困りごとフルコースのダックスフントのトレーニング 何よりも「信じることが大切」

遊ぶの楽しい♪ 誰とでも仲良くなれるのは才能!(UG提供)

 ほえる、かむ、トイレシートをかみちぎってボロボロにする、お散歩ができないーー。そんな困りごとフルコースのダックスフントの子犬に戸惑った家族は、ブリーダーの勧めもあり、UG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋店長のもとへ。

 激アツ店長、中目黒の駅前で語る。

「諦めずに犬を信じること。犬に信頼される飼い主になること。それが大事」

(前回のお話はこちら)

(末尾に写真特集があります)

桃くんの変化

 ダックスフントの桃くんとその家族を前にした高橋店長。カウンセリングのときのことをこう振り返る。

「桃くんはうちにくるダックスの中でも指折りで強いことは確かでした。しかし、きちんとしたブリーダー出身で血筋もよく、基礎も入っている。問題があるというよりも、とにかく遊びたそうで、そのストレスとエネルギーがたぎっていた。ならば、子犬らしく思い切り遊ばせよう、暴れさせてあげよう、と」

 店長が問題を感じたのは、むしろ家族の方だった。「特にお母さんは以前飼っていた犬たちと桃くんを比べ、桃くんに対して『大丈夫なの?』と疑問を持っているようでした。前の子たちは前の子、桃くんは桃くん。比べても意味がない。色んな意味でお母さんは意識を変えることが必要。そう感じました」

 その場で社会化お泊まり決定。UGの群れに放すと、桃くんは遊びたい欲求を爆発させた。「ダックスはシャイだったり内弁慶だったりな子が多いのですが、桃くんには天性の明るさがある。すぐになじみ、いろんなワンコと楽しそうに遊び出しました」と店長。

 とはいえ頑固な一面も。UGではごはん前のフセ、マテをみんなで一緒にするのがルールだが、桃くんはなかなかやろうとしない。「理解していて、やらない。目も合わせない。頭はいいし、人のことをよく見ていましたね」と店長は振り返る。

柴犬と対等にやりあえるダックスなんて、そうはいません(UG提供)

 たっぷり遊び、思う存分暴れた1週間。お迎えの日、目黒川にお散歩の練習に行くと、桃くんはサクサクと歩き、お父さんとお母さんを「別犬!?」と驚かせた。しかし結局、最後までごはん前のフセ、マテはしなかった。「なんでできないんだろう」とお母さんは心配したが、店長は意に介さずこう伝えた。

「以前飼っていた犬たちのようにおとなしい子もいるけれど、桃くんは激強のダックスです。育てるのは苦戦するかもしれない。でも、明るくて頭がとびきりいい。ご家族が桃くんを理解し、信じ、やることさえきちんとやれば、必ず堂々としたかっこいいダックスになります!」

 その上で、常時フリーにせずハウストレーニングをする、フセ・マテの練習をする、しっかりとお散歩に行く、という「基本」を徹底するようにアドバイスした。

お母さんの葛藤

 帰宅すると甘がみはほとんどなくなっていたが、お母さんへの「かまって!」という要求吠えは相変わらず。店長のアドバイスに従い、お母さんはどんなに仕事で忙しくても時間を見つけては桃くんをお散歩に連れ出した。「遊ぶ暇があったら一にも二にもとにかくお散歩と、1日3回、10キロ近く歩くことも」。しかし、ほえは一向になくならない。

 多忙なお父さんも早起きしてお散歩に行ってくれた。「うれしかった。でも、夫と一緒だとほえないというのです。なんで私とだとほえるんだろう? 店長に言われた通りにやっているのに、なんで?私が悪いの?……そんな思いにとらわれていきました」

 店長は、しかし、そんなお母さんにあえて厳しく接したという。「お母さんは心のどこかで桃くんを信じきれていないように感じました。また、『私はこんなに頑張っているのに』という弱音やグチが多かった。お母さんが努力していることはわかっていたけれど、根本的な意識が変わっていない。変わろうとしていない。そのことにお母さん自身に気づいてもらうため、きつく伝え続けたのです」

 さらに、桃くんが去勢手術を受けたあとお母さんが体調を崩し、2カ月ほど十分にお散歩ができない状況が続いた。久しぶりにアフターケアにきた桃くんはいきなり後輩犬にガブっ! 店長から特大の雷が落とされた。「お散歩できなかったのは仕方がない。でも、その状況に引っ張られてルールがあいまいになり、甘やかしてしまっていることは明らかでした」

 実は、お母さんはハウストレーニングに関して勘違いをしていた。桃くんには専用のスペースがあり、その中にドーム形のベッドとトイレトレーを置いていた。「クレートを置いたこともあるのですが、中に入らないし、かみ付いて壊しそうだったので撤去してしまいました」。店長はこう解説する。

