「あたしたち仲がいいわけじゃないのよ」「仲は良くはないね」(小林写函撮影)
「あたしたち仲がいいわけじゃないのよ」「仲は良くはないね」(小林写函撮影)

首尾上場だったはちとハナの留守番 猫たちに好かれるキャットシッターの存在

 先住猫「はち」と、元保護猫「ハナ」との多頭飼育生活が1年と少し過ぎた頃、ツレアイと私は、久しぶりに5泊6日で国内旅行にでかけることにした。

 留守中の世話は、知人から紹介された行政書士兼キャットシッターのFさんに頼むことにした。

(末尾に写真特集があります)

キャットシッターからの便り

 留守中の様子は、シッティング後にもらう報告書のほか、LINEでも毎日、写真や動画で簡単に報告してもらうことになっていた。

 シッティング初日の朝、予定していたFさんの訪問時間になると、メッセージが届いたことを知らせる通知音がスマホに入った。すぐさま私はアプリを開く。

「はちくん、ゴロスリでーす。じっとしていないので、なかなかお顔が撮れません」というコメントとともに、はちがFさんのくるぶしに頭をこすりつけている写真が現れた。

 続いて、ハナマン(ハナのマンション=ケージ)の2階にすわりこみ、目をまんまると見開いているハナの姿。最初は、私のベッドの上にいたが、Fさんが、近くにある猫たちの飲料水を入れた容器を持ち上げるやいなや、一目散に部屋から走り出て、ハナマンに避難したらしい。

 しかしその後、はちは自動給餌器(じどうきゅうじき)から、ハナはハナマンの中に置いた食器から、それぞれフードを食べている写真が送られてきて私はほっとした。知らない人を警戒するハナが、留守中、きちんと食事をするかが少し心配だったからだ。

「シッターさん早く来ないかな」(小林写函撮影)

 2日目は、最初に動画が届いた。喉(のど)をゴロゴロ鳴らしながら Fさんを出迎えているはちだ。一方、「ハナちゃん、定位置で動かず。昨日の写真じゃないです、今日撮ったものです!」というコメント付きで送られてきたハナの姿は、まさに前日の写真をコピーペーストしたのではないかと疑うくらい、姿勢と表情がそっくりだ。

 しかし、その20分後に現れた写真のハナは、リビングの床の上にいた。食後、満腹になり気がゆるんだらしく「ケージから出てきてくれました!」とFさんは喜んでいる。次の写真は、「僕もいるんですけど」とアピールするかのように、 Fさんにすり寄っている、はち。

 なんだか、普段の2匹の様子とあまり変わらない。安心するやら、拍子抜けするやら。

 それにしても、知らない人がいて、ハナがハナマンから出てくることはこれまでなかった。2日目にして姿を現したのは驚きだ。Fさんが安心できる人であることを理解したのだろうか。

 しかし Fさんによると「ハナお嬢さまはまだ警戒心ビンビン」らしく、「少しでもリラックスできるようになるとよいのですが」と、その日の報告は締めくくられていた。

「あたしはこの家にひとりでいられる気がするわ」(小林写函撮影)

 3日目、ハナは Fさんの姿を見ても、すぐにはハナマンには避難しなくなったようだ。送られてきた写真は、私のベッドで丸くなっている姿だった。ただ、「調子にのって」顔をアップで撮ろうとスマホを構えたとたん、逃げ去ったという。

 4日目。ハナはリビングのチェストの上から窓の外を眺めていたが、Fさんと目が合うやいなや、スタスタと私の部屋へ引っ込んでしまったらしい。一方のはちは、ハナの態度にがっかりするFさんのあとを常についてまわり、頭突きをしたり、手をなめたりして「なぐさめてくれた」とあった。

 最終日の5日目には、大きな変化があった。ハナが、キッチンで食器を洗っているFさんのところへやってきて「ニャー!」と鳴いてご飯の催促をしたというのだ。この日、送られてきたハナの写真の後ろには、なぜかすべて亡霊のようにはちがいて、「ハナお嬢さまを撮影するときは、はちちゃんが映り込もうとします」と書かれていた。

安心して甘えられる存在に

 その日の夜、帰宅すると、はちはすぐに玄関に出迎えにきて、すり寄って甘えた。ハナは私たちを見るなりハナマンに飛び込んでしまい、近づくと逃げるようになっていた。どうやら、たった5日間で「知らない人」になってしまったようだ。

 小一時間ほどすると、ハナも私たちのことを思い出したようで、頭突きをしてきた。

 私は荷物のかたづけもそこそこにソファに座り、 Fさんからの手書きの「シッター実施報告書」を読んだ。

「僕はこの家でひとりは絶対に無理だな」(小林写函撮影)

 そこには2匹の様子に加え、排泄の回数や内容、ご飯の食べ方などが細かく記録されていた。はちは、自動給餌器からフードをかきだそうとしたらしく、Fさんがシッティングに来ると、いつも皿が外れてしまっていたという。食の細いハナも、毎回ご飯は完食。

 Fさんは、ハナに食事を与えるときは、はちのフードが給餌器から出てくる時間に合わせるなど気を遣ってくれたらしい。はちはサプリメントも上手に食べて、トイレの壁に尿をひっかけることもなかったという。

 Fさんいわく「いつもご機嫌さんで朗らか」なはちと「お嬢さま気質が魅力のツンデレさん」のハナの、はじめての留守番は首尾上場だった。2匹とも、信頼できる誰かに面倒を見てもらえれば、飼い主不在でも問題なく過ごせる猫だ。

 その年、私たちは何回か旅行にでかけ、そのたびにFさんにシッティングをお願いした。

 ハナは、Fさんを玄関に出迎えるようになり、ブラッシングをせがみ、Fさんになでられると気持ちよさそうに目を細めるようになった。

(次回は12月6日公開予定です)

【前の回】キャットシッターとの打ち合わせ 各家庭ルールがあり”普通に”は存在しない

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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