散歩中の柴犬が、次々と子猫を発見 14匹それぞれ温かな家へ

 柴犬「殿介(でんすけ)」の特技は、朝夕の散歩中に、捨てられたばかりの子猫や衰弱したノラの子を見つけること。4年半で、殿介の散歩中に保護された子猫たちの数は、なんと計14匹になった。

(末尾に写真特集があります)

保健所から引き出されて

 殿介は、由美さん夫妻と、茶与(さよ)・班奈(はんな)という姉妹猫と一緒に、関東西部の温泉町に暮らしている。

 房総からはるばるやってきた7年前の推定年齢は3歳。今は10歳くらいの壮年期にさしかかる。いきさつはわからないが、元の飼い主から保健所が引き取ったという。「おとなしい犬なので引き出してやってほしい」と保健所から保護団体に連絡があり、引き出された。

 ちょうど犬を飼おうと思っていた由美さんは、ネット上の譲渡募集を見て、殿介の「笑顔」にひと目ぼれし、譲り受けた。

「だけど、うちにきてしばらくは、笑顔も見せず、尻尾も振らなかった。半年過ぎてようやく笑顔になりました。今では笑いっぱなし。寝てても笑ってます」

ほめられて、照れる殿介
ほめられて、照れる殿介

「子育てって、楽しい!」

 殿介は散歩が大好きだ。朝1時間、夕方2時間の散歩を由美さんと楽しんでいる。散歩コースは何通りもあり、市内くまなく歩く。

 散歩の途中に殿介が子猫を見つけたのは、4年半前の夏が最初だった。公園に捨てられたばかりらしい2匹は、シャーシャーと逃げ隠れ、その日はどうしても保護できなかった。翌朝は雨。公園に子猫たちの姿は見当たらない。藪の中でぐったり寄り添う2匹を殿介が探し当てたとき、片方は意識のない状態だった。

 2匹を、殿介はとても可愛がった。お尻をなめてやったり、遊んでやったり、ちょっと大きくなると階段の上り下りを教えてやったり。その2匹が、今も一緒に暮らす茶与と班奈だ。

 子猫の可愛さに目覚めたのか、殿介の子猫発見の嗅覚は研ぎ澄まされていく。散歩中に次々と、捨てられたり親にはぐれたり衰弱したりしている子猫を見つけ出した。

保護猫「おにく」(右)「こげた」(奥)の面倒を見る殿介(由美さん提供)
保護猫「おにく」(右)「こげた」(奥)の面倒を見る殿介(由美さん提供)

病院、保護猫カフェがお手伝い

 保護した子猫は、散歩ルートの途中にある動物病院で洗ってもらってから連れ帰り、殿介の大協力のもとに育てる。500グラムを超えて、白血病・猫免疫不全ウイルス感染症・コロナウイルスなどの検査を受け、譲渡先探しが始まる。病院のHPを見た人にもらわれた子もいれば、病院スタッフにもらわれた子もいる。

「この調子で殿介が子猫をどんどん見つけたらどうしよう、と思っていたら、院長先生が、獣医つながりでここなら信頼できるからと、保護猫カフェ『鎌倉ねこの間』でおうちを探していただくルートも作ってくださり、ほっとしました」と、由美さん。

 殿介は、自分で見つけ一生懸命育てた3番目の子がもらわれていったときは、家じゅうを探し回っていたという。

「私たちも殿介と同じように別れはつらかった。そのうち殿介は、『いなくなる子はよそでしあわせになるんだ』と理解したようで、玄関でサヨナラができるようになりました」

トラたち発見時。すでに冷たくなっている子も(由美さん提供)
トラたち発見時。すでに冷たくなっている子も(由美さん提供)

段ボールに生まれたての7匹

 3年前の寒い朝のこと。散歩で公園を通りかかると、「ピー」とかすかな鳴き声がした。鳥の声かと由美さんは思ったが、殿介はすぐさま反応した。

 すべり台の下に隠すように置かれた段ボール箱には、まだ目も開かず、へその緒がついたままの子猫が7匹。すでに冷たくなっている子や息絶え絶えの子もいた。懸命の手当ての末、なんとか命が助かったのは3匹だった。

「車に乗せて、職場まで連れて行き、休み時間にミルクを与えて育てました。その1匹『トラ』も『鎌倉ねこの間』さんにもらわれていき、新入りの面倒をよく見るのでスタッフ猫となり、教育係として活躍しています」

 殿介の散歩中に保護した子猫はこれまでに14匹。よそで保護されて預かった3匹も入れれば、由美さん宅で過ごした保護猫は17匹。自宅猫となった2匹以外、15匹はしあわせに送り出した。10番目からは、通し番号由来の仮の名にした。

 10番目の「イト」は、足が折れてぴょこぴょこ歩いていたノラの子である。今は足も治り、新しい家で元気に暮らしている。

 昨年夏に殿介が見つけた14番目の「イヨ」は、ノラ母さんのそばで、やせ細り命尽きようとしていた。「この子はあなたの手に負えないから、連れて帰るね」と由美さんが抱き上げた我が子を、母猫は道ばたで見送った。イヨは連れ帰る途中で心臓が止まってしまったが、奇跡的に生き返り、現在は「鎌倉ねこの間」のアイドルとなり、卒業を待つ。

ねこの間の新人教育係となったトラ
ねこの間の新人教育係となったトラ

外壁からの救出劇

 昨年10月の散歩中には、殿介より先に由美さんが子猫の必死の鳴き声に気づいた。お年寄りがひとりで暮らす家で、トタンの外壁の中にノラの子が入り込んで、出られなくなったらしい。

 住人の了解を得て、駆けつけた夫と二人で壁のさびた部分をそっとはがした。見守っていた殿介は、子猫が救出された瞬間、“よかった、よかった”と大喜び。出てきた子猫は、なぜかまっすぐ殿介の元に駆け寄り、殿介はさっそく前歯でカチカチカチと毛づくろいしてやったという。

 この15番目に救われた「イチゴ」は甘えん坊で、12月に「鎌倉ねこの間」に送り出すときは別れがつらかったが、「どうせまた、殿介が見つけて子猫がやってくるから」と、由美さん夫妻はおおらかに笑う。

ねこの間のイチゴ。譲渡先が決まったばかり
ねこの間のイチゴ。譲渡先が決まったばかり

「いいおうちを見つけようね」

 でも、由美さん夫妻・動物病院の先生・鎌倉ねこの間チームの本当の願いは、殿介の特技が生かされる機会がどんどん少なくなっていくことだ。家のない猫や捨て猫や未手術の外飼い猫がいなくなることが、最終目標なのだから。

 地道に確実に活動を続けていくため、保護猫を抱え込み過ぎることなく、キャパはそれぞれ決めてある。また、子猫たちが二度とつらい思いをしないように、病院でも「鎌倉ねこの間」でも、譲渡条件は厳しくしている。

 殿介一家と「鎌倉ねこの間」を結ぶ要となる動物病院の女性院長は、保護や啓発に日々心を砕きながら、つらい思いをした末に救われた子猫たちにこう語りかける。

「ペットショップで売買されている子たちは、おうちを選べない。でも、あなたたちは選べるのよ。ぴったりのいいおうちを一緒に見つけようね!」

 その思いが一番よくわかっているのは、温かい家族を得た殿介かもしれない。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」連載は8年目。

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