犬の混合ワクチン、毎年必要? 世界では「3年以上間隔を」

採血し、ワクチン接種によって犬の体内に作られた「抗体」が残っているかを検査する=安田獣医科医院
採血し、ワクチン接種によって犬の体内に作られた「抗体」が残っているかを検査する=安田獣医科医院

 犬の飼い主であれば、毎年の混合ワクチン接種が習慣となっている人も少なくないでしょう。ただ、アレルギー反応が出るなどのリスクもあることから、世界的には「主要な3種のワクチンの再接種は3年以上の間隔をあける」という考えが一般的とされています。改めて、混合ワクチン接種について考えてみませんか?

「本当に必要ですか?」

 東京都目黒区で35年以上開業している安田獣医科医院ではここ数年、犬の混合ワクチン接種にやってきた飼い主に、そう確認するようにしている。

 院長の安田英巳獣医師は言う。「日本では狂犬病ワクチン以外の混合ワクチンも毎年接種するのが習慣となっています。しかし世界的には、科学的根拠に基づく獣医療を行うことを前提に、混合ワクチンのうちすべての犬が接種する必要があるとされる主な3種について、3年以内の再接種をすべきでないとされているのです」

 犬のワクチンのうち狂犬病ワクチンは、年1回の接種が狂犬病予防法によって義務づけられている。そのほかのワクチンの接種は飼い主の自主性に任されているが、「確実な感染症予防のために」などとして、多くの動物病院が毎年の接種をすすめる。この影響で「ペット可」の宿泊施設やトリミングサロン、ドッグランなどは、犬を受け入れるにあたり、「1年以内の混合ワクチン接種証明書」の提示を求めることが一般化している。

 だが世界小動物獣医師会(WSAVA)は2007年以降、3種(犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス、犬パルボウイルス)のワクチンを、すべての犬が接種すべき「コアワクチン」と規定。この3種については、1歳までに適切なワクチン接種を行った犬であれば、「強固な免疫を何年も維持する。(再接種には)3年もしくはそれ以上の間隔をあける」とするガイドラインを発表している。14年には、ガイドラインの日本語版も公表されている。

 北里大獣医学部の宝達勉教授(伝染病学)は「ワクチン接種は異物を体内に入れる行為で、副反応が出る可能性もある。接種回数は当然、少ないほうがいい」と話す。犬にワクチンを接種した後、重いアレルギー反応である「アナフィラキシー」などの副反応が、比較的高い頻度で見られることがわかっている。

「最近の研究ではコアワクチンのほとんどは、幼犬時に適切にワクチン接種が行われた犬であれば3年間有効という結論が出ており、最大7年間有効という報告もある。こうしたことから、再接種まで3年以上の間隔をあけるべきなのです。日本でも、機械的に毎年接種するのではなく、抗体検査を行ったうえで必要に応じて接種するという考え方を広めていくのが理想です」と宝達教授は解説する。

 ただ、暖かい地域で飼育されている犬や湖沼に入る猟犬などは犬レプトスピラ、多頭飼育などしている場合には犬パラインフルエンザウイルスなど、飼育環境によっては、コアワクチン以外のワクチンも接種すべきケースがある。これらのワクチンは毎年の接種が求められる。

「抗体」が残っているか検査を受ける犬=安田獣医科医院
「抗体」が残っているか検査を受ける犬=安田獣医科医院

抗体検査で不要な接種を防ぐ

 必要のないワクチンを接種すべきではない――。国内でもそんな取り組みが徐々に広がる。カギになるのは、ワクチン接種によって犬の体内に作られた「抗体」が残っているかを調べる抗体検査だ。 

 検査キットを用意している動物病院なら、採血後、早ければ30分程度で検査結果がわかる。検査費用は動物病院によって様々だが、1回あたり8千円前後というのが一般的だ。検査で抗体が残っていることがわかれば、免疫が維持されていることを意味し、ワクチン接種は不要になる。接種した時の「ワクチン接種証明書」のように、「抗体検査証明書」も発行される。

 安田獣医科医院では、混合ワクチンの特性を説明し、犬の飼育環境を聞き取ったうえで、抗体検査を飼い主にすすめる。コアワクチンの接種だけで十分な犬であれば、3種いずれかの抗体が十分でなかった時にだけ、必要最低限のワクチン接種をする。過去6年間、毎年約1千件の抗体検査を行ってきたが、抗体が不十分な事例は年数件にとどまるという。

 犬を連れた観光客らが多く訪れる長野県軽井沢町などを抱える同県獣医師会佐久支部(宮下典幸支部長)では今年2月、混合ワクチン接種に関する検討会を立ち上げた。同支部では、「犬の安全と飼い主さんの安心のために、獣医師の側からきちんと情報発信をする必要がある。抗体検査のための採血により、様々な健康チェックも可能になり、メリットは大きい」とする。

 同支部では今後、WSAVAのガイドラインについて獣医師間で情報を共有。指針を作成したうえで、支部内のペット可宿泊施設やトリミングサロンなどに「抗体検査証明書がワクチン接種証明書と同等の意味を持つ」ことを周知していく方針という。

ワクチン接種で副反応も

 ワクチン接種後の副反応はどのくらいの頻度で起きるのだろうか。

 たとえば犬ジステンパーウイルス感染症は、人間でいえば麻疹(はしか)にあたる。人間では麻疹・風疹混合ワクチンを接種することで予防するが、厚生労働省によると、接種後にアナフィラキシーが疑われた症例は2013年4月~18年4月の5年1カ月間で4件(推定接種数1265万人)という水準だ。

 ところが犬では、麻布大獣医学部の阪口雅弘教授(アレルギー学)と日本小動物獣医師会の共同疫学調査で、混合ワクチンの接種後にアナフィラキシーを起こした犬は1万頭あたり7・2頭という結果が出ている。「(ワクチン接種後のアナフィラキシーは)人間では100万人に1人出るか出ないかというレベルだから、犬では非常に多いと言わざるを得ない」(阪口教授)状況だ。

 また阪口教授らによる別の疫学調査によると、00年度から16年度の間に農林水産省に報告されたものだけで、人間でいうアナフィラキシーを起こしていると疑われる症例が318例もあった。そのうち、死亡数は149例にのぼる。

 阪口教授は「より安全性の高いワクチン開発を行う必要性がある。同時にワクチン接種を行う獣医師に対し、ワクチン接種後の副反応に対する救急処置などの教育を、充実させることが重要だ」と指摘している。

(太田匡彦)

朝日新聞
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