爆弾娘だったボストンテリア　有り余るエネルギーを発散し今は太陽のような存在

　家族をかむ、勢いよく頭突きして自ら流血してしまう。そんな超ハイパーボストンテリアの子犬は、やがてＵＧに欠かせない「太陽」のような存在に。その子が内面から放つキラキラした光は家族も笑顔にする。

　ＵＧ　ＤＯＧＳアトラスタワー中目黒店（以下ＵＧ）の激アツ店長こと高橋信行さんは叫ぶ。

「強さは正義になるのです！」

（末尾に写真特集があります）

遊びたいだけ遊べー！

　弾丸ミサイル、ロケット、爆弾娘、クラッシャーーー。ボストンテリアの子犬、アビーちゃんに高橋店長がつけたニックネームの数々だ。

「エネルギーが全身にパツンパツンに詰まってましたね」と笑い、こう続ける。

「発散が足りていないのは明らかで、そのエネルギーがお父さんとお母さんに向いてかみにつながっていた。また、初めての犬で一生懸命だったお母さんは、おそらく話しかけすぎ、見つめすぎで、かえってアビーちゃんを興奮させていたのでは、と。お母さんは精神的にかなり参っているようでしたが、アビーちゃんは強いけど性格は明るく、ヤバさや闇は感じませんでした」

　カウンセリングだけの予定が、店長の判断でいきなり始まった社会化お泊まり。群れに放たれたアビーちゃんは、やはりお泊まりに来ていた、自分の何倍もの大きさがあるゴールデンレトリバーの子犬をロックオン！　からの猪突猛進（ちょとつもうしん）！　怖いもの知らずの大物ぶりを発揮する。

　ボストンテリアは、見た目は鼻ぺちゃのブルドッグ系統だが、テリアの血を引くため、「テリア気質」と呼ばれる気の強さを持っている。またガッシリとした体格で運動神経が良く、身体能力も高い。見た目はほのぼの系だが、アクティブな犬種でもある。

　店長は、「アビーちゃんに関しては、叱ったり注意したりはあまり必要ないと考えました。どんな犬に対しても向かっていく強さ、どんな犬から仕掛けられても受けて立つ強さがある。遊んで遊んで、遊びたいだけ遊べー！　ひたすら発散し、体力を削りまくる１週間にしようと考えました」と振り返る。

ようやく夢がかなった

　アビーちゃんは、店長の言葉通りたくさんの犬たちとひたすら遊び続けた。そして１週間後。おうちに帰ってくると、驚くほど落ち着いていたという。お母さんはアビーちゃんの成長をこう語る。

「まず家族をかむことがなくなりました。柵や壁への頭突きも少しずつ減っていき、夜に突然暴れまくる『クレージータイム』も気が付いたらなくなっていました。また、犬社会のルールをしっかりと学んだのか、お散歩途中でほかのワンちゃんを見つけると、じっとフセして待つように。あいさつするときも自分の匂いを嗅いでもらいやすいように、自ら足を上げています（笑）」

　店長からのアドバイスは「お散歩を頑張ること」。朝１時間に、夕方は２～３時間程度。ドッグランにもデビューしたが、たっぷり歩いて疲れさせてから行くように。「それでもガンガンに走りまくって、ドッグランに来ていたほかのワンちゃんのご家族から『元気ね』『すごい』と驚かれました。２時間歩いてきたと伝えるとみなさんドン引き（笑）」とお母さん。

　お泊まり後、うれしいことが。アビーちゃんはそれまでお父さんには甘えるが、お母さんには素直に寄ってこなかったという。それがお泊まりから１カ月ほど経ったとき、テケテケと寄ってきてお母さんのひざにストンと腰を下ろし、スヤスヤと眠り始めた。

「ものすごくうれしくて……。長い間夢に見ていた『犬との暮らし』がかなった瞬間でした」とお母さんは目を潤ませる。

発散も必要だがハウストレーニングも需要

　ＵＧには週に１回アフターケアへ。「アビーちゃんは、仕掛けてくる子はすべて受けて立つし、群れになじめない子は明るく誘って壁を取っ払ってくれる。群れの雰囲気がちょっと停滞していても、クラッシャーのアビーちゃんが引っかき回してくれるおかげで空気が動き出す。すごく頼れる存在です」と店長。アビーちゃん自身がＵＧを楽しんでいることが、お父さん、お母さんにとってはなによりうれしい。

