフードの中に砕いて入れると、はちは頓着せずにペロリと食べた。

 その日の夜は、鳴いて走り回ることもなくおとなしかった。

 翌日、排尿の回数は前日より少なくなっていた。薬が効いたのだと喜び、今夜はぐっすり眠れると思っていた矢先、激しいくしゃみが始まった。

(次回は10月7日公開予定です)

【前の回】元野良猫「はち」の、続く夜鳴きと朝鳴き 変化のきっかけは脱走未遂事件だった

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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