ペットショップで購入され数日で手放されたポメラニアン 第二の人生でリーダーに

 怪獣ごとき暴れる子犬、その悩める飼い主が次々とやってくる「UG DOGSアトラスタワー中目黒店」。子犬1匹1匹を見ながら、高橋信行店長が力を入れるのが、飼い主側の意識を変えること。一方、犬はUGの群れに放たれ、子犬同士で遊んだり、先輩ワンコに指導されたりして、犬社会のルールを学んでいく。その「指南役」として活躍するのがUGのスタッフドッグたち。しかし、もともとは事情があって手放された保護犬だった。

 激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
 「強さは正義! どんな子だってキラキラ輝ける」

(末尾に写真特集があります)

指南役として活躍するUGのスタッフドッグ

 UGの群れの現在のリーダーは、高橋店長の愛犬、ジャックラッセルテリアのロイスが担っている。

 「最初からリーダーにするつもりだったので、ブリーダーさんを訪ねてきょうだいたちを見たとき、体も意志も一番強そうなロイスを選びました」

 お里では親きょうだいと遊ぶ中である程度の社会化は身につけていたとはいえ、子犬のロイスがいきなりリーダーになれるわけではない。店長と一緒に「出勤」し、群れの中で犬のルールを学びながら成長していく。教育係を務めたのが、当時リーダーだったトイプードルのジーニー、そして、ポメラニアンのなっぱだった。

だから犬って最高だ
中央のなっぱと、なっぱが育てたトイプードルのジーニー、ジャックラッセルのロイス。歴代リーダー集合!(UG提供)

保護犬だったなっぱ

 実は、なっぱは保護犬としてUGにやってきた。

 ペットショップの「おとなしいですよ」というセールストークに、初めて犬を飼った最初の飼い主。しかし、わずか数日で音をあげたという。

 「まったく寝ずに、ずーっと動き続けていたようです。うちにカウンセリングに来るポメラニアンには『あるある』。ポメラニアンは体も小さくとてもかわいいけれど、その見た目からは想像できないほど体力無尽蔵で、ぶっ飛んでる子は多い。また、吠(ほ)える子も少なくありません。おそらくその飼い主さんは、ポメラニアンの特性を知らず、『おとなしいと聞かされていたのに、こんなはずじゃなかった』と途方に暮れてしまったのでしょう」

 縁あって、そのポメラニアンはUGで引き取ることになる。当時月齢4カ月のまだ子犬だった。

だから犬って最高だ
UGに来た頃のなっぱ(UG提供)

 UGでは保護犬活動をしているわけではないが、様々な事情からこれまで何匹かを受け入れてきた。

 「家族として迎えた子を手放すのは、いいこととは言えません。でも、うちにやってくる子犬たちがそうであるように、人によっては飼いやすいとは言えない犬はいる。そうした子犬によってノイローゼになったり、あるいは家族の間がギスギスしてしまったり。そんな環境の中で否定されて育つのは犬にとって不幸なこと。そう考え、保護犬として引き取ることが何度かありました」

 ポメの男の子には「なっぱ」という新しい名前をつけた。

 「『お味噌汁の具って何が好き?』『うーん、葉っぱ系かな』……。トリマーたちがそんなやりとりをして『なっぱ』になりました」と店長は笑う。

 なっぱは体は小さいものの体力底なしの超ハイパーボーイ。「寝ない、ずっと動き続ける。手放された理由そのままでしたが、繰り返しになりますがうちに来るポメラニアンの多くはそんな感じ。僕もスタッフも驚きません。なっぱは、それまでため込んでいたパワーとストレスと発散するように、ギュンギュン走り回っていました」

だから犬って最高だ
おやつを取り合う超ハイパーボーイななっぱ(UG提供)

第二の人生をスタート

 なっぱは「UGの犬」として第二の人生をスタート。次から次へとやってくる子犬たちの相手をしながら、成長し、ほどなくリーダーのポジションに。

 「体が小さいので攻撃力はほぼゼロ(笑)。でも、礼儀を知らない柴犬がいると全身を使って吹っ飛ばしてルールを教えることも。意外と男気のあるヤツです。とは言え、群れにうまくなじめない子には気をかけて遊んであげる。なっぱは強いリーダーというよりも、心優しい保育士さんのような存在になっていきました」(高橋店長)

 小さいけれど強く、強いけれど優しいなっぱ。その後、ブリーダーから迎えたトイプードルの子犬ジーニーの教育係となり、次期リーダーに育て上げた。

だから犬って最高だ
幼なじみの櫻士朗くんと遊び疲れ、枕にして爆睡(UG提供)

 「僕はよく『強さは正義』と言いますが、強さをいい方向に引き出してあげれば、問題犬どころか、とてもいい犬になる。ハイパーだからと捨てられた子犬が、その強さで後輩犬を育てるまでになる。犬同士でしか教えられない、学べないことがあると、僕やスタッフはいつも犬たちから教わっています。今やなっぱは、UGにとってかけがえのない頼れる存在になりました」

 店長はそう語り、なっぱに敬意を表す。

 昨年の夏、高橋店長はまた新たな保護犬を預かることになる。それは、世界を襲ったパンデミックによって起きたある状況が引き金となっていた。

後編へつづく(11月29日公開予定)

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高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト店長ブログFacebookInstagram
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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