「落ち着いたとはいえ、やはりアビーはハイパー。街中で会うワンちゃんにＵＧのノリで『遊ぼう！』と誘うと、怖がられて振られることが多いのです。アビーも自分と対等にやり合える子じゃないと楽しくないみたいで遠慮しちゃうことも。その点、ＵＧに行けば強い子ばかりで、アビーも自分らしく思う存分遊ぶことができる。イキイキしているその表情が楽しさを物語っています」

　ところで、アビーちゃんがそうだったように、ペットショップやブリーダーから子犬を迎えた場合、数日間はケージから出さないようにとアドバイスされることが多い。お母さんは守ったが、「あんなに暴れたのは、閉じ込められていた反動だったのかな……と」と振り返る。店長はこう説明する。

「構いすぎたり触り過ぎたりすることでストレスがかかり体調を崩す子犬も。最悪の場合、命を落としてしまうケースもあります」。ケージで休ませ、新しい環境に慣れさせることは大切だ。ただ、ＵＧに来るような強い子犬は、ケージから出られないことがストレスになり、暴れたり、飼い主へのかみにつながったりすることも。

「そのエネルギーの発散の仕方を犬がマイルールにしてしまい、月齢が過ぎて成長してしまうと軌道修正が難しくなる。僕は『月齢６カ月までに来てほしい』と言い続けていますが、この時期に子犬は子犬らしく子犬同士で遊び発散と社会化を進めることで、アビーちゃんのように問題行動が解消され、落ち着くケースは少なくありません」

　その上で、店長は声を大にしてハウストレーニングの重要さを訴える。

「ほえる、かむという悩みがあるご家庭の多くが、ケージやクレートに入れずに家の中でフリーにしている。ルールがないと犬は自分でルールを作りますし、テリトリー意識が強い子の場合、家中を警戒しなければいけないので常にピリピリするように。その警戒心が、吠えやかみにつながっている可能性は高い。ハウストレーニングは、ルールを作るだけでなく、犬が落ち着いて過ごせるようになるため必須です。さらに、自然災害が頻発する今、いざというときにもクレートで落ち着いて過ごせるように日頃から慣れておくことは、犬にとっても家族にとっても非常に重要なことなのです」

　アビーちゃんはケージを含む専用エリアを部屋の中に設け、お留守番や目が届かないときは必ずケージの中で過ごすようにしているという。「ハウストレーニングの重要さをアドバイスされなかったら、きっとフリーにしていたと思います」とお母さん。この春から仕事を再開したが、アビーちゃんは静かにお留守番できているという。

どの犬も輝く存在になれる

　先日、１歳の誕生日を迎えた。「天真らんまんでひょうきんもの。人も犬も大好き。この間、工事現場の人たちの円の真ん中に『お邪魔しまーす』とばかりに入っていって、朝礼に参加してました（笑）」。周りを笑顔にする太陽のような女の子に成長したアビーちゃん。今は月に１回程度ＵＧに通う。「アビーが思い切り遊べるうちは、テーマパークに遊びに行かせる感覚で通わせてあげたいですね」とお母さんは目を細める。

「あれだけ強くてグイグイ行くアビーちゃんは、普通の保育園や幼稚園では隔離されてしまっていたかもしれません。うちに来る子にはそういう子が多く、飼い主さんは『うちの子はダメなんだ』と傷ついてしまう。でも、多くの後輩たちの心を開いたアビー姉さんがそうであるように、ＵＧではむしろ輝く存在になれるのです」と店長もうれしそう。

　最後にこう語った。

「強いからダメではない。強さは正義にもなる。やるべきことはやって、飼い主の側も変わるべきことは変わって、その上で飼い主さんは愛犬の強さを受け入れることも大事です」

　相手を否定せず、互いを認め合う――。犬と暮らすことは、気づきと学びにあふれている。

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高橋信行店長　プロフィール

物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。

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