ヴィーガンの世界へ扉を開く一冊 取材のやり取りを一問一答形式で紹介も

平飼いで自由に暮らす鶏たち(山梨県甲斐市の「黒富士農場」、大脇幸一郎撮影)

 「ヴィーガン」と入れると31件がヒットした。一方、「ビーガン」では64件だった。記事検索データベースで朝日、読売、毎日の過去1年分の記事を調べてみた結果だ。一つの言葉について二つの表記が併存しているということは、それだけその言葉およびその言葉が意味するところが社会に浸透していないことの裏返しだろう。本書『ヴィーガン探訪』(角川新書)は、著者自身が「未知の森」と表現する、そんなヴィーガン世界への扉を優しく開いてくれる1冊だ。

 著者の森映子さんは『犬が殺される 動物実験の闇を探る』(同時代社)を著すなど、動物問題のなかでも特に実験動物にかかわるテーマを深く取材してきた。本書を書くにあたっては「非ヴィーガン」という立ち位置をはっきりさせている。それだけに本書は、ヴィーガンという存在やその人たちの考え方を、一歩ひいたところから冷静に浮き彫りにしていく。

 取材対象者とのやり取りの多くを一問一答形式でそのまま載せているのが象徴的だ。たとえばヴィーガンの人に「培養肉が商品化されたら食べますか」「肉食や乳製品を食べたくなることはありますか」「ほぼ野菜だけでおなかは空きませんか」と率直に尋ね、PETAに告発されたある食品メーカーには「PETAの動画について見られましたか」「農場に取材を申し込みたいのですが可能でしょうか」などと迫る。それぞれがどんな回答をしたかについてはぜひ本書を手に取っていただきたいが、読んでいるうちに、「未知の森」を森さんとともにしっかりとした足取りで進んでいる気分になる。

 自分がヴィーガンになるかどうかは別にして、近い将来、ヴィーガンという考え方またはあり方は、日本社会においても無視できない存在になっていくことは間違いない。世界的な潮流であるアニマルウェルフェアの問題に直結しているだけでなく、環境問題や健康問題にもつながるものだからだ。まずは知ってみる、その最初の一歩を、本書とともに歩み出してみたらいいかもしれない。

ヴィーガン探訪 肉も魚もハチミツも食べない生き方
著者:森映子
発行:KADOKAWA
定価: 990円+税
ページ数:256ページ
太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。
この連載について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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