キャットシッターとの打ち合わせ 各家庭ルールがあり”普通に”は存在しない
先住猫「はち」と、元保護猫「ハナ」との多頭飼育生活が1年と少し過ぎた頃、ツレアイと私は、久しぶりに5泊6日で国内旅行にでかけることにした。
しばらく旅行を控えていたのは、コロナ禍のせいもあった。だがその間に家の猫が2匹になり、2匹を留守番させて家を空ける気持ちの余裕がなかったことが理由としては大きい。
「はじめまして」のキャットシッター
はちとハナは、くっついて過ごすほど仲がいいわけではないが、顔を見るのも嫌だという相性でもない。そのことがこの1年でわかり、2匹の関係同様、私の気持ちも落ち着いた。「留守の間に、2匹の間に何かあったらどうしよう」という不安は薄まり、飼い主が不在でも、大きな事件は起こらないだろうと判断した。
留守中の世話は、キャットシッターに頼むことにした。
ハナを迎える前、はちの世話をしてもらうためにキャットシッティングを利用したことはあった。そのときのシッターさんもよかったが、今回はたまたま知人に紹介され、猫専門でシッティングを行っているFさんに依頼をした。
Fさんは猫飼い歴20年以上のベテランで、現在は2匹のシニア猫と暮らしている行政書士だ。ペットの信託やペットに関する遺言書、見守り契約などの作成相談を行いながら、業務に役立てるためにペットシッターの資格も取得し、シッター業も行っているという。その経歴に興味を持ち、会ってみたいと思ったからだった。
事前打ち合わせのために家にやってきたFさんは、少し目尻が上がった大きな目が印象的で、猫に似た顔立ちだった。ハキハキと明るく気さくで、言葉選びにユーモアが漂っていた。
はちとハナ、それぞれの反応
はちも好感を持ったらしく、リビングに現れたFさんにすぐに近づき、しっぽを立てて足元にまとわりついた。 Fさんが「なでても大丈夫ですか?」と聞くので、どうぞどうぞと促す。なでてもらったはちは大喜びで床に転がるというサービスぶりだ。
「朗らかでご機嫌な猫ちゃんですねー」と Fさんに言われ、こちらの相好も崩れる。
一方のハナは、Fさんがリビングに現れるやいなやソファから飛び降り、全速力でハナマン(ハナのマンション=ケージ)の2階に飛び込んだ。そうしてこちらに背中を向け、座り込んでしまった。
「キャットカルテ」を作成するため、猫たちの年齢や性格などについて私がFさんからの質問に答えている間、はちはFさんの周囲をうろうろしている。
対するハナはハナマン内で置物のように動かない。と思っていたら、いつの間にか顔をこちらに向けていたので、Fさんが「美人の三毛猫さんね!」と声をかけた。だが表情をやわらげるどころか、「あんた、何しにきたの」とでも言いたそうに、睨(にら)んでくる。
「すいません、愛想がなくて」と私。
「いえいえ、愛想のよい三毛猫さんなんて、逆にうさんくさいですからね」とFさん。一般的に三毛猫はツンデレ気質で気が強く、やすやすと人に媚(こ)びたりしない性格だといわれる。正直でよい、という褒め言葉だと私は受け取った。
綿密な打ち合わせを経て
続いて、具体的な世話についての細かい打ち合わせを行った。以前、シッターさんにお願いしたときとは違い今回は2匹なので、説明することも倍になる。
食事に関しては、はちは自動給餌器(じどうきゅうじき)での給餌なので、日数分のフードに1日分をプラスした量をあらかじめ私がセットしておく。ハナはFさんが来たときに1日分の規定量を1度に食器に盛ってもらうことにした。
またはちには、ストラバイト結石をできにくくするためのサプリメントを1日1錠与えているので、この投与もお願いする。サプリはウエットフードにくるみ、手のひらにのせて食べさせる方法をFさんの前で実践。同時に、冷凍してある手作りスープも解凍して飲ませてほしい旨を伝えた。
さらにはちは、たまに玄関脇のトイレ横の壁に尿を引っ掛けるくせがあった。壁には常にペットシートが貼り付けてあり、その交換方法についても説明した。
Fさんは、一つひとつ確認しながら細かくメモをとった。「食器を洗うのは水道水で問題ないですか」とたずねられ、それ以外に方法はあるのかと逆に質問すると「ミネラルウォーターで洗ってください、という方もいらっしゃいます」とのこと。布巾や洗剤にこだわる人も多く、各家庭にそれぞれルールがある。「普通に」というやり方は存在しないらしい。
それにしても、こうして日々の世話を整理してみると、ハナよりはちのほうが手がかかる猫であることがあらためて浮き彫りになった。とはいえ、元来人好きで、前のシッターさんのときも問題なく留守番ができたはちに心配は無用だろう。
一抹の不安があるのはハナだ。はちに比べると警戒心が強いし、食も細い。なにより、飼い主が不在で何日も過ごすのは初めての経験だ。
Fさんが帰るとき、はちは玄関まで見送りに来た。ハナはハナマンの2階で、相変わらず置物のようにかたまっていた。
そして1週間後、万が一何かあったときのために動物病院の診察券と、自動給餌器の取り扱い説明書をリビングテーブルの上に置き、ツレアイと私は家を後にした。
(次回は11月15日公開予定です)
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