いつか来る愛犬「福」との別れの時 未来を不安がるより、毎日ありったけの愛情注ごう
月刊誌『天然生活』『ESSE』で編集長をつとめ、数多くのヒット書籍をつくり続けている編集者の小林孝延さんこと「とーさん」は、困り顔の元保護犬「福」と元野良猫の「トモ」「モエ」と暮らしています。今回は、いつか来る別れの時についてです。
まるまるとして幸せそうで
先日、友達の大切な猫が扁平(へんぺい)上皮がんという、とても進行が早いがんにかかって旅立っていきました。その友達は猫沢エミさんというミュージシャンで文筆家。猫沢さんが新宿の路上で痩せこけてボロボロだった彼女を保護したのが今から1年半ほど前。白い毛に茶色いぶちのその猫はイオちゃんと名付けられ家族になりました。
去年のクリスマスの頃、友達みんなで猫沢家を訪ねたとき、外猫だった頃が想像できないくらい、まるまるとして幸せそうで穏やかな表情のイオちゃんは、とても元気そうでした。
東京スカイツリーが目の前にきらきらと光る夜景がすばらしい部屋で、おいしい手料理を楽しみ、イオちゃんたち猫沢家のみんなと戯れた時間は夢のようなひと時でした。
別れ際に「じゃあ、またみんなでね!こんどはイオちゃん抱っこさせてくれますように」なんて言葉を残してお別れしてから、ひと月も経たない頃、そのイオちゃんにがんが見つかったのです。
ほっぺに違和感が
イオちゃんのほっぺを触っていた猫沢さんが「あれ?」と違和感を感じたのが1月の下旬。すぐに信頼できる病院で検査を受け、扁平上皮がんと診断が下されたときにはすでに余命2カ月でした。宣告された時の猫沢さんの気持ちを思うと、そこに自分の様々な思いも重なって、息がつまりそうでした。
扁平上皮細胞に悪性腫瘍(しゅよう)ができるこの病、猫の場合は口の周りにできる腫瘍の多くがこのがんで非常に予後がよくないのです。そこからの2カ月をどう過ごすべきか。なにを一番に大切にすべきか。行きつ戻りつする思いと葛藤と運命を受け入れて前に進む様はまるで実況中継のように更新されるインスタグラムに詳細に記されているので、読んでいてつらいけれど、ぜひ読んでみてほしいのです。
どこかへ行ってしまう気がして
イオちゃんの病気がわかった頃、とーさんは自分のインスタグラムこんなことを書きました。
「福と歩く。どんどん僕をおいて先へ進んでいく。福の姿が闇に消えそうになる頃、こちらを振り向いた『長い間ありがとう元気でね』そんな言葉をつぶやいてどこかへ行ってしまうような、ふとそんな気がして急に泣きたい気持ちになった。いつか別れる時がくる。当たり前だけど永遠はない。でも、だからこそ毎日自分の中のありったけの愛情を注いで生きていこうと思う。当たり前の日々こそがじつは宝物だ」と。
動物たちと暮らすということは、大きな喜びや幸せを与えてくれます。それが大きければ大きいほど別れる時の喪失感は計り知れない。でもだからこそ、見えない未来に不安を抱くよりも今ここにある命を慈しんで、この時を大切にしなければならないということを彼らから学ぶのです。
とーさんも忙しさに追われてくると、ついつい「毎日」がおろそかになりそうになります。でも、そんなときこそ、小さな一瞬一瞬を大事にしなければと強く思うのです。
散歩ひとつにしても、ぼんやり歩くのではなく、福の一歩一歩、その足取りや、その日のささいな行動の変化、尻尾の揺らぎさえも見逃さぬように脳に刻みつけよう。ずっと散歩が上手にできなかった福が、いまではちょっと遠回りの道草ができるようになったなんて、その喜びを大切に、寒いけどもう少しだけ遠くまで歩いてみよう。
ブラッシングするときも、「上手に歩けたね、えらいね。がんばったね」と声をかけながら、いとおしむように。さっさと終わらせる「作業」にせず、その時間を存分に楽しもうと心がけているのです。
いつもの1日こそが宝物
動物はやさしい。イオちゃんも最後までごろごろごろごろとのどを鳴らして猫沢さんにやさしく身を委ねてきたといいます。その小さな命を包み込むように最後を看取る。小さな命の灯火は人間たちに本当にいろんなことを教えてくれるのですよね。
いつもと同じような1日。それこそが宝物。
お葬式には参加できなかったけれど、近いうちにイオちゃんが好きだったおやつを持ってお別れを言いに行ってきます。
◆小林さんが発行人を務める月刊誌『天然生活』のサイトはこちら
【前の回】距離を縮める先住犬「福」と兄妹猫「トモ&モエ」 一緒にくつろぐ姿はもう家族
(次回は4月17日に公開予定です)
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