「ハナはどこにいったのかな?」(小林写函撮影)
「ハナはどこにいったのかな?」(小林写函撮影)

先代猫の慢性腎臓病が脳裏をよぎる フードを残すようになった2匹目の猫「ハナ」

 元保護猫「ハナ」を迎え、先住猫「はち」との多頭飼育を始めたときに私は、「はちとハナの記録」というノートを作った。2匹の日々の様子を綴(つづ)る、日記のようなものだ。

 最初の頃は、1日につき1ページ以上にわたり2匹の生活を詳細に記録していた。起こるできごとのすべてが新鮮で、興味深かったからだ。不安や喜び、日々の感想など書くことはいくらでもあった。

(末尾に写真特集があります)

フードを残すように

 それが数カ月経つと1日に10行になり、3行に減り、そのうち数日に1回の頻度になった。1年が経つ頃にはノートを開くのは1週間に1回程度になり、書く内容も「病院に行った」「ノミダニ駆除薬投与」「爪切り5本成功」など、事実の記録にのみとどまるようになった。

「仲がよいわけではないが、悪くもない」2匹の存在が、日常になった証拠だろう。

 それでも1年と少したったころ、ちょっと心配なことがおこった。

 ハナがフードを残すようになったのだ。

 もともとハナは、はちのようにフードを食器に盛ったら盛っただけ食べる食欲旺盛な猫ではない。一度に与えられた分は完食せずに必ず残し、少し時間をおいてからまた口をつける。いわゆる「ちびちび食い」の猫だった。

 はちとハナには、同じドライフードを与えていた。「7歳からの猫にとって心配な健康要素をまとめてケアし、健康寿命をサポートする」をうたい文句にしたものだ。原材料のトップがトウモロコシなどの穀類ではなく、タンパク質の「チキン」である割には入手しやすい価格のフードだった。

「最近ハナさ、僕よりご飯たくさんもらってる気がするんだよな」(小林写函撮影)

 はちには、私の部屋に設置した自動給餌器(じどうきゅうじき)でフードを与えていた。ハナには、1日の規定量を4回に分け、リビングのハナマン(ハナのマンション=ケージ)の1階に置いた食器にそのつど盛っていた。

 はちの体重は5.2kgで、ハナは4kgだ。この体重差を考慮し、はちへの給餌量は多くしているのだが、はちはいつも速攻で完食する。それに対してハナの食べ方はゆっくりで、いつもきまって10粒程度を食べ残す。

 フードが残った器は、気がつくと空になっていた。だが、このフードが、次の食事の時間までそのまま残るようになったのだ。

食べてもらいたい

 ハナマンの1階の扉を閉めていれば、はちが中に入って食べることはない。だが、食べ残しのフードを出しっぱなしにしているのは衛生的ではないし、風味も落ちる。だからしばらくハナが食べないと片付けて、1日の給餌量を小分けにしている保存袋に戻すようになった。

「あたしは食にうるさいの」(小林写函撮影)

 ハナは、器に残っていると食べないくせに、こちらが片付けると「ご飯が足りない」と鳴いて催促に来る。それで器に盛り直すのだが、ハナは少し匂いをかぐと、私のほうを振り返り「これ食べるの?」という様子でじっと見つめたのち、立ち去るのだった。

 そうこうするうち、保存袋には食べ残したフードがたまるようになり、私は焦った。ハナが少食なのは体質もあるのだろうから問題ないとしても、これまで食べていたものを食べなくなるのは心配だ。それで、催促されてフードを出すときには、猫用のカツオブシをふりかけて誘導し、完食させるように試みた。だが香りにつられるのか食いつきはよいが、効果はなかった。

「そんなやり方をしていると、ハナばかりご飯をたくさんもらっているようにはちには見えて、かわいそうだよ。カツオブシも、与えすぎはからだによくないと思う」

 私の様子を見て、ツレアイは言った。

 確かに、ハナの食べ残しを入れた保存袋を台所から取り出すと、はちは自分にくれるのかと勘違いして、小走りであとをついてくる。そして、フードの行き先がハナの器だとわかると、うらめしそうにじっと見つめている。

 催促されるたびに与える、という行為は猫を甘やかすことにもなり、よくない。なんとかハナがまた自力で完食するようにしたい。

「よく遊ぶから、おなかもすくんだ」(小林写函撮影)

 そんなとき、たまたま知り合いからあるドライフードの試供品を分けてもらった。それは、シニア猫の筋肉の健康を維持するために「厳選素材の鶏肉・魚由来のタンパク質を豊富に含んだフード」で、2匹が普段食べているものよりもタンパク質の含有量が多く、穀類の量が少ないものだった。タンパク質が多いということは、きっと味が濃くて食べ応えもあり、おいしいに違いない、と私は思った。

フードを変えると…

 それで早速、ハナの1回に与えるフードの1/4量程度をこれにかえてみた。

 するとハナは、珍しく毎回の食事を完食し、久しぶりに満足そうに顔を洗ったのだった。

 私は心から安堵した。初代猫「ぽんた」のときは、食欲が落ちたと思ったら、実は慢性腎臓病だったという過去がある。ハナは数カ月前に健康診断を受けたばかりで、普段の様子からも病気ということは考えにくかった。

 それでも、おいしそうにフードを食べる姿を見せてくれると、飼い主としては本当にうれしい。

 この「厳選素材のタンパク質を豊富に含んだフード」は、私が普段与えているものの倍の値段がする。それでも、ハナのために購入することにした。

 そして何年もの間、文句も言わず同じものを食べ続けてくれるはちの食事にも、「ごほうび」としてこのフードを混ぜることにしたのだった。 

【前の回】砂をかかない、お尻を床につけ引きずる 2匹目の猫「ハナ」がするトイレでの行動

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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