警戒心が強い野良猫を保護 懐かなくてもいい、安心できる家で過ごしてほしい

 ごはんを求めて直子さんの家の勝手口に現れ、その後、近所の家の庭で4匹の子猫を産んだ、茶色の長毛猫「ふわりん」。子猫のうち3匹はカラスの餌食となり、残った1匹は衰弱していたため、直子さんは保護して動物病院に連れて行った。だが、「チャチャ」と名付けたその子猫を助けることはできなかった。

(末尾に写真特集があります)

また現れるようになった

 子猫を死なせてしまったことは自分にも責任がある。そう考えた直子さんは、なんとしてもふわりんを保護し、避妊手術を受けさせて安住の地を探そうと決めた。

 チャチャが旅立ってしばらくの間、ふわりんは大声で鳴きながら失った子猫を探し回った。近所に響き渡るその悲痛な声を聞きながら直子さんは、子猫を取り上げてしまった自分のところへは、もうふわりんは戻ってこないと考えていた。

 だが、ふわりんはまた直子さんの家に現れるようになった。

 何日か様子を見て、試しにキャリーバッグの中にフードを置いたところ、ちゅうちょせずに中に入った。すかさず扉を閉め、その足で、友人から紹介された最寄り駅近くの動物病院へ運んだ。

長毛の猫
「ふわりんです。少し有名になったかしら」(小林写函撮影)

 そこは犬猫の保護活動に理解のある女性獣医師が院長を務めていた。チャチャを連れて行った病院がかかりつけだったのだが、家から少し距離があり、そのことがチャチャの命を縮めたのではないかという後悔があったからだ。

 病院での診察と検査の結果、健康状態に問題はないとのこと。そのまま入院して避妊手術をしてもらい、病院で告知をし、譲渡先を探すことにした。

「シャーッ」と激しく威嚇

 譲渡先が決まるまでは直子さんが家で預かり、家猫としての生活に慣らそうと決めた。

 直子さんの家には、ポメラニアンの「ソラ」と、3匹の元保護猫「クロ」「みーこ」「ハッチ」がいる。これ以上動物を増やすのは負担が大きいし、子猫ならともかく、出産経験のある成猫が、今の家の状況になじむとは思わなかった。

 ふわりんはケージに入れて和室で過ごさせることにした。和室はふわりん専用のスペースとしてほかの猫とは隔離した。

2匹の猫
「ねえソラ、今回も私の話だって」「は〜、僕も妊娠とかしなきゃだめかな」(小林写函撮影)

 ふわりんは警戒心が強く、触ろうとすると「シャーッ」と激しく威嚇する。

 ケージの中では暴れて水や猫砂をひっくり返すし、夜鳴きも激しかった。なだめようとして与えた、ピューレ状のおやつもたたき落とした。

 子猫を守りながら外で生きてきた母猫ならではの厳しい表情に、直子さんは最初とまどった。

 和室に入ると、ふわりんはさっとケージ内に身を隠す。ケージの前にフードを入れた器を置いても、直子さんがいると口をつけない。部屋を出て、しばらくするとカリカリと音がして、器は空になる。

 日を重ねるうちに、直子さんの見ている前でもフードに口をつけるようになった。

「本当によそにあげちゃうの?」

 1カ月が過ぎた頃、先住動物たちと対面させた。

 性格が優しく穏やかなソラとクロは問題なかったが、みーことハッチとは折り合いが悪かった。

 特にみーこは、雌同士ということもあるのか激しくふわりんを威嚇をした。ふわりんも負けじとうなり声をあげ、互角ににらみ合う。常に一触即発の雰囲気で、目が離せなかった。

 長毛のふわりんは野良猫だったと思えないような優雅な容姿のため、写真映えがする。にもかかわらず、なかなか譲渡の申し込みはこなかった。成猫のためだろう。数カ月たったときに希望者が現れ、家で「お見合い」をしてもらったが、進展しなかった。人間に「シャーッ」と威嚇をする実際のふわりんと、写真のイメージとの間にギャップがあったのかもしれない。

黒猫
「クロです。ふわりん、おつかれ」(小林写函撮影)

 その後、譲渡の申し込みが入ることはなく数カ月が過ぎた。

 ふわりんの和室隔離の時期は終わり、自由に家の中を移動するようになっていた。みーことの仲は平行線で、威嚇しあい、猫パンチを繰り出すことも日常茶飯事だったが、流血を見ることはなかった。

 ふわりんの表情は、家に来た当初に比べるとだいぶやわらいできた。

 あるとき、中学生だった息子が言った。

「本当に、ふわりん、よそにあげちゃうの?」

 それがきっかけとなり、ふわりんは家の4匹目の猫になった。

 家にいるなら、このまま一生懐かなくてもいいと直子さんは思っていた。

 先住猫の存在はうっとうしいだろうが、それでも、外にいるよりは安心できるはずだ。

 その想像が確信に変わったのは、ふわりんが脱走騒ぎを起こしたときだった。

 うっかり勝手口の扉を開けた隙に、飛び出してしまった。血の気が引く思いで近所を捜索した。戻らないことも覚悟していた。

 だが1時間後に、なにごともなかったかのように庭から帰ってきた。

 ここが自分の家だと、ふわりんは認識している。それが直子さんにはうれしかった。

6年目に初めて

 ふわりんを迎えてから、この夏で丸6年になる。

 みーことの関係は相変わらずで、深夜、リビングから2匹がやりあっているらしい叫び声が聞こえて目が覚めることもしょっちゅうだ。

 それがけんかなのか、猫同士の交流の一環なのかは、よくわからない。

 ふわりんは2年目になでられるようになり、5年目に抱っこができるようになった。そして6年目に、はじめて自分から直子さんのひざに乗った。

(次回は8月13日に公開予定です)

【前の回】保護した子猫の命を救えず後悔 なんとしても母猫は幸せにすると誓った

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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