恐怖心から解放された保護犬「福」 ついに楽しく歩けるように

試行錯誤を繰り返し、少しずつ少しずつ外に慣れていきました

 月刊誌『天然生活』『ESSE』で編集長をつとめ、数多くのヒット書籍をつくり続けている編集者の小林孝延さんは、3年前に困り顔の保護犬「福」を迎えました。人に心を閉ざし散歩が嫌いな福となんとか信頼関係と築こうと、試行錯誤します。

保護犬「福」と信頼関係を築きたい

 なかなか懐いてくれない保護犬福。どんなにおいしい餌を手に「福ちゃーーん」と猫なで声で愛想よくしようが、心は固く閉ざしたまま。

 そんな悩みを抱えているとーさんに散歩中に出会った方が教えてくれたのがアメリカのカリスマ的ドッグトレーナーで動物行動学者のシーザー・ミランの本「犬と幸せにくらす55の方法」。

 藁にもすがる思いで、むさぼるように読んだとーさんは、福との信頼関係を築くべく、さっそくシーザーの教えを実践してみました。

シーザーの説く犬の「5つのおきて」とは
1犬は本能の動物だ
2犬はエネルギーがすべてだ
3犬はあくまで動物だ。犬種や名前はその次のはなし
4犬は感覚で現実を理解する
5犬は社会的動物である

散歩に行こうとするとこんな顔で嫌がる

 これらを理解するのがまずはスタート地点。犬は人ではありません。だから言葉でコミュニケーションを取ろうとするのは大間違い。言葉を持たない犬にはエネルギー(体全体から発せられる気配や表情など)で伝えるのが大事なのです。

 人間の言葉を聞くときも犬たちはその調子や抑揚ではなく、声に込められたエネルギーを受け止めて反応しているというのです。

犬は群れで役割を持つ社会的動物

 そして「犬はあくまで動物であり、過去も未来もなく、今だけを生きており、目の前の欲求しか頭にない。あるのは本能だけで安全なねぐらと食べ物と水が確保できて子孫を残すことがすべて」。

 そして狼を先祖とする犬は群れの中でそれぞれの役割をもっている社会的動物である。このおきてを理解しなければならないというのであります。

駆け寄りたいけどぐっとがまん

 そこでまずはとーさんが「小林家」という群れのリーダーであることを福に認めさせることからはじめました。ポイントは「触れず、話さず、目を見ない」。

 仕事から帰ってきてもしらーーーん顔。リビングに入ってきてほかの家族とは話しても福のことはあくまでも無視です。この空間のリーダーは俺だ!!とばかりに振る舞うのです。

とーさんがリードを手にするとテーブルの奥に隠れてしまう

 ほんとは「会いたかったよーーん」と駆け寄りたいところですがぐっとがまん。目すら合わせません。そうすると、少したってからそーーっと福のほうが寄ってきて足もとをスンスン嗅いでくるのです。

落ち着いてきた愛犬「福」

 苦しゅうない、近こう寄れ。リーダーは自分から犬の元へすり寄って行ったりはしないのです。寄ってきてもあくまでも「リーダーだぞ!」という姿勢を崩さないのがポイントです。これを日々繰り返すことで、不思議や不思議、とーさんから逃げ回っていた福の行動がとても落ち着いてきました。

 むしろこちらに対してはっきりと興味を示すようになってきたのです。散歩に行くためにリードを手にした時も、逃げ回ることもなく、まるで観念したように耳を後ろにおり、尻尾をほんの少しだけ振って、とーさんに身を委ねるようになってきました。

 おそらくそれまでのとーさんの表情には「福ちゃん寄ってきてくれるかな、嫌われないかな、ドキドキ…」「リード繋がせてくれるかな。大丈夫かな」と不安のエネルギーがドバドバとあふれてでていたのでしょう。

不安がることをやめた

 次のステップは散歩です。当時の福は散歩嫌いだったというのは前回書いたとおり。しかし散歩はリーダーと犬の信頼関係を作るためにも絶対に行ったほうがいいというのがシーザーの意見です。

 群れとして行動し、働いた結果、餌にありつける。犬が犬として、犬らしく行動する基本が散歩という行為に凝縮されているのです。

 ここでもまずはリーダーであるとーさんが「今日の散歩大丈夫かな…福は暴れないかな」と不安がることをやめました。とーさんと福が歩くここは自分たちのテリトリーである。そしてこのテリトリーのリーダーこそが吾輩である!と思い込むのです。

動揺も見せないように

 わいは犬のリーダーや! 

 そう思うとなんだかそんな気がしてくるから不思議なものです。そして仮に福が恐怖心のあまり逃げ出そうとしたり、パニックを起こしたりしてもとーさんは絶対に動揺を見せない!

 ここで、慌ててか弱い声などだそうものならぶち壊しです。低く威厳のある声で「ノー」と号令をかけ、リードをぐっと張る。そうすることにしました。

近所の公園へお散歩訓練。迷惑そうな困り顔…

 するとこれまたどんどん福ががんばって歩くようになってきたのです。これまではリードを通してとーさんの気持ちは福にお見通しだったのでしょうねえ。

「頼りになるリーダーの存在は、犬にとって食べ物と同じくらい重要だ」とシーザーは言います。リーダーに命令されて動きたいのが犬であり、この本能をしっかりと満たしてやることが大切なのです。

だれもいない時間に散歩を

 しかしそうはいっても、臆病者の福ですから。コンビニの入り口にたむろする若者たち、ガラガラ大きな音を立てるごみ収集車、新参者に興味津々の近所のわんこたち…どれも恐怖の対象です。とにかく耳をそばだてて少しでも不穏な気配があれば逃げて帰ろうとするんですね。

 そこでとーさんはいっそだれもいない時間帯に散歩しよう!!と決意。まだ人も車もゴミ収集車も動いていない午前4時から散歩することを日課にしました。

普段はリビングが福の寝ぐら

 陽も上がっていないこの時間、街はとーさんと福だけの空間になります。一日目より二日目、二日目よりも三日目、一週間、10日、日が経つにつれ恐怖心から解放されていく福。

 以前は股の間に丸めていた尻尾が、しゅっと上をむくようになりました。足取りも軽くなり、時々振り返りながらも、決まったルートなら、楽しく歩けるようになったのです!

 とーさんの楽しい気持ちがリードを通して福にも伝わっているのが実感できました。早起きはちょっとつらいけど、福のそんな姿を見られるのならがんばれるというものです。

 家を出てから帰るまで、はじめてゆっくりと楽しく散歩できた日のことは今でも忘れませんね。ああ、こんな日がくるなんて。この早朝の散歩はそれから今もずっと続けているのです。

◆小林さんが発行人を務める月刊誌『天然生活』のサイトはこちら

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小林 孝延
福井県出身。編集者。月刊誌「天然生活」創刊編集長、「ESSE」編集長を経て現在は(株)扶桑社執行役員兼編集局長。

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とーさんの保護犬日記
困り顔の元保護犬「福」の「とーさん」になった編集者の小林孝延さんが、いとおしくも前途多難な保護犬ライフを語ります。
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