犬のケージ、必要な広さは数値規制の2倍 44年前ペット業界の先人が掲げた「数値」

先人たちが示した「数値」を明らかに満たしていない繁殖業者のもとで飼育されていた甲斐犬=2018年7月

 2011年末に中央環境審議会動物愛護部会でその必要性が提起された犬猫の繁殖業者やペットショップへの数値規制(飼養管理基準省令)が6月1日、ようやく施行された。

 これまでは定性的であいまいな基準しかなかったため、行政による効果的な指導が行えない現実があり、悪質業者が実質的に野放しになってきた。打開するため、この度ついに、繁殖用の犬猫を飼育するためのケージの大きさや、交配に使える雌の上限年齢、従業員1人あたりの上限飼育数などについて、具体的な数値を示した規制が導入されることになったのだ。完全施行は2024年6月に先送りされているとはいえ、ビジネスの犠牲になってきた犬猫を救うために、大きな一歩になることは間違いない。

数値規制の導入、10年前には既定路線に

 ところで、完全施行が3年も先送りされることになったのは、犬猫適正飼養推進協議会(会長=石山恒ペットフード協会会長〈当時〉)をはじめとするペット関連の業界団体が、規制によって廃業や飼育数の削減に追い込まれる業者も出るとして「13万匹以上の繁殖用の犬猫が行きどころを失う」「殺処分が増える」などと主張し、強く反発したことが背景にある。だが規制は、犬猫の飼育環境を改善するためのもの。業者には動物愛護法で「終生飼養の確保」を図ることも義務づけられている。改善努力を伴わないこうした主張は筋違いだろう。

 そもそも冒頭に書いたように、数値規制の導入は10年前には既定路線になっていた。そうであれば業者は、10年という時間を無為に過ごすのではなく、徐々にでも自ら飼育環境の改善に乗り出しておけばよかったのではないか。業界団体も、法規制による改善を妨げる努力ではなく、身内である業者に対して自主的な改善を求める努力をしていれば、結果的に数値規制の導入が必要なくなっていた可能性だってある。

40年前以上に提示されていた「数値」

 自主的な改善にあたっては、繁殖に携わってきた先人たちが示す「数値」が、大いに参考になったはずだ。40年以上前に提示されていた、二つの文書を紹介したい。いずれも、日本犬の保存に携わってきた先達が、主にケージの広さに関して残したものだ。

 まず、日本犬保存会(日保)の審査員などを務めた大竹重満氏が、197711月発行の雑誌『愛犬の友』に書いた「柴犬の犬舎と環境」から。大竹氏は「犬舎とは、愛犬の生活の中心の場であり、安住と休息の唯一の場所です」「犬の習性に適合した生活環境を配慮すること」などと前置きしたうえで、犬舎として必要な広さや構造などを示している。

 具体的には、「犬の自由を束縛するような構造はもっとも悪いこと」とし、「運動場つき」であることなどを求める。寝小屋の面積は「体をゆったりと横たえられる広さ」である約1.65平方メートル、運動場は「寝小屋につづいて犬が自由に動きまわる」場所であり、面積は約3.3平方メートルとする。環境省が数値規制で示した「運動スペース一体型(平飼い)ケージ」という考え方にあてはめると、面積は計約4.95平方メートルになる。

 では、数値規制のほうはどうなっているのか。数値規制の「解説書」で環境省が示した柴犬の体長は平均38センチだ。よって今回の数値規制で、柴犬を飼育する運動スペース一体型ケージに求められている面積は、約2.6平方メートルとなっている。

 次に、日保の顧問審査員である金指光春氏が「日本犬中型の犬舎」と題して、1977年6月発行の『愛犬の友』に書いた内容を見てみたい。「毎日の生活を心配なく安心して起居でき、健康保持のためにも最適な場所を愛犬に提供してあげるのは、飼育の三要素、いわゆる食事、運動、犬舎の中でも最重要の一つ」と指摘し、そのために必要な広さは、寝箱を置く犬舎について5平方メートル(間口2メートル×奥行き2.5メートル)、運動場は6平方メートルくらいとしている。あわせて11平方メートルになる。

 日保でいう中型の標準は雄で体高は52センチ、体長はその1.1倍を理想とするから57センチ程度。これを数値規制にあてはめる。運動スペース一体型のケージに求められる広さは約5.85平方メートルとなる。

ペット関連の業界団体は方向転換を

 先達たちが、動物福祉の考え方を先取りするような指摘とともに求めてきたケージの広さは、犬猫適正飼養推進協議会などの業界団体が強く反対していた今回の数値規制を、大きく超える水準だったことがわかる。数値規制の必要性が議論されるずいぶん前から、業界内でこれほどの水準の「数値」を自主的に掲げていたのに、ペット業界はなぜ問題を放置してきたのか不思議でならない。

 数値規制の施行は、日本が動物福祉先進国の仲間入りをする、一つのきっかけとなるだろう。ペット関連の業界団体もそろそろ、業界をあげて世界的な動物福祉の潮流と軌を一にする方向へと、転換してはどうだろうか。ここで紹介した先達たちは、もともとその先頭を歩んでいたのだから。

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太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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この特集について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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