「懸命に鳴き続けた子猫の命を未来へ」 動物遺棄・虐待に遭遇した際のチラシを制作

 動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がった「NPO法人どうぶつ弁護団」(Animal Defense Team)。当連載では、どうぶつ弁護団に所属する弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。

 今月の連載は、どうぶつ弁護団事務局より、新たに作成したチラシの紹介と、その背景を伝えます。

現場ですみやかに事件として対応してもらうために

「だれか優しい人に拾ってもらってね」と、飼えなくなったペットを捨てることも「動物遺棄」という立派な違法行為です。しかし、残念ながら動物の愛護及び管理に関する法律は、まだまだ認知度が高くありません。

 それは、警察の中でも同じです。

 段ボールに子猫が入っていて、【誰かもらってください】という張り紙がしてあるなど、あきらかに人為的に捨てられているようなケースに遭遇し、最寄りの交番に届けても「拾得物ですね。」と落とし物を拾った人として対応されてしまうことが多々あります。前述の状態で猫が発見された場合、正しくは「動物遺棄(動物の愛護及び管理に関する法律第44条3項)」事件として、対応してもらう必要があります。

 警察が事件として捜査してくれない場合、情報提供をいただいて、どうぶつ弁護団から刑事告発をさせていただく手段もありますが、事件は早期の現場臨場や採証活動がとても重要です。どうぶつ弁護団からの告発手続きがなくても、現場ですみやかに事件として対応してもらうためのお手伝いはできないだろうか? そういった思いから、「動物遺棄・虐待に遭遇した際に、ご自身にとっても警察官にとっても参考になるチラシ」を作成しました。

事件化・早期対応にはハードルがある

 今から6年ほど前のことです。道を歩いていると、大きな子猫の鳴き声が空き地から聞こえてきました。様子を見に行くと、口を縛られた米袋の中から聞こえてくるではありませんか。慌てて米袋を開けると、生後間もなく、いまだ目も開いていない子猫が2匹、袋の中にいました。急いで動物病院へ連れて行き、子猫の治療をお願いしてから、その足で近くの交番へ行きました。

口を縛られた米袋の中から子猫の声が(どうぶつ弁護団提供)

 状況を説明すると、「遺失物届けの提出がしたいんですか?」と言われました。私は状況からみて、うっかり落としてしまった落とし物である可能性は極めて低いと思うので、動物遺棄事件として捜査してほしいと伝えました。すると、警察官は電話をしはじめました。何をしているのか質問すると、「子猫を拾ったということを事件として扱っていいのか判断できないので、市の生活安全課へ問い合わせました。市でも判断できないので、今県警に問い合わせているようです」と言われました。

米袋の中から保護した子猫2匹(どうぶつ弁護団提供)

 1時間半ほど待ったところで、「事件として対応しますので、現場に案内してもらえますか?」とやっと事態が動き出しました。

子猫の遺棄、事件対応の流れ

 では、実際に事件としての扱いはどういう流れだったのか紹介していきます。

① 現場臨場
 現場を案内し、警察官が写真を撮ったり状況の聞き取りをしていきます。

警察官による現場での状況聞き取り(どうぶつ弁護団提供)

② 調書
 次に調書というものを取られました。簡単に言うと「私は誰で、いつ、どこで、どういうことに遭遇して、こういう風に思っています」という内容を細かく、具体的に聞かれ記録されます。

③ 証拠の採取
 米袋は証拠品として警察が預かり、もう1つの証拠品である子猫たちは入院先の動物病院にお巡りさんと行き、写真撮影や獣医さんの意見を聞きました。この時は診断書の作成までは獣医さんに依頼しませんでしたが、事件の内容によっては獣医さんに診断書の作成をお願いする場合もあります。

 通報者である私の役割はここまででした。その後は、警察の方で聞き込みや、米袋から指紋が採取できないかなどの捜査、目撃情報を集める掲示物の作成などが行われました。尽力してくれましたが、残念ながら犯人の手がかりはつかめませんでした。

目撃情報を集めるための掲示板(どうぶつ弁護団提供)

子猫たちの命を無駄にしないために

 動物病院へ緊急入院した子猫たちでしたが、すでにおなかの中に大量のウジがわいており、翌朝に息を引き取りました。命を捨てるということは、多くの場合、命を奪うことと同じです。

 生きるために生まれてきたはずの子猫たちの無念を晴らすことができません。しかし、
命尽きる前日まで、懸命に鳴いていた声をカタチあるものに変えて社会に届けていくことはできるはずです。

 今回どうぶつ弁護団では、「動物虐待を見つけたら?」というチラシを作成しました。

 では、チラシにはどんなことが書いてあるのか、解説していきたいと思います。

① 証拠を残し通報する
 動物虐待を見つけたら、まずは現場の状況を写真や動画で撮影し、通報しましょう!

こんなケースが虐待に該当します、という例も記載しました(どうぶつ弁護団提供)

② 通報先
 動物がケガをしているなど緊急性がある場合は、警察に通報しましょう。動物虐待の担当部署は「生活安全課」です。きちんとお世話がされていない、ネグレクトかもしれない……けれど判断しきれない、という場合は、「動物愛護センター」や自治体の「環境衛生課」に相談してみましょう。

チラシには通報先も明記(どうぶつ弁護団提供)

 通報したものの、現場に来た警察官がどう対応すればいいか迷っているようであれば、このチラシを見せて、早期の現場臨場、動物の保護、採証活動、目撃者の確保が必要な事を把握してもらい、素早い対応を促しましょう。

どんな場合に、どの罪に該当する可能性があるか、対象となる動物のカテゴリーなども記載しています(どうぶつ弁護団提供)

 このチラシを活用いただくことで、いまだ認知度が低い動物遺棄虐待に対しても、きちんと事件として認識してもらい、早期の現場臨場や採証活動といった迅速な捜査と動物の保護に役立つことができれば幸いです。

 このチラシは、どうぶつ弁護団のHPからPDFにてダウンロード可能です。印刷してご自由にお使いください。

どうぶつ弁護団が制作した、動物遺棄・虐待に遭遇した際に、ご自身にとっても警察官にとっても参考になるチラシ(どうぶつ弁護団提供)

(次回は2025年1月22日公開予定です)

【前の回】「動物虐待って?」 人と動物の笑顔のために、みなさんが出来ること

NPO法人どうぶつ弁護団
2022年に設立した、理事長の細川敦史弁護士を筆頭に弁護士と獣医師で構成された、動物虐待事件について捜査機関に対する刑事告発などを行うNPO法人(英語表記:Animal Defense Team)。警察へ被害届を提出することも、動物病院へ行くこともできない声なき動物を護るため、専門家と連携して動物目線で動物の声を伝え、人と動物が共生する優しい社会の実現を目指している。https://animal-dt.org/

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この連載について
どうぶつ弁護団からの便り
どうぶつ弁護団
動物たちを虐待から守るために、2022年に立ち上がったどうぶつ弁護団(Animal Defense Team)は、動物を愛する弁護士たちが中心となって活動しています。当連載では、動物虐待に関する情報や、どうぶつ弁護団への思い、ときにはかかわった事件の話など、どうぶつ弁護団に所属する20名以上の弁護士・獣医師メンバーからの便りを紹介します。
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