猫ブームに一石 「かわいい」では済まぬ現実を知る1冊

世は「猫ブーム」だ。ペットショップもそしてメディアも、モフモフかわいい猫の魅力を日本人にすり込みにきている。
だがちょっと待ってほしい。かつてのハスキー犬ブームやチワワブームが何をもたらしたか、皆、忘れてしまったのだろうか?
8月18日に発売される『シュウさま 保護猫カフェからやってきた、3本足のモフ天使』(WAVE出版、1300円+税)の表紙には、そのタイトル通り、そして猫好き読者の期待通り、モフっとしたかわいいキジ白猫・シュウの姿が大きく写っている。そして本文でも、本書の「帯」にあるようにツンデレな猫の日々の暮らしが、たっぷりの写真とともに描かれている。
だがこの本を手に取り、読み進んだ読者は、ブームの「参加者」にはならないだろう。それは、主人公の猫・シュウがもとは保健所で殺処分を待つ身だった、という事実だけによるものではない。シュウを保健所から保護してきた、保護猫カフェ「ねこかつ」店長の梅田達也氏によるコラムに触れるからだ。


「シュウ、お前との付き合いも長かったような気もするし、一瞬だったような気もするよ」
そんなくだりから始まる一文がある。シュウとの出会い、回復の過程、そして新たな飼い主へともらわれていく別れが書かれたこのコラムからは、梅田氏の猫たちへの無限の愛情と、その猫たちを巡る社会環境への強い怒りが伝わってくる。
梅田氏は2013年3月、埼玉県川越市内に保護猫カフェ「ねこかつ」を開業した。これまでに約400匹もの猫たちに、新たな飼い主を見つけてきた。そして、真摯で精力的な保護猫活動の一方で、犬や猫の生体販売のあり方に疑義を呈し続けてきた。
猫ブームは「猫の犠牲の上に成り立っているのではないでしょうか?」と、本書でも梅田氏は、読者に投げかけている。
猫はかわいい。猫が生活のなかにいることで、深く癒やされる。確かにその通りだ。
だからこそ、そう思う人たちに、ぜひ本書を手にとってみてほしいと思う。
そして、かわいく癒やされる存在である猫たちの身の上に、人間によってたくさんの理不尽がもたらされていることを知ってほしい。人間による猫ブームは、人間のために起こっており、猫たちにとっては「不幸の始まり」になる可能性を大きく内包していることに気付くだろう。
猫ブームに、モフモフかわいい保護猫シュウが投じる大きな一石。それが本書だ。
(太田匡彦)


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