かわいいはずのチワワに肉をえぐられるほど嚙まれ　飼い主は家の中で息をひそめる

　念願のチワワの子犬を迎えた一家。トコトコ歩いてコテンと寝ちゃう、そんな子犬を思い描いていたが、そのチワワは寝ずに動き続け、興奮すると激しく嚙みまくった。肉をえぐられるほど嚙まれたお母さんはノイローゼ気味に陥り、家の中でも息をひそめるようになり……。

　ＵＧ　ＤＯＧＳアトラスタワー中目黒店（以下ＵＧ）の激アツ店長こと高橋信行さんは叫ぶ。

「小さくてかわいい。そんな見た目とは裏腹に強い子もいる。それがチワワ！」

（末尾に写真特集があります）

小さくてかわいいチワワ

「私、犬がほしいな」

　お母さんの言葉に、お父さんは驚いた。「妻は普段からあまり何かをほしいと言わないんです。だから驚きとともにうれしかった。いいんじゃない？　と賛成しました」

　早速ブリーダーのサイトで子犬を探し始めたお母さん。その少し前、ペットショップでチワワに心を奪われていたことから自然とチワワのブリーダーを検索していた。そして１匹の子犬の写真に、お母さんの目は釘付けになる。

「ちっちゃいのに、ものすごいドヤ顔で（笑）。なんてかわいいんだろうと、すぐに面会の予約を入れました」

　会いに行くとその子犬は元気いっぱい！　　「トコトコ歩いてコテン、と寝ちゃう。子犬ってそんなイメージだったのですが、その子はずーっとわちゃわちゃと走り回っていました」とお母さん。

昼間はほとんど寝ないうえ夜鳴きも

　それから約１カ月後。月齢３カ月を迎える少し前におうちへやってきた子犬は、「つくし」と名付けられた。最初に会ったとよりもさらに元気はパワーアップ。戸惑ったのが夜鳴きだ。つくしちゃんはほとんど寝ずに「フニフニフニフニ」と猫ような鳴き声で一晩中鳴き続ける。ブリーダーからは「１週間は夜鳴きすると思いますが、あまり構わないこと」と言われたものの、「ケージの中に手を入れて安心させて、また鳴いたら手を入れて……。朝までそれを続けました」とお母さん。

　少しずつ夜鳴きはおさまっていったものの、つくしちゃんは早朝４時には覚醒。お母さんは激しい寝不足に。昼間はほとんど寝ることなく動き続け、たぎるエネルギーを発散するかのように、つくしちゃんはお母さんの手や足、洋服に嚙み付いた。力加減がわからないのか、甘かみというにはあまりにも激しかった。

「肉がえぐれるほど嚙まれました。ヒラヒラするＴシャツの袖や裾が気になったのか、着ているものもズタズタにされましたね」

息をひそめて暮らす

　実はお父さんは仕事の関係で単身赴任中。週末に自宅に戻るたび、変わり果てていくお母さんの姿に戸惑ったという。

「家でもきちんとした身だしなみだった妻が洋服はボロボロ、髪もボサボサ。その上ゲッソリとやつれていて……。つくしのことで悩んでいることは電話ではいつも聞いてはいたけれど、マジメで一生懸命な妻は、僕が思っている以上に追い詰められているようでした」

　お父さんが心配するのも無理はない。お母さんはわずか２カ月でなんと８キロも痩せてしまったのだ。ずっと動き続ける、寝ない、そして噛みまくるつくしちゃんに、心も体も参っていた。コロナ禍の影響で在宅勤務だったが、一緒にいるとつくしちゃんが寝てくれない。そこで、お母さんが練った秘策が「私はいませんよ」作戦。

「家に誰もいないと思わせれば静かにしてくれるんじゃないか、って。トイレも行かず、パソコンもカチャカチャ音を立てないようにそっとタイピングをしたり、息をひそめて仕事をしていました」

　食事もあるものをパパッとかきこんでおしまい。そんなこんなで激ヤセしてしまったのだ。

　なんとかしようとインターネットを検索すれば、叱らずにほめる「優しいトレーニング」の情報ばかり。「今の時代は叱っちゃいけないんだな」と一生懸命ほめてみるものの、まるでうまくいかない。

　出張トレーナーに来てもらったこともあるが、つくしちゃんはそのトレーナーの前では甘嚙みも吠（ほ）えもせずおとなしい。トレーナーは「おとなしくていい子ね。私の前で自分を出してくれないとわからないよ」と語りかけてくれたが、やはりその人の前ではいい子に。ところが、帰ってしまうとハイパーつくしちゃんに豹変。

「つくしは外ヅラがいいというか悪知恵が働くというか（笑）」。今では笑えるお母さんだが、当時は育犬ノイローゼに陥っていた。

社会化お泊まりは突然スタート

「職場の同僚から『子犬ちゃん、かわいいでしょ？』と聞かれたとき、とても『かわいい』なんて答えられなかった。同僚からも心配されました」

　ＵＧを知ったのは、つくしちゃんのシャンプーをしてくれるサロンを探していたとき。ＵＧのホームページから高橋店長のブログに行き着いた。

「つくしみたいにハイパーな子犬もいるんだ、飼い主と子犬の相性が大切で、どうしても合わない場合もあるんだ……。これまで知らなかったことがたくさん書いてあり、隅から隅まで読破。すごく勉強になりました」

　エネルギーが有りあまる犬はお散歩を頑張りましょう！　が店長の流儀。つくしちゃんもお散歩で発散すれば少しは落ち着くかと、ワクチンの接種が終わるのを待ちお散歩デビュー。しかし、固まってしまいまったく動かない。「家では暴れるのに外では歩かない。一体どうやって発散したらいいの？」。お母さんは途方に暮れた。

　高橋店長に見てもらえたら……。そう思うもののなかなか勇気が出ず、とりあえずシャンプーの予約を入れる。「偵察というか……小心者なんです（笑）。帰り際に思い切って『カウンセリングを受けたいのですが』とお願いしました」とお母さん。この一言を言うのにとても勇気がいったという。

　「うちのように迷ったり躊躇（ちゅうちょ）しているうちに、子犬はどんどん成長する。気になることがあったら、なるべく早く信頼できるプロに頼ったほうがいい。そう痛感しました」

そして、カウンセリング。

　お母さんがカウンセリングシートに記入している間、つくしちゃんの様子を見ていた店長はこうつぶやき続けていたという。

「強い。強いな」

　カウンセリングでは「これまで私がやってきたこと、ほぼすべてにダメ出しされました」とお母さん。そして、店長からはひとこと。「このまま預けていきます？」

　お父さんに何も相談していなかったこともあり迷ったが、「つくしちゃんはいい子だから大丈夫。任せてください」という店長の言葉に思い切ってお願いすることに。

　こうしてつくしちゃんの社会化お泊まりは突然スタート。自宅に戻ったお母さんは、つくしちゃんがいないガランとした部屋に一人立ち尽くした。すると、どうしたらいいのかわからないつくしちゃんとの日々、愛したいのにかわいいと思えない自分のふがいなさ……いろんな思いがこみ上げ号泣してしまったという。

「つくし、ごめん、ごめんね！」

　ひとしきり泣いたら気持ちがパチンと切り替わった。つくしちゃんのケージはもちろん、家の中をとことん掃除した。そして、お母さんはこう心を決める。

「つくしも頑張っている。私もつくしと向き合えるように頑張ろう」

後編へつづく（12月27日公開予定）

高橋信行店長　プロフィール

物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。

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