「下界は暑そうだね」(小林写函撮影)
「下界は暑そうだね」(小林写函撮影)

糖尿病と診断された愛猫 不安な日々を乗り越え、きょうだい猫と穏やかに過ごす

 東京23区西部に家族で暮らすみさきさんの家には、オスの「ティオ」とメスの「ぺぺ」という、元保護猫のきょうだいがいる。

 2011年に家に迎えてから大きな病気をすることなく元気に過ごしていた。だが、2019年の暮れに当時8歳のティオの食欲がなくなり、動物病院に連れて行ったところ、糖尿病と診断された。それで、自宅でインスリン注射を行うことになった。

(末尾に写真特集があります)

インスリンの投与量を探る日々

 ティオに注射針を刺すことは、それほど難しくはなかった。問題はインスリンの投与量を決めることだった。

 どれぐらいの投与量で血糖値が安定するのかは、しばらく様子を見ないと決められない。少ないと効果がでないが、多いと低血糖になって命にかかわる。しっかり食事をとったことを確認してからの投与が重要で、吐き戻したあとや、空腹状態で投与したら危険だ。

 インスリン注射は朝晩、決まった時間に行う必要があった。ティオのからだに500円玉ぐらいのバッチのようなものを動物病院で貼りつけてもらい、そこにリーダーをあて、2〜3時間おきに血糖値を測定する。その記録を動物病院に報告をしながら投与量をさぐっていった。

「ティオです。僕だけひとりにしないでよ、ぺぺ」(小林写函撮影)

 肥満気味の猫はインスリンに対する反応が弱いという。ティオもこれにあてはまり、血糖値はなかなか下がらなかった。1カ月が過ぎた頃、また食事をとらなくなったので病院に連れて行くと脱水症状を起こしていた。3日間の入院による集中治療で元気がもどったティオに、再び家でインスリン注射を行う。

安定しない日々に募る不安

 ティオの性格はのんびり穏やか、人懐っこくて愛嬌がある。でも家の外に出ると臆病で、病院では常にブルブル怯えている。みさきさんが付き添っているときはおとなしいが、入院中は院長のT先生や動物看護師さんを威嚇し、ケージ内では暴れて爪を折り、診察台の上ではがっちりと押さえつけていないと治療も困難と聞いた。

 インスリン投与量は個体差が大きい。すぐに投与量が決まる猫もいれば、そうでない猫もいる。病院が大嫌いなティオのためにも、早く投与量が調整できればと日々祈るような気持ちで注射針を刺す。ティオの体調が急変したらと心配で、夜中でも目が覚める。もう治らないのではという不安にも襲われた。

安定するまで3週間入院することに

 5.5kgあったティオの体重は、4kg台まで減っていた。

 さらに数週間後、再び体調を崩したティオを病院に連れて行ったときだった。

「インスリンの投与量が決まるまで、じっくり腰を据えて3週間入院してみてはどうでしょう」

 とT先生から提案された。

 みさきさんは迷った。大嫌いな病院の狭いケージの中にからだの大きなティオを閉じ込めたら、それこそストレスでどうかなってしまうのではないか。でも、常にティオの性格を考えて治療を施してくれた先生からの提案だ。みさきさんも限界にきていたし、受け入れるより、方法はないと思った。

「ぺぺよ。私よりお母さん撮れば」(小林写函撮影)

 入院中、みさきさんは毎日ティオの顔を見に病院へ通った。

「ティオ、入院はつらくて大変だけど、頑張ったらおうちに帰れるからね」

 と励ました。

 するとみさきさんの心配をよそに、ティオは想像もしなかった順応性を発揮した。最初こそは険しい表情をしていたが、次第におとなしくなり、威嚇したり暴れたりしなくなった。家にいるときのような穏やかな顔つきになり、先生や看護師さんにおなかをみせて甘えるようにまでなった。

戻って来た穏やかな日常

 ティオが安心して過ごせる環境を、病院側がつくってくれたおかげもあるだろう。

 3週間の入院でインスリンの投与量が調整でき、食欲も安定し、減っていた体重ももどった。

 それからは入院することもなく、インスリン注射と、糖をコントロールする療法食の効果で血糖値は安定している。食べることが大好きなティオは療法食を毎日残さず平らげ、再び肥満を注意されるまでふくよかになった。

 今のところ、病院嫌いのティオを通院で煩わせる必要もほとんどなく、穏やかな日々を送っている。

「こんにちは、何してるの?」(小林写函撮影)

 猫も10歳を過ぎてシニアと呼ばれる年齢になると、体調に変化が起こる。

 ぺぺは、今年の4月に血尿を出した。動物病院で検査をしたところ、膀胱に結石が見つかった。結石を溶かす薬と療法食により、現在は再発もなく過ごしている。

 2匹は別々のタイミングで動物病院に連れて行くが、一方が帰ってくると、なぜかもう一方が威嚇する。

 猫パンチをしたり、追いかけたり。病院独特の臭いが嫌なのだろうか。1週間ぐらい仲が悪かったことがある。

 最近は、ペペがときどき布団の上などで粗相をするようになった。

 結石は消えて膀胱には問題がないのに、どうしてなのか。

「ぺぺが人間の言葉をしゃべることができれば、理由が聞けるのにね」

 と、中学1年生の娘は言う。小さい頃から動物好きだった彼女は、将来なりたい職業を聞かれると、「ペットショップの店員さん」「猫の保護活動をする人」などと答えていた。

 現在の夢は獣医師だ。

(次回は8月26日公開予定です)

【関連記事】猫との暮らしは癒やしや楽しさばかりじゃない やんちゃ過ぎた子猫期と闘病生活

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

sippoのおすすめ企画

sippoの投稿企画リニューアル! あなたとペットのストーリー教えてください

「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!

この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
Follow Us!
編集部のイチオシ記事を、毎週金曜日に
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。


動物病院検索

全国に約9300ある動物病院の基礎データに加え、sippoの独自調査で回答があった約1400病院の診療実績、料金など詳細なデータを無料で検索・閲覧できます。