猫のために何ができる? 愛猫をあっけなく失った飼い主が、考えた末に決めたこと
ぬいぐるみ作家でありギタリスト、絵描きとして活動するおおくぼひでたかさんが、愛猫「モナコ」を亡くしたのは今から7年前のことだった。
人生で初めて一緒に暮らした猫
保護猫だった子猫時代に譲渡してもらい、人生で初めて一緒に暮らした猫だった。12歳になったとき、胸にしこりがあることに気がついて近所の動物病院に連れて行ったところ、乳腺がんと診断された。腫瘍の切除をしたが1カ月後に肺へ転移が発覚し、それから間もなく旅立った。
猫の乳腺がんは根治が難しく、転移もしやすい。それはわかっていたが、獣医師に勧められるがままに手術を受けさせ、あっけなく逝かせてしまったという悔いが残った。
闘病中は、図書館で獣医療に関するさまざまな本を借りて読み、動物の自然治癒力を引き出す東洋医学に関心を持った。西洋医学を否定はしないが、猫に負担をかけない治療の選択もあるはずだ。それ以前に、病気にかかりにくい健康なからだを作るため、飼い主としてできることがあるのではと考えた。
妻と暮らすおおくぼさんの家には当時、「コロナ」という名のアメリカンショートヘア柄の11歳の雌猫と、「なっちゃん」という8歳の茶トラの雄猫がいた。2匹とも、子猫のときに引き取った元保護猫だ。幸い大きな病気はしていないが、2匹とも若くはない。
考えた末、おおくぼさんは毎日の食事を自分の手で作ることに決めた。
最後に口にしたものは
猫に「手作りご飯」を与えることには賛否両論あり、広く浸透しているわけではない。手作りの食事だけで必要な栄養素を摂取させるのは難しい。また猫にとって害になったり命に関わる食材を与えてしまう危険もあるため、正しい知識も必要となる。手間もかかるし、愛猫に健康で長生きして欲しかったら、総合栄養食のキャットフードに勝るものはないというのが一般的な考えだ。
おおくぼさんも、基本的にドライフード派だった。だが、食事を受け付けなくなったモナコにさまざまな食材を試していたとき、最後に口にしたものが刺し身用の切り身だったことで、考えなおすようになった。
防腐剤などの添加物はできるだけ摂らせたくない。人間が食べるものと同じ食材を、なるべく加工をせずに自然な形のままで与えたほうが猫にとってもおいしいだろうし、健康寿命ものびるのではないか。
おおくぼさんは何冊が出版されている手作りご飯に関するレシピ本の中から信頼できるものを選び、参考にしながら食事作りをはじめた。
手応えを感じて
必要な素材は3要素。鶏胸肉や鶏ササミなどのたんぱく質、米などの穀類、野菜だ。これらをそれぞれ調味はせずにそのままゆでて、決められた割合で1日分を用意する。
コロナもなっちゃんも、最初はほとんど口をつけなかった。ドライフードの匂いと味に慣れきっているためか、「無添加で自然」なものを警戒する。特に、年上のコロナはその傾向が強く、少し食べては吐き出す日もあった。
なんとか食べてもらいたいと、おおくぼさんはドライフードを砕いて混ぜ、誘導することを試みた。すると食べる量が増えてきた。毎日記録をつけ、様子を見ながらドライフードの量を減らしていくうち、2カ月が経つ頃には、手作りご飯のみで1日の規定量を食べきるようになった。
さらに数カ月が経った頃、コロナの頭の毛がバサッと抜けた。驚いたが、デトックス作用だと分かった。排尿の量も増えた。これは手作りご飯がドライフードに比べて水分量が多いためで、尿とともに老廃物も排出されやすくもなったようだった。
2匹とも体が締まり、毛づやもよくなった。以前より健康そうな様子に、おおくぼさんは手応えを感じた。
朝5時からアピール
困ったこともあった。以前より、食事の催促が激しくなったことだ。朝の5時から、寝ているおおくぼさんのベッドに登ってきては髪の毛を引っ張ったり、テーブルの上の物を落として音を立てて「ごはん!」とアピールする。睡眠どころではない。
結局、おおくぼさん夫妻は猫たちの生活に合わせるため、夜10時に就寝し、朝5時に起床する生活に切り替えた。
こうして食事を手作りして7年が経った。なっちゃんは現在15歳、今年の夏に他界したコロナは18歳だった。2匹とも、12歳で亡くなったモナコよりも長生きだ。
手作りご飯が絶対だとは、おおくぼさんは考えてはいない。猫によって合う、合わないもあるし、手作りにすることで全ての病気が防げるわけではない。キャットフードだけ食べていても、病気知らずで長寿の猫はいる。
ただ、最後まで食欲が衰えず、おおくぼさんの手からご飯を欲しがったコロナと、相変わらず早朝から騒がしく食事の催促をしてくるなっちゃんの存在は、おおくぼさんの支えになっている。
(次回は12月11日に公開予定です)
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