駐車場で保護した赤ちゃん猫、縁を感じて飼うことに やんちゃで気の強い猫に成長

「子猫を保護したんだけど、うちで飼うことにしてもいいかな」

 仕事に出かけた夫から智子さんのところに電話があったのは、2016年10月初旬のある日の午前中だった。

(末尾に写真特集があります)

ずっと願っていた

 智子さんは自宅でフラワーアレンジメント教室を主宰し、オーダーメイドのフラワーギフトの制作を行っている。

 夫の声を聞き、智子さんは心の中で「バンザーイ」と叫んだ。

 小学生の長女と長男、保育園に通う次男も、躍り上がって喜ぶに違いない。

 智子さんと子どもたちは、ずっと動物を飼いたいと願っていた。夫も賛成はしていたが、保護犬や猫なら、という意見だった。その場合も、知り合いからの紹介など「自然なご縁にまかせる」という考えだった。

 家の中の重要事項の決定権は夫にあった。「パパの許可がおりる機会は訪れそうもないね」と子どもたちと話していた矢先の、夫からの提案だった。

子猫の小さな肉球

 その日の夕方、フリースを敷いた段ボールに入れられて子猫がやってきた。

 猫は、会社の近所の駐車場で見つけたという。たままたま、会社の女性スタッフと2人で車で通りかかり、1匹でミャーミャー鳴いている様子に放っておかけなかったそうだ。

 あたりに母猫の姿は見えず、痩せており、目やにもひどく片目は開いていなかった。女性スタッフが猫の扱いには慣れていたため、保護してそのまま動物病院に連れて行った。

キジ白猫
「私あずき。気が強いの」(小林写函撮影)

 動物病院では「引き取り先が決まっていないと診察はできない」と言われた。女性スタッフの家にはほかに動物がおり、これ以上猫を迎え入れる余裕はなく、それで「ご縁」と感じた夫が、飼い主として名乗りを上げたのだった。智子さんへの電話は、病院からだった。

 生後約1週間で体重は220gの雌。まだ自分で体温調整ができず、母親にくっついて体温を保持する必要がある状態だ。もしあと1晩外にいたら、寒さで命を失っていたかもしれないと獣医師に言われたという。

 はじめて見る子猫以前の赤ちゃん猫は、小さな肉の塊のようだった。だが、そっと抱き上げると警戒心のないあどけない瞳でみつめてくる。子どもたちは目を輝かせ、慣れない手つきで代わる代わる子猫を抱き上げた。

 子猫は、「あずき」と名付けた。小さな肉球がまるで小豆のような様子をしていたからだ。

順調に成長して

 子猫の世話は、家にいる智子さんの役目となった。

 実家にいた頃に犬を飼っていたため、犬を世話した経験はあった。しかし、猫ははじめてだ。

 智子さんの近所には、猫を飼っている友人知人が多くいた。何かあればすぐに相談でき、必要なグッズなども譲ってもらえたのはありがたかった。

 暖かくした寝床に寝かせ、3時間おきに子猫用の哺乳瓶でミルクを与える。最初のうちは上手に飲んでくれずにハラハラしたが、すぐにゴクゴク飲むようになった。

棚の上の猫
「今日はお姉ちゃんもお兄ちゃんもいないから、私の天下なの」(小林写函撮影)

 早朝、智子さんが花の仕入れのために市場にでかけるときは、ペット用のホットカーペットを敷いたキャリーバッグに入れて車にのせ、一緒に連れて行った。少しの間でも、自分の目から離すのは不安だった。

 まだ排泄(はいせつ)もひとりではできず、本来なら、母猫がお尻をなめて手伝いをする時期だ。智子さんは、ぬるま湯に浸した温かい布で肛門(こうもん)近くをトントンと軽くたたき、母猫の代わりに出してやった。

 1カ月も経つとあずきはひとりで排泄できるようになった。乳歯が生えはじめたので離乳食に切り替えることになった。

 ミルクと、ふやかしたドライフードを半量ずつ器に入れ、あずきに差し出した。上手に完食したときは、家族全員で大喜びした。

 あずきは順調に成長し、活発に動きまわるようになった。

 猫飼いの先輩たちの見立てによると、あずきはやんちゃで気の強い猫のようだった。主張もしっかりするし、気にいらないことがあると、かみ付いたり猫パンチを繰り出して抗議してくる。

椅子でくつろぐ猫
「これ私のイス、私の」(小林写函撮影)

 智子さんの職業柄、家の中には花や植物が多く置いてある。不思議なのは、やんちゃにもかかわらず、それらには一切手を出さないことだ。かじったり、花瓶を倒すこともなく、存在しているのがあたりまえのように受け入れている。

 長女と長男にはすり寄って甘え、末っ子の次男とは兄弟のようにじゃれあい、寄り添って昼寝をする。

 あずきは、智子さんの4番目の子どもになった。

ある日訪れた変化

 あずきが家に来て8カ月が経った頃だった。

 それまで風邪ひとつひかず、動物病院に行ったのはワクチン接種ぐらいで、かかりつけの獣医師にも「筋肉質でスタイルがいい」とほめられていた。そんなあずきが、食事に口をつけなくなったのだ。

 智子さんはすぐに病院に連れて行った。

 血液検査に異常はなかった。レントゲンを撮ると、胃と腸の間に何か詰まっている様子だったが、はっきりはしなかった。

 しばらく様子を見ることになり、いったん家に連れて帰った。その後、またフードを食べ出したので安心した。「詰まっている何か」も、便と一緒に外に出るかもしれないと期待したが、ここ数日排便をしていないことが気にかかる。

 もう一度病院へと考えはじめたときだった。長女が、手術のため緊急入院することになった。

【前の回】警戒心が強い野良猫を保護 懐かなくてもいい、安心できる家で過ごしてほしい

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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