3匹目の子猫を迎えた初日 いつもは動じない先住猫が鬼の形相で威嚇した
緑豊かな郊外の一軒家で母親と暮らし、近所の子どもたちに絵画や工作を教えている由香さんが、福島の被災地出身の猫「大福」を引き取ったのは、2012年の年の瀬のことだった。その約3カ月後に、同じく被災地の猫「春」を迎え、それから約2年が経った頃に、3匹目の猫がやってきた。
ちょっと気弱そうな子猫
3匹目は、計画していたわけではなかった。たまたま、隣の市で猫の譲渡会が開かれると知り、「近所だし、試しにのぞいて見よう」と立ち寄ったことがきっかけだった。
会場には子猫たちが入ったケージが並び、入場者たちは皆興奮気味だった。早く気に入った猫を見つけなければ、という焦りにも似た空気が漂っていた。
大福は3歳、春は10カ月と、迎えたのはそれぞれ大きくなってからだった。子猫たちがクルクルと動き回る様子を見るのは、由香さんにとって新鮮だった。
会場の空気にのまれながら、ふと足が止まったのが、キジトラの4兄弟のケージの前だった。
そのうち2匹はすでに譲渡先が決まっているようで、係の人の「残り2匹はまだですよ!」の声に思わずケージをのぞきこむと、顔立ちの整った1匹と目が合った。月齢3カ月の雄猫は、まだ「赤ちゃん」だ。あどけなさの中に漂う、ちょっと気弱そうな表情が由香さんの心を捉えた。
気がつけば「この子にします!」と手を挙げていた。
鬼の形相で
子猫は「豆太」と名付けた。有名な絵本『モチモチの木』の主人公「おくびょう豆太」からとった。
豆太が家で過ごす初日、由香さんは2階の仕事部屋にあるケージに豆太を入れた。そこは普段、猫たちが過ごしている部屋だ。
すると、これまで何事に対してもどっしり構えて物おじしない大福が、ケージに向かって「ギャー」という叫び声を上げた。まさに鬼の形相ともいうべき姿で、由香さんは仰天した。
大福はそのまま、部屋からプイと出ていき、その日は部屋に戻らなかった。そして翌日、大福はトイレで真っ赤なオシッコをした。
由香さんは大慌てで、かかりつけの動物病院に連れて行った。院長の獣医師は、由香さんの中学時代の同級生「陽子ちゃん」だ。
検査をしたが、特に内臓などに悪いところはなかった。おそらく、新入りが来たことからくるストレスだろうという見立てだった。
「3匹目が男の子かあ。無謀だねえ」と陽子ちゃんは笑いながら言った。
雄猫3匹の場合、それぞれが家の中でテリトリーを作り、縄張り争いが起こる可能性が高いという。また猫の世界では新入りが来ると、ボス猫は若者に場所を譲って家を出てしまう例もある、とのことだった。
「大ちゃんが家出しないように、とにかく気をつけてあげてね」
先に保護団体からも、先住猫が雄猫2匹の場合、新しい猫をいじめるたりすることもあるから注意するように、とは聞いていた。だが、大福と春がすんなり仲良くなったこともあり、油断をしていた。3匹目で同性となると、先住猫たちに対して、より気を遣う必要があるのだ。
豆太は当分の間、基本的に他の2匹とは生活空間を分けることにし、様子を見ながら徐々に慣れさせることにした。
無邪気な子猫
救いだったのは、春が、とても友好的だったことだ。初日から警戒することなく豆太に寄っていき、何日かすると毛繕いをしてやったり、遊びにつきあってあげたり「お兄ちゃん」としてよく面倒を見るようになった。
豆太のほうは、子猫というせいもあって無邪気だった。大福に何度「ギャー」と威嚇されても頓着せず、「遊ぼう!」という様子で元気に飛びついていく。
そうして日を重ねるうちに、「豆太は縄ばりを争う相手にまで至っておらず、社会を知らないただの子ども」だということを、大福は理解したようだった。
豆太が来て2カ月が過ぎる頃には、3兄弟がそろって日当たりのよい2階のベランダに並び、過ごす姿が日常になった。
外で暮らす猫たちに
由香さんの家の裏庭には、ときどき、外で暮らす近所の猫たちがやって来た。
中にはまだ小さく、避妊・去勢手術をしたほうがよさそうな猫もいた。そのうちの数匹を、由香さんは自ら捕まえてキャリーバッグに入れ、陽子ちゃんのところで手術を受けさせた。
陽子ちゃんは保護活動にも理解があり、いつも快く引き受けてくれた。猫たちの譲渡先探しも手伝ってくれた。
すでに3匹と暮らしているので、これ以上引き取ることはできない。そう思ってのことだった。だが、豆太を迎え入れてから5年が経ったとき、4匹目の猫がやってくることになった。
◆由香さんのInstagram
(次回は2月26日に公開予定です)
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