愛犬、愛猫を穏やかな最期へ導くために飼い主ができること

 愛犬や愛猫との幸せな日々が続くように願っていても、いつか別れはやってきます。生き方と同じように、犬や猫の死に方はさまざまです。愛するペットたちが命を危うくする病気になったときに悔いなく治療と向き合うため、死について考えてみませんか。

 動物は歳を重ねても老いや変化がわかりづらく、いつまでも元気でいてくれると錯覚してしまいます。「ペットを迎えたら別れを意識してください」と田園調布動物病院院長の田向健一先生。新連載『病気別 犬猫の最期』の第1回は、死を受け入れるための準備についてうかがいました。

穏やかな死を迎えるとは限らない

 私は飼い主さんに「この子はどのように最期を迎えるのですか」とよく聞かれます。愛犬や愛猫が元気なころは、病気で亡くなることを想像できないと思います。もし想像できたとしても、家族の腕の中で眠りにつくような最期をイメージする方が多いのではないでしょうか。SNSなどで目にするのは理想的な看取りの話が大半。ペットが苦しんで死んだことを発信しようとは思えないからでしょう。

 しかし、誰もが穏やかな老衰で死ねるとは限りません。医療の発達に伴い、病気を早く見つけて治療ができるようになり、寿命を永らえさせることが可能になりました。犬の寿命が10~15歳、猫の寿命が12~16歳とすると、その数年前から病気で闘病が始まる可能性が高い。元気なペットと過ごせる期間は意外と短いのです。

 だからこそペットを飼ったらなるべく早いうちに、別れを意識しておくことが大切だと思います。それが彼らと過ごす毎日を大切にすることにつながります。

猫
元気な犬猫もいつか病気になり、介護が必要になる日がやってくる

命を危うくする病気は老化でもある

 ペットが命に関わる病気になったとき、多くの飼い主さんは「原因は?」「どうして?」「何が悪かった?」と過去を振り返り、後悔し、自分を責めます。しかし、過去にとらわれていては治療に向き合えず、犬や猫のために良い選択ができなくなってしまいます。

 もし火事で家が燃えていたら、とにかく火消しをしますよね。原因は火遊びや寝タバコかもしれませんが、それを知ったところで火は消えないでしょう。病気も同じで、原因を探すよりも飼い主さんと獣医師が協力して今必要な治療を行うことがペットのためになります。

 高齢になって発症する病気は自然発生的に起こる老化のひとつであり、原因を探っても治りません。歳をとれば皮膚が老化して白髪やシワが増えるように、腎臓や心臓などの臓器も悪いところが出てきます。「薬を飲めば完治するはず」と期待する気持ちもわかりますが、80歳の皮膚が20歳の肌に戻らないように、老いによる病気は治療しても治らないのです。

動物の苦痛を少しでも楽にしてあげることが大切

 獣医師をしていると、いかに死が理不尽で急にやってくるか身に染みて感じています。しかし死んでいく動物が悔いを残すことはありません。過去を振り返って後悔したり、未来を思って不安になったりするのは人間だけなのです。 

 命は一方通行です。最高の医療を行ったとしても、老いを少し遅らせたり、痛みを少し楽にしたりすることしかできません。穏やかな最期を迎えられるように獣医師として尽くしますが、幸せな看取りへと導いてあげることは飼い主さんの大切な役割です。

 治療しても苦しい、食べられない、治る見込みがないということであれば、安楽死も選択肢のひとつになります。安楽死の決断は飼い主さんの責任の強さだと思っています。私の病院では、飼い主さんに動物を抱いてもらった状態で注射をして眠らせます。亡くなった瞬間、「ありがとう」と愛犬、愛猫に感謝する方ばかりです。

黒い犬
動物を主体にして、治療や看取りを考えることも大切

ペットロスになりやすい飼い主とは

 ペットとの別れを想像できなかった飼い主さんは、悲しみのあまり「ペットロス」に陥ってしまうことも少なくありません。愛犬や愛猫と一心同体のような関係だった飼い主さんは、看取った後に強い喪失感が沸き起こる傾向があります。また、初めて飼ったペットが亡くなったときにもペットロスになりやすいと思います。

 人間の死はだいたい年齢順に回ってくるもので、親より先に子どもが亡くなることは決して多くありません。しかし犬や猫は人間の寿命より短く、飼い主より早く亡くなることが大半です。それもペットロスを生む要因のひとつ。親(年上)を亡くしたときと、子ども(年下)を亡くしたときでは悲しみの深さが違うのではないでしょうか。

 愛犬、愛猫の死が悲しいのは当たり前ですが、もし自分が亡くなって残された家族が病気になるほど泣き暮らしていたら、「そんなに悲しまないで」と思いますよね。彼らもペットロスから病気になってしまった飼い主さんを見たらきっと心配します。

 動物が死ぬときは十分生きたときです。犬や猫が一生懸命生きて亡くなったことを飼い主さんは受け入れてあげてください。それこそ愛犬、愛猫が最も喜ぶことだと思いますし、獣医師としての願いでもあります。

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監修:田向健一(たむかい・けんいち)
獣医師。幼少期からの動物好きが高じて、学生時代には探検部に所属時、アマゾンやガラパゴスのさまざまな生き物を調査。麻布大学獣医学科卒業後、2003年に田園調布動物病院を開院。『珍獣ドクターのドタバタ診察日記: 動物の命に「まった」なし! 』 (ポプラ社ノンフィクション)をはじめ、犬猫およびエキゾチックアニマルの飼い方に関する著書多数。田園調布動物病院
金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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この連載について
病気別・犬猫の最期
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