先に老いる犬たち 最期まで飼う喜びと覚悟、考えさせる2冊

『おじいわんソーヤ』
『おじいわんソーヤ』

 今年に入って「老犬」をテーマにした本が相次いで出版されました。5月に出た『おじいわんソーヤ』(講談社)と9月に出た『老犬たちの涙 〝いのち〟と〝こころ〟を守る14の方法』(KADOKAWA)の2冊です。両書とも老犬の写真を表紙にあしらっているのですが、その表情があまりに対照的で、人と犬との関係の両極性をまざまざと見せつけらます。

 『おじいわんソーヤ』は、著者の東雲鈴音さんと16歳の老犬ソーヤ(本名は颯也)の日常を描いています。ソーヤは10歳の時、動物愛護団体から東雲さんのもとにやってきました。東雲さんは「最初に会ったとき、せつない雰囲気の犬だなあと思いました」と記します。

 老いていくソーヤの日々は、とてもいとおしいものです。ある電柱に残された「手紙」(ほかの犬のおしっこのにおい)を熱心に読む。強風にあおられて、尻餅をつく。畳の上でべったりと横たわって寝る姿を、東雲さんは「平泳ぎっぽく寝ている」と表現したかと思えば、よく眠っている様子に「最近は微動だにしないと不安になって少し揺すってみたりする」とつづります。

 この本を手がけた編集者の堀沢加奈さんは「味のあるかわいさ、一緒に暮らす楽しさとせつなさを通して、いろいろ伝えられることがあるのでは、と編集しました」といいます。

『老犬たちの涙 〝いのち〟と〝こころ〟を守る14の方法』
『老犬たちの涙 〝いのち〟と〝こころ〟を守る14の方法』

 一方の『老犬たちの涙』。この本でフォトジャーナリストの児玉小枝さんが取り上げたのは、自治体の収容施設で「命の期限」を待つ老犬たちの姿です。ソーヤの身の上にも起きたかもしれない、飼い主に捨てられた老犬たちがたどりうる、もう一つの過酷な運命が丹念に描かれています。

 たとえば、関東地方の自治体に収容された15歳の柴犬。高齢の飼い主が老人ホームに入るため飼い続けられなくなり、持ち込まれたといいます。犬舎のなかをヨタヨタと歩き回り、段差に足を取られる。自力で動けなくなるたびに、遠ぼえのような鳴き声をあげる。

 老いるまでの長い時間を飼い主のもとで過ごしながら、最期の時を、鉄柵に囲まれた薄暗い収容施設で迎える犬たちを、児玉さんは文章と写真で伝えます。自治体や動物愛護団体から新たな飼い主に譲渡される犬たちのほとんどが子犬、そして若犬。老犬には、引き取り手が現れにくい残酷な現実があるのです。

 東雲さんは、「ソーヤ」が「終(つい)の名前になりました」と書きます。一方で児玉さんが出会った老犬たちは飼い主に捨てられ、名前を失ったまま、収容施設で殺されていきます。犬は人に、有形無形たくさんのものをくれます。でも人は、時に与え、時に奪うこともするのです。

 犬も猫もペットたちは、いつしか飼い主の年齢を追い抜き、先に老いていく存在です。その姿を見守るのは、ほほえましくもあり、うら悲しくもあります。最期まで飼う喜びと覚悟を、両書を通じて改めて確かめることができます。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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