福島から来た猫たちを家に迎えた 動じない「大福」と穏やかな「春」2匹は仲良しに

 もの心がついた頃から犬と暮らしてきた由香さんが、4代目の愛犬、シェットランド・シープドックの「なつ」を見送ったのは、2012年の初夏だった。

 それから半年が過ぎ、また動物と暮らしたいと思ったとき、なぜ猫を選んだのかは自分でもよくわからない。

 心に導かれるままにその年の暮れ、都心の譲渡会場に足を運び、出会ったのが「大福」だ。

(末尾に写真特集があります)

悠然とした様子に心ひかれて

 さまざまな保護団体が集まる規模の大きい譲渡会で、大福は、東日本大震災後の福島から来た猫だった。たまたま「福島の猫」のブースを通りがかったときに、目が合った。

 毛は白く、首から下の背中と尻尾、頭の一部と耳がキジ柄。からだはすでに大きく成猫だった。ケージの中で悠然と構え、その様子に心ひかれた。

 原発被災地の民家に取り残されていたところ、ボランティアに保護されたという。年齢は推定3歳で雄だ。「とても人なれしている子ですよ」と係の人に言われ、ケージから出して触らせてもらった。

家の中を歩く猫
「頭の模様がつながってるのが大福だよ」(小林写函撮影)

「猫を初めて飼うなら、社会性のある成猫のほうが性格もわかるし暮らしやすい」という言葉で、由香さんは心を決めた。

「大福」という名をつけたのは由香さんだ。「たくさんの福が訪れるように」という思いと、どことなく大福餅を思わせる外見から命名した。

 大福は、最初の1週間は多少警戒していたが、すぐに由香さんの家に慣れた。フードもよく食べ、買ってきたおもちゃでもよく遊んだ。

やっぱり動じない

 緑豊かな郊外の一軒家で母親と暮らす由香さんは、近所の子供たちに絵画や工作を教えている。

「由香先生が、猫飼ったんだって!」とうわさを聞きつけた子供たちが冬休みの間、次々と大福を見にきた。好奇心いっぱいの視線にも動じない大福は、譲渡会場で出会ったときの印象のそのままの性格だった。

ハウスに入る猫
「おにぎりじゃなくて大福だって」(小林写函撮影)

 犬と比べると、猫は飼い主に対してマイペースでクールだ。この家での暮らしに不満はなさそうだが、喜びをあからさまに表現してくるわけではない。その距離感が新鮮で心地よく、いとおしさを募らせる。

 由香さんは段ボールハウスをいくつも制作し、毎日じゃらし棒を振り、完全室内飼いの大福が家の中で楽しく暮らせるようにと努めた。

体が小さかった

 2カ月ほど経ったとき、由香さんはもう1匹猫を迎えること考えはじめた。2匹いれば遊び相手がいて退屈しないし、飼い主が留守でも、忙しくて構ってあげられなくても、寂しい思いをさせなくてすむ。そう、猫飼いの先輩たちから聞いていたからだ。

 こうして、大福と出会った翌年の3月にやってきた「春」は、同じく福島の被災地で保護された雄猫だ。大福の縁で知り合った、ボランティアの女性を通して譲渡してもらった。

 毛は白く、ところどころにこげ茶色のぶちがあり、正面から見ると前髪を分けたような柄は大福に似ている。ウェブサイトで写真を見て一目ぼれをし、面会を申し込んだ。

くつろぐ猫
「ぼくはエスニックなインテリアにもぴったりでしょ」(小林写函撮影)

 実際に会ってみると、月齢10カ月にしてはからだが小さかった。住民が去ったあとの原発被災地で生まれ、生粋の野良猫として育ったらしい。食べるものも満足に見つからないなか、自分より幼い猫たちをかばうようにしながら懸命に生きていたと聞き、涙がこぼれた。

すぐに意気投合

 穏やかな性格の春と、物事に動じない大福は、すぐに意気投合した。2匹並んで静かに庭を眺めていたかと思えば猫プロレスを始め、落ち着いたかと思えば、いつの間にかくっついて眠りこけている。まるで本当の兄弟のようだ。

 痩せていた春は、あっというまにふくよかになった。由香さんがつくるアート作品には、ひんぱんに猫のモチーフが登場するようになった。

なでてもらう猫
「春は頭にハって書いてあるんだ」(小林写函撮影)

 2匹のかかりつけ獣医は、由香さんの中学時代の同級生の「陽子ちゃん」だ。動物が好きで子どもの頃から獣医を目指し、実家のある街で開業をした。小学校では動物ふれあい授業なども積極的に行い、子どもたちに生命の尊さを伝えている。

 愛犬なつが慢性腎不全になったきも、最後まで親身になって治療に向き合ってくれた。家族ぐるみのつき合いなので、ささいなことでも雑談を交えて気軽に相談できて心強い。

 幸いにも、大福も春も病気らしい病気はしたことはなく2年が過ぎたとき、大福に変化が起こった。発端は、由香さんが3匹目の猫を引き取ったことだった。

◆由香さんのInstagram

(次回は2月12日に公開予定です)

【前の回】愛犬を病気にしてしまったのは私 罪悪感と自責の念を抱え、治療に向き合った1年半

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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