「ハウストレーニングの意味は、扉を閉じた狭い空間で、安全をキープした上で落ち着いて過ごさせること。いわばスイッチをオフにするのです」

 ハウストレーニングはしているという飼い主の話をよくよく聞いてみると、「ケージやクレートはあるけど扉は閉めない」「部屋の一部を仕切り、その中は自由にさせている」というケースが多いという。これは厳密にはハウストレーニングにはなっていない。より狭いスペースのクレートで過ごせるようになると、過去に登場したトイプードルのゼリーちゃんのように一気に落ち着く子は少なくない。

思い切り遊んだあとは、しっかり休息。このメリハリが大事(UG提供)

桃に向き合う!

 お母さんは桃くんのスペースに改めてクレートを設置し、ハウストレーニングをスタート。すると静かに過ごせるように。しかし、少し気を抜くとまた乱れてくる。「1歳を迎えても波があって、とにかくアフターケアに通い続けようと決心しました」

 そんな中、おじいちゃんが病に倒れる。「父は桃をかわいがり、病院に面会に行っても『早く帰らな、桃が待っとう』と気にかけていました」とお母さん。退院し帰宅すると桃くんは大喜び! おじいちゃんの顔をぺろぺろとなめまくった。残念ながらその後、おじいちゃんは帰らぬ人に。「最期にかわいくて仕方がない桃と穏やかな時間を過ごせて、義父はとても幸せだったと思います」とお父さんは振り返る。

 葬儀も終わり少し落ち着いたころ、お父さん、お母さんと桃くんはUGのオフ会に参加した。「いろんなことを乗り越えて今の幸せな時間がある。そんなみなさんの苦労話や経験談に共感し、私も頑張ろうと思えました」。そして、お母さんの意識は少しずつ変わっていった。

「店長やUGのスタッフさんたちに悩みや窮状を訴えれば、親身に聞いてくれる。でも、桃を育て、桃とずっと一緒に暮らすのは、ほかの誰でもない私たち家族。どんなに心が折れようが、桃に向き合い、信じ、やることをやらなきゃいけないのは私なんだ。当たり前のことですが改めてそう気づいたのです。やっと店長に厳しく言われていたことが理解できたように思います」

店長に「大好物!」と言わしめた、強カワ桃くん(UG提供)

犬を信じることが大切

 おじいちゃんが亡くなったことで、それまでの家は広すぎると引っ越しすることに。「桃のストレスになるかもと不安はありました」とお母さん。しかし杞憂(きゆう)に。リビングにケージを置くと、桃くんはとてもおとなしく過ごせるようになったのだ。店長はこう分析する。

「もしかしたら桃くんは、大好きなご家族と離れた専用スペースで過ごすことがさみしくてほえていたのかもしれません。柴犬やチワワのように距離感やひとり時間をほしがる犬種もいますが、ダックスは甘えん坊が多いので」

 フリーにする時間も増え、桃くんは足元のクッションでのんびり過ごしているという。「指示がよく通りコミュニケーションに困らなくなりました。こんな日が来るなんて」とお母さんはうれしそう。とはいえ完全にフリーにはせず、留守番はケージ、寝るときはクレートで。桃くんは自ら入り、落ち着いて過ごしているという。

「お散歩、ハウストレーニング、何より桃に向き合うこと……。店長に言われたことを信じ、やり続けてよかった」。お母さんにとびきりの笑顔が弾けた。

 高橋店長には貫いていることがある。「犬を信じること」だ。桃くんにも「お母さんが君を信じなくても僕は信じる。だから桃くんも店長を信じてついてこい、と伝えました」と振り返り、こう続ける。

「犬は人の気持ちを驚くほど敏感に感じ取ってしまう。子犬でも、です。『私がこんなに頑張ってるのになんでいい子にならないの?』というお母さんの不信感を感じ、桃くんは『なんで信じてくれないの?』と訴えていたのかもしれません」

 桃くんは今や子犬たちの面倒も見る立派な先輩に。「めちゃくちゃかっこいいダックスに成長しました。予想どおり!」。店長はちょっと誇らしげに胸を張った。

「てんちょーにかっちょいいダックスになった、ってほめられたよ!」(お母さん提供)

高橋信行店長 プロフィール
物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。
UG DOGS アトラスタワー中目黒店
住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/
店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。

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中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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この連載について
だから犬って最高だ!
「育犬ノイローゼ」に陥った飼い主が藁をもつかむ思いで全国からやってくる「駆け込み寺」=UG DOGSアトラスタワー中目黒店。ハイパーな子犬たちと悩める飼い主を相手に日々奮闘する店長・高橋信行さんの実録ルポ。